狂乱の館 序章

白椿

第1話

ある日の帰り道、カラオケを満喫して帰る頃。夜はすっかり更けていた。明日から仕事は休みだから、たっぷり楽しんでいたわけだが、どうにも辺りは暗くて、ほとんど見えない。

『ここは一体...?』

不思議に思いながら進むうち、一軒の館が目に入った。ちょうど嵐だったのでしばらくこの中で雨宿りさせてもらうことにした。その館が狂気で満ちた恐ろしい館だとは夢にも思わずに...

中に入ると館の中は少し薄暗かった。ろうそくが灯り代わりとなって、中を照らしている。私はいったん、声をあげてみる。

『こんばんは、どなたかいらっしゃいますか?』

それに対する返事はない。シーン、と静けさが流れただけだった。少々不気味だが、建物にとりあえず入ることができたので一安心すると、疲れがドッと押し寄せて来た。私は館にある寝室で休もうと思い、寝室へ入った。すると何か踏んだようで随分通りづらい。しかも血生臭い匂いがして思わず鼻を抑えた。

『何、これ...』

手にした懐中電灯で照らしてみるとその恐ろしい正体を知ることになった。最近殺されたのであろう人々の死体の山。いずれも刀傷を負っており、何とも凄惨な光景である。あの匂いの正体はこれだったのか、と身を震わせていると、冷たい男の声がした。

『おい、ここで何をしている?』

後ろを振り向くと、そこには長い青髪を一つに後ろで結えた背の高い美青年が立っていた。さらさらとした金糸のような髪、青と黒がバランスよく混じった切れ長の目。綺麗な服に身を包んでいて、育ちの良い青年なのだろうと思ってしまう。けれどその声に優しさや愛情などといったものはなく、慈悲など少しも感じられなかった。私はおずおずと彼に尋ねる。

『もしかして、この人たちは...』

その言葉の続きに何を言おうとしたのかを察したのか、彼が冷酷に答えた。

『ああ、この者たちは私がこの手で殺した』

『なぜそんな惨いことを...?』

『決まっているだろう。私の家に無断で侵入したからだ』

『でもだからって、殺しまでするなんて酷すぎますよ...!』

私は彼の良心に訴えたつもりだったが、氷のように心が冷たい彼には全く響いていなかった。

『...うるさい。お前もこの者たちの如く惨殺するぞ』

容赦なく首元に刀を突きつけ、彼はなおも冷酷に言い放った。私は洞察力のない自分自身を責めた。もう、私の馬鹿!こんなにも恐ろしい館だと気づかずにまんまと入っちゃうなんて!けれど外はまだ激しい嵐で一向に止む気配はない。雨宿りするつもりが、しばらくはこの館で過ごすことになりそうだ。意を決して私は目の前の冷酷な美青年を一直線に見つめた。じっとその美青年の顔を見つめていると、彼は尋ねてきた。

『貴様...名は何という?』

『フローラ・アグネスです』

『私の名はレオン・エヴァンだ、レオンとでも呼ぶがいい』

レオンさんはそれだけ言うと、さっと身を翻して行った。彼がなぜこんなにも冷酷な人物へと変わり果ててしまったのか。それは本人にしか分からないことだが、もしできるものなら彼の心を救いたい。そう切に願った私と彼との共同生活は今、幕を開ける...

END

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狂乱の館 序章 白椿 @Yoshitune1721

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