追放されたヘルプデスク、異世界でもCQC奥義でたらい回す

風波野ナオ

異世界でもヘルプデスクの奥義でダンジョンを攻略せよ!

 全くもってツイてないな。


 俺ではなく、目の前にいるモンスター、いわゆるゴブリン的な奴らの話だ。こいつらは薄笑いを浮かべて、今まさに襲いかかろうとしている。だが残念、お前らは5分と持たずに戦闘不能だ。


 ハードな不運とダンスしちまったと諦めてもらおう。セリフ合ってるかな?


「ちょっと、アナタは戦闘経験がないって言ってたのに、大丈夫?」


 隣で相棒のミオが心配しているが……


「君の方こそボロボロで、こいつらとやりあうのは無理だろ」


 ミオは歯ぎしりする。悔しそうだ。


「ちょっと離れていてくれ。ヘルプデスクCQC奥義『いなし』を拝ませてやるよ」

「ヘル……シーキュ……ってなに?」


 それは、ヘルプデスクに伝わる天下無双の奥義。この技の前では誰であろうと、たらい回しで全てを諦めることになるのだ。私がかつてエビスチョウにある組織へ属していた頃、これを習得していた。ちなみに奥義は108もある。他にはエスカレーションとか、対応切り分けとか。


 ミオが下がるのを確認すると、俺は技のポーズを取る。顔には商売人のような笑みを浮かべ、手はスリスリで腰が5センチ低くなる。そして、いきなり深くお詫びした。


「いやー、大変でしたね。お怒りのお気持ち、よくわかります。私もこのような症状になったことがございますので」


 PCが止まって怒鳴り込んできたユーザを丸め込むようになだめる。ゴブリンは毒気を抜かれ、きょとんとしている。

 かかったな。


「私にぜひ解決のお手伝いをさせてください」


 ブンッ

 

 いきなりしゃがみこんで、回転し、足払い。前衛の3体は、不意に飛んできた足でこけてしまった。



「まず再起動してみましょう。それで、ほとんどのトラブルは解決します。いかがでしょうか」


 起き上がった3体は爽やかな顔をしていた。頭を打って意識が再起動したのだ。

 再起動により、今何をしていたのかも忘れた。

 そして、すっきりした様子でいずこかへ帰っていった。


 残り4体は警戒して盾を構え、短剣を突き立ててきた。

 が、遅い。新規PC導入時にユーザから矢のように飛ぶ質問とは比べ物にならない。

 私はそれらを軽いステップでことごとくよける。

 そして、ポケットからUSBメディアをいくつか取り出す。


「治りませんか。それではOSから再セットアップしてみましょう」


 ゴブリンは私の攻撃を避けようとするが、やはり遅い。

 取り出したUSBメディアを4体の頭に差し込む。中身はOSインストールメディアだ。

 数分後全て入れ直したPCのように頭が空っぽになったゴブリンが3体、アテもなくどこかへ行ってしまう。


 残りは1体。こいつは再セットアップが効かなかった。メディアはWindows用だったが、もしかしてこいつMacか?

 いや、こいつはハードの故障だ。そういうことにしよう。


「これで治らないあなたは故障の可能性があります。このダンジョンの最下層に修理工場がありますので、そちらへ持ち込んでください。保証があれば無償交換修理となります」


 適当な場所を書いた紙を渡す。

 えっ、そうだったの? という顔をしたかと思うと、ゴブリンは一礼。その紙に書いてある場所を目指して、歩いて行った。絶対最下層へたどり着く前に、凶悪なモンスターにやられるだろう。ナムサン。



「なにそのスキル! すごいじゃない」


 ミオさんの方を向くと、目を丸くしていた。


「サイトーさん、どこでスキルを習得したの? 武器や魔法なしで敵を追い払うなんて、そんなスキル見たことも聞いたこともないんだけど」

「私スキルなんて持っていませんが?」


 オジサンには色々事情があるんだ。その辺りは探ってほしくない。


「えー、東京の世界だとみんな当たりまえにスキルを持てるって、輸入された書物に書いてあったよ?」


 ミオさんは変な立ちポーズを取った。


「ザ・○ー○○、時間よ止まれ」


 その輸入された書物は少年向け漫画に違いなかった。



    ◇



 私はサイトーレイセイと言う。エビスチョウにある組織でヘルプデスクのトーカツをやっていたが、ホンブチョウと揉めて組織を乗っ取られ、そしてこの異世界『ダイトカイ』へ追放された。


 追放された初日、ドラゴンに食われる所をミオさんに助けられた。聞くと、ミオさんは魔法大学に属しているが、進級するのに相当の単位が足りないらしい。


 ミオさんの魔法の腕はとても良いが燃費が悪く、一度の戦闘で○ロリーメイト10箱分のエネルギーを消費する。進級のための技能試験当日、弁当を忘れた彼女は、空腹でまともな点数を上げる事が出来なかった。


 ダンジョンを30階層突破すれば、その試験分の単位が認められて進級出来る。突破しないと留年。なかなかキビシー世界である。


 いいでしょう、今度はこちらが助ける番です。


──てな感じで彼女とここ、ダンジョン『イクラドー』を攻略している。


 ちなみに先のドラゴンは得意の切断系魔法で一部切り取られ、今はミオさんの胃の腑に入っている。何でも食べるんだな、この子は。



    ◇



「ところでサイトーさん、さっきのスキル、もし効かなかったらどうするつもりだったの?」


 私はバックパックから寝具(神具)「センベイ布団」を取り出した。こいつはぺったんこで持ち運びが楽なのに、天使の寝心地なのだ。元々は1つ上の階層で我々を欺こうとした盗賊が持っていた物で、命を助ける代わりにへっぺがした物だ。その盗賊は今頃、硬い地べたで寝ているだろう。


「これで寝てもらおうと思っていた」

「どういうことなの?」

「どうしようもない問題は、寝ていれば解決する事もあるんだ」

「へー、そうなの」


 ミオさんは、絶対信じていませんという顔で私を見た。



 そういえば、彼女も結構怪我していた。


「君も結構な怪我だ。ちょっとここで寝たほうがいい。私も一緒に……」


「バカッ」


 思いっきりアッパーカットとひざげりを食らう。私は空中に飛ばされて、ダンジョンの天井に突き刺さった。ドラゴンが何体暴れても壁や天井は平気なのに、どうして彼女はそれを破れる威力の技が出せるのだ? それよりもミオさん、その技は書物ではない。ゲームだ。


 私は1つ上の階層に頭を出した。そこにはセンベイ布団をへっぺがした盗賊が。

……目が合った。


「「あ、先程はどうも」」


 そしてハモった。



 そんな私をよそに、ミオさんはおやつを取り出した。食べれば怪我が治るというカリオストロ方式だ。

 

 先程の階層で仕留めたコカトリスとバシリスクをさばいて串に刺して焼いたもの。異世界焼き鳥である。

 なんせあいつら体格がデカいし、ミオさんは超燃費が悪い。小さなバックパックから大量の焼き鳥が取り出された。お父さんのツマミならば、ゆうに50人前はあるだろう。うず高く積み上げられる。


 もうおわかりですね。



 まさに、ヤキトリの降臨であった。




そんなこんなのダンジョン紀行。ちゃんと30階層攻略出来るのか?



<了>

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