ソウルストーリー・終わりなき魂の物語 【KADOKAWABOOKS十周年記念長編ファンタジーコンテスト中間先行】突破!

古時計

序章

その1 目覚め

 自分は島国であるノフィン国、その帝都オーディエに住む一人の冒険者だった。


 何年か前に傭兵稼業禁止令という法令が発せられてから、急速に冒険者組合というものが発足ほっそくされ、達がこぞって冒険者という職についたのは記憶に新しい。


 冒険者……聞こえはいいが、その実やっている事は傭兵稼業の時と何ら変わりなく、結局のところ冒険者とは聞こえの良いだけの傭兵なのである。


 そんな冒険者の自分にある一つの依頼が舞い込んだ事が、全ての始まりだった。

 依頼の内容は畑を荒らす害獣の退治……それだけの筈だった。

 ────────


 依頼主である村の領主が馬車を手配してくれて、自分は目的の村へと揺られていく。


 陽の光を遮るほろの中に自分一人が座り、ガタゴトと揺れる心地のいい振動にうつらうつらとし、瞼が落ちてくる……そして、眠りに落ちるその瞬間──


 ──突如こめかみに冷たく硬い感触を感じ、一気に意識が覚醒する。


「そのまま下を向いていろ」

「今、アンタのこめかみに銃を突きつけてる、妙な動きをしたら、アンタの脳漿のうしょうで馬車が汚れることになる」

 声の主はカチリと撃鉄を起こし、底冷えする様な声でそう告げた。


 唐突な出来事に混乱しつつも、自分は両手を挙げ降参の意を示すと、声の主が言葉を続ける。

「アンタ、依頼である村の害獣駆除に向かうんだろう?」

「悪いがその依頼は嘘だ、本当の依頼をこれから説明する」

「……本当の依頼?」


「そう、アンタにはある人物を目的地まで届けて欲しい」

「その人物はだいだい色の長い髪をした女だ。目的地はこの袋にある」

 そう言うと声の主は、袋を自分に手渡す。

 袋の中には何か硬いものが複数入っているのか、ジャラリと音がなる。


「それは報酬の前払い、とでも思ってくれ」

「あぁ、それと……」

 そう付け加えると、自分のこめかみに突きつけていた銃をおもむろに離し、その銃口を御者席の方へと向ける。


「……この馬車はこれから大事故に遭う、馬車を引く馬が暴れ出し、制御を失った馬車は崖の下に真っ逆さまだ」

「その際、になるだろうが、アンタは気にしなくて良い」


 声の主がそう言い放ったその瞬間、銃口から一筋の閃光が放たれ、銃声と共に打ち出された弾丸は幌を突き破る、すると御者席の方から馬の嘶きが聞こえ、馬車が大きく揺れる。

 自分は揺れる馬車に体勢を崩し床に倒れ込むと、直後馬車はガタンと一際大きな音を立て急加速する。


 すると一瞬だけ、暴走する馬車から飛び降りようとする姿が見えた。

 男は持っていた銃を自分に投げ渡し、自分は慌ててそれを掴んだ。


「一つ忠告をしておく」

「彼女の意思を尊重してやれ」

 男はそう言って馬車から飛び降りる。


 次の瞬間、馬車は大きく傾き、自分は崖の上から馬車と共に投げ出された。

 視界から遠ざかっていく空と、希薄になっていく自身の感覚を最後に、自分は意識を手放した──

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