第2話 準備開始

アンナはワルトの横を歩いていた。

 門とは別の方向に向かっていて不安になり、ワルトに尋ねた。

「あ、あの、どこに向かっているんですか?」

「それはね、武器屋と薬屋と……食料はあるからそれくらいでいいかな?」

(薬屋に行くのはわかるけど何で鍛冶屋に行くのだろう?)

 ワルトはアンナより大きな大剣を背負っていてもう武器はいらないはずなのに武器屋に行くと聞いてアンナは疑問に思った。

「はは、何で武器屋に行くのかなって顔をしているね」

 考えていた事を当てられて、アンナは少し吃驚して目を見張った。

「は、はい」

「それはアンナちゃんのナイフを買いに行くんだよ。あ、もちろんお金は僕が出すよ、銀貨一枚では流石に買えないからね」

(? どうして今までナイフなんて使った事はないのにわざわざお金を払ってまでナイフを買うのだろうか)

「アンナちゃんは考えている事が顔に出やすいね。ナイフってのは色んな使い道があるんだよ。肉を捌いたり、歩きやすいように枝を切ったり、買ってても損はないよ。いざという時は武器になるし」

 まあ、僕がいるから武器としては使わないと思うけどね。とワルトは続けて言った。

「それにさっき依頼を受ける条件に手伝ってもらうって言ったでしょ。僕は金級冒険者だけど見ての通りソロだからね、手伝える所は手伝って欲しいからね」

 そんなワルトの言葉に今までナイフを使ったことなど無いアンナは不安になった。

 それに加えて、とても少ない報酬で依頼を受けて貰っているのに、さらにナイフまで買って貰えると聞いてアンナは申し訳なくなり断ろうとした。

 「で、でも私は今までそんな事はした事が無いし、わざわざお金を払ってまで買う必要はないんじゃ……」

「大丈夫、僕が教えるから、それに今出来るようになったら今後の人生に活かせるしね。後、お金の事は気にしなくていいからね、まだ子供なんだからそんな事は大人に任せておいて」

 そう言ってワルトはアンナの頭を撫でた。

 (私なんかが優しくしてもらってもいいの?でもワルトさんはそれでいいと言っているし、それに私に優しく接してくれる大人に出会った事なんて今まで生きてきた中であったかな?嬉しいな)

 アンナはそう思うと涙が浮かび上がってきて、でもそれを見られてるのが恥ずかしくて顔をそむけた。

「ありがとうございます。それならナイフがなくならないうち武器屋に急いで行きましょう」

「はは、そんな急がなくてもいいよ。あ、聞くのを忘れていたけどアンナちゃんって魔法は使えるの?」

 

「っつ!」

 

 ワルトの何気ない、何の変哲もない言葉にアンナは息をのんだ。

 その質問はアンナにとって思い出したくないものを思い出さしてくる物だったからである。

 

 『チッ、もうお前には利用価値がない、もう私に話しかけるな!』

 『私は貴女のような能無しを産んだ覚えはない、さっさとここから消えなさい』

 『おいゴミ、俺に感謝しろよ、わざわざ餌を運んであげたんだ。しっかり食えよ、ゴミはゴミらしく腐った食べ物をな』

 『ねぇ、聞いた?当主様たちはあの子の存在をなかった事にしようとしてるらしいよ、実際に誰もあの子のことを家族のように扱ってないし、もしかしたら私達が何かしても何も言ってこないかもね。ちょうど不満も溜まっていることだしあの子に八つ当たりしてみない?』

 

 屋敷にいた時の記憶がどんどん浮かんで来て屋敷にいた人の声が脳裏に響き渡り、アンナは耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。

(ごめんなさい、ごめんなさい、私のようなのが家族でごめんなさい。ちゃんとお父さん達の前から消えますから)

 アンナは頭の中で何度も何度も謝り続けた。

 その時、屋敷の中にいた人達ではない人の声が届いた。

「――ちゃん!――ンナちゃん!――アンナちゃん!」

「……あっ、ワルトさん?」

 焦っているワルトの声で脳裏に響きわたっていた声もなくなった。

「大丈夫?急にしゃがみ込んで、僕が何か悪いことを言ったんだよね。ごめん」

「あっ、いえワルトさんは何も悪くないですから!」

 それでもワルトは心配そうなような顔をして「ごめんね」と言った。

「何があったのかは聞かないよ、思い出したくないだろうしね。でもここは大丈夫だよ、君に危害を与える人はいないし、もし、いたとしても僕が守るからから安心して」

「はい……ありがとうございます」

 アンナはそう言って立ち上がりまた前を向いて歩き出した。まだ泣き出しそうだったけど無理に笑顔作っている表情を見てワルトは何か決心したよう顔をした。

「まずは武器屋から行こうか」

 

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