国王の予知夢

不労つぴ

国王の予知夢

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 テンドラー王国の王は定期的に見る悪夢に悩まされていた。


 ただの悪夢であれば、一笑に付すことができるのだが、そうできない理由が国王にはあった。


 代々テンドラ―王国の国王は予知夢を見ることができた。


 言い伝えによると、遠い昔に神々の戦争に破れ、地上に落ちてきた神を国王の先祖が助けたことによって得た能力とのことだった。


 歴代国王はその力を使い、今まで国を栄えさせてきた。


 あるときは洪水が起きるのを予測してあらかじめ川沿いの住民を避難させ、あるときは蝗害の発生を予知し、穀物を事前に収穫し備蓄していた食料を国民に分け与えるなど。


 その力があったから弱小国家であったテンドラ―王国も数百年の間存続してきたのだった。


 現王も名君と呼ばれ、国民から愛されていた。


 だが、夢から覚めた国王は名君とは程遠い憔悴しきった表情で悩んでいた。


「これまではただの悪夢だと思っていたが、これで9回目だ。これは流石にただの悪夢ではあるまい」


 国王が見た夢の内容とは、未来のどこかの国が軍備増強を図り戦争に備えている夢だった。


 予知夢の中では、未来のどこかの国の風景が映し出されていた。

 その国では戦車や戦闘機、ミサイルなどを潤沢に蓄えており、まるで今にも他の国を攻め落とすかのような準備をしていた。


「私が夢を見るたびその国はどんどん発展している。前までは兵も銃を持っておらず槍や斧だったのが今では兵士の全てが銃を手にしている」


 国王は、その国がいずれ自身の国を滅ぼすのではないかと心底不安にかられた。


「私は大変なことを知ってしまった……おそらくあの国は遠い未来、我々の国を滅ぼしに来るだろう。だが、そうはさせん」


 国王はその日を境にテンドラー国の軍備の増強を推進し、来るべき戦争に備えた。

 反対する国民や家臣すらも弾圧し、心を鬼にして尽力した。


 全ては愛すべき国民を来たるべき侵略から守るために。


 国王が亡くなって100年後、テンドラー国は今も他国の侵略に備えて軍備の増強を続けていた。


 この100年でテンドラー王国の兵士たちの装備も


 そう――国王が見た予知夢は100年後の自国、テンドラー王国の姿だったのだ。

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国王の予知夢 不労つぴ @huroutsupi666

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