第24話『謎の地下水路!六つ目の結節点への挑戦!』

「今日は地下水路の調査ね」


 朝食の席で、レイチェルが地図を広げた。エテルナ・ルミナリス魔法学園の敷地の下には複雑な水路網が広がっているらしい。


「昔、学園の下に水路を作ったの?」


「いいえ、自然にできた地下河川を利用して学園が建てられたのよ」


 アーサーが説明した。


「創設者のエレノア・エテルナは、自然のエネルギーを活かすことを大切にしていたんだ。地下水の流れは魔力を運び、結節点を活性化させる役目もある」


「すごいな…」


 ココは感心しながら、「エコロジカル・マジック・システム」と小さく呟いた。前世のエコテクノロジーの知識と重なり合う。


「何か言った?」


「ううん、何でもないよ!」


 モカは地図を覗き込んだ。


「にゃ~、地下水路の入口はどこにゃ?」


「中央噴水の下よ」


 レイチェルが地図の一点を指した。


「噴水の水は地下水路から汲み上げられているの。その仕組みを利用して下に降りるわ」


「今日は授業を休むの?」


「心配しないで。先生たちには事情を話してあるわ」


「午前中のうちに行って、昼までには戻ってくるつもりだ」


 アーサーが言った。


「にゃ!冒険の時間だにゃ!」


 モカは嬉しそうに飛び跳ねた。


 ***


 学園の中央広場にある大きな噴水。水晶のように透明な水が美しく弧を描いている。朝早くのため、周囲に人はいなかった。


「さて、入口を開けるよ」


 アーサーは噴水の縁に立ち、魔法の言葉を唱えた。すると水の流れが一瞬止まり、噴水の底が横にスライドして、階段が現れた。


「すごい!秘密の入口みたい!」


「にゃ!」


「用心して。濡れているから滑りやすいわよ」


 レイチェルは先頭に立って階段を降り始めた。その後にココ、モカ、そしてアーサーが続いた。


 階段を降りると、目の前に石造りのトンネルが広がっていた。両側を清らかな水が流れ、中央に細い歩道がある。トンネルの壁には青く光る苔が生え、薄暗い通路を幻想的に照らしていた。


「わあ…きれい…」


「魔法苔ね。暗所でも光を放つの」


「まるでバイオルミネセンス…」


「何?」


「あ、言葉遊びだよ!」


 ココは慌てて誤魔化した。科学用語が口から出てしまったのだ。


 四人は歩道を進んでいった。水の流れる音が心地よく響き、空気は湿っているが新鮮だ。


「にゃ?水の中に何か見えるにゃ!」


 モカが水面を指差した。覗き込むと、小さな光る魚が泳いでいる。


「魔法鮒よ。光る魚で、水の浄化をする役目があるの」


「かわいい!」


 しばらく歩くと、トンネルは複数に分岐していた。


「どっちに行くの?」


「地図によれば…左よ」


 レイチェルは左のトンネルを指し示した。しかしその時、モカが別の方向を指した。


「にゃ!あっちだにゃ!」


「えっ?」


「結節点はあっちにゃ!感じるにゃ!」


「でも地図では…」


 アーサーは迷ったようだったが、モカの直感を信じることにした。


「モカの感覚を信じてみよう」


 四人はモカが示した方向のトンネルへと進んだ。先に進むと、トンネルは少し狭くなり、両側の水路も細くなっていった。


「にゃ…近づいてるにゃ…」


 さらに進むと、水路は大きな円形の空間へと繋がっていた。そこには天井まで届くほどの大きな滝があり、その水は透明なプールのような場所に落ちていた。


「すごい…」


「マジックフォールね。魔力を含んだ水が落ちて、結節点を活性化させているのよ」


 モカが滝の裏側を指し示した。


「にゃ!あそこにゃ!」


 滝の裏に、青い石柱が見えた。やはり黒い影に覆われている。


「どうやって向こうに行くの?」


「水の中を歩くのよ」


 レイチェルは靴を脱ぎ、裾をたくし上げた。


「この水は魔力が濃いから、実は上を歩くことができるの」


「え?水の上を?」


「そう。魔力を足に集中させて…」


 レイチェルが水面に足を置くと、沈まずに立っていた。まるで透明な氷の上に立つように。


「すごい!ウォーターウォーキング!」


「何?」


「いえ、なんでもないよ!」


 ココも真似して魔力を足に集中させた。最初は少しバランスを崩したが、すぐにコツを掴んだ。


「にゃ~!」


 モカも水の上に立った。四人は水面を歩いて滝に近づいていく。


「滝の裏側に回り込もう」


 案内されるまま滝の裏へと回り込むと、そこには小さな空間があり、青い石柱が立っていた。


「これが六つ目の結節点ね」


 石柱は水しぶきを浴びながらも、黒い影に覆われていた。


「今度はどうやって浄化するの?」


「みんなで力を合わせるわ」


 四人は石柱を囲み、それぞれが魔力を放った。アーサーの赤い炎、レイチェルの白い光、ココの青い光、そしてモカの銀色の光。


「フレイムス・ルミナリス!」


 ココの複合魔法が石柱に向かって放たれた。しかし、今回の影は予想以上に頑固で、なかなか消えない。


「強いにゃ!」


「力を集中させて!」


 四人はさらに魔力を高めた。モカの体から銀色の光が強く放たれ、一本目と二本目の尻尾が現れた。ココも両親から教わった新しい魔法を試してみた。


「フレイムス・スピラーリス!」


 彼女の両手から螺旋状の炎が放たれ、石柱を包み込んだ。


「すごいわ、ココ!」


 新しい魔法の効果もあり、黒い影はようやく後退し始めた。そして数分後、ついに完全に消え去った。


「やった!」


 石柱が本来の青い輝きを取り戻す。今回は残ったエネルギーが水に吸収されたのか、闇の生き物は現れなかった。


「うまくいったわ」


 アーサーは安堵のため息をついた。


「これで残るは学園中央広場の下にある最後の結節点だけだ」


「にゃ!最後まで頑張るにゃ!」


 その時、突然水面が揺れ始めた。


「何?地震?」


「違うわ…何か来るわ!」


 水面から黒い霧が立ち上り、それが徐々に人型に形成されていく。今度は巨大な黒い人影だ。鎧でも蛇でもなく、ただの巨大な黒い人の形。


「に、にゃ~!」


 モカの背中から突然、三本目の尻尾が現れた。時間を操る力だ。影の動きが遅くなる。


「急いで!」


 アーサーが叫んだ。四人は水面を走って滝から離れていった。黒い人影は追いかけてくるが、モカの力で動きが遅く、すぐに振り切ることができた。


 トンネルを通って元来た道を急ぐ。階段に到達し、地上に戻ると、モカの力も限界を迎え、尻尾が消えた。


「はぁ…はぁ…大丈夫?モカ」


「だ、大丈夫にゃ…ちょっと疲れただけにゃ…」


「六つ目の結節点も浄化完了ね」


 レイチェルは少し肩の力を抜いた。


「後一つ…」


「でも、闇の力がどんどん形を変えてる」


 ココは心配そうに言った。


「最初は単なる黒い影だったのに、鎧を着た騎士になり、蛇になり、今度は巨大な人型…」


「最後の結節点でどんな形になるか…」


 アーサーは重々しく言った。


「にゃ…親方様…の…姿…」


 モカが小さく呟いた。


「えっ?今何て言ったの?」


「にゃ?あ、なんでもないにゃ…」


 モカは自分が何を言ったのか覚えていないようだった。


 ***


 その日の夕方、アーサーの研究室では重要な会議が開かれていた。


「明日、最後の結節点の浄化に挑みます」


 校長のグレゴリーが言った。白髪の立派な老魔法使いだ。


「フレイムハート教授、状況を報告してください」


 アーサーは立ち上がって説明を始めた。


「これまで六つの結節点を浄化しました。残るは中央広場の下にある最後の結節点のみです」


「闇の力の正体は?」


「それが問題です。当初はアインズの儀式による汚染と考えていましたが、どうやら違うようなのです」


「闇の力は形を変え、より強くなっています。最後の浄化作業は最も困難になるでしょう」


 校長は深く頷いた。


「では全教授陣で協力して、明日の浄化作業に当たりましょう」


「ココとモカも一緒に行きます」


「子供たちを危険に晒すのですか?」


「彼らなしでは浄化できません。特にモカの力は不可欠です」


 校長は少し考えてから、同意した。


「わかりました。安全に配慮して進めてください」


 会議が終わると、アーサーはココとモカのところに戻った。


「明日が最後の浄化作業だ。学園の全教授が協力してくれる」


「にゃ!みんなで頑張るにゃ!」


「どうして闇の力の形が変わるの?」


 ココが尋ねた。


「それは…浄化することで分散していた闇の力が一つに集まりつつあるのかもしれない」


「つまりラスボス戦が近づいてるってこと?」


「ラス…何?」


「あ、いえ!最終決戦ってことだよ!」


 アーサーは少し怪訝な顔をしたが、話を続けた。


「明日は早起きして準備しよう。できる限りの力を出さなければならない」


「わかった!」


「にゃ!」


 ***


 その夜、ココはベッドで横になりながら空を見ていた。窓から見える満月が部屋を銀色に染めている。


「モカ、明日が最後の浄化だね」


「そうにゃ…」


「怖くない?」


「ちょっと怖いにゃ…でも、ココといっしょなら大丈夫にゃ!」


「そうだね。私たちなら大丈夫!」


 ココはモカを抱きしめた。ふと思い出して尋ねた。


「さっき、『親方様の姿』って言ってなかった?」


「え?言ったにゃ?覚えてないにゃ…」


「そう…」


「でも神獣の記憶が少しずつ戻ってきてるにゃ…もしかしたら明日、全部思い出すかもしれないにゃ」


「そうかもね」


 ココも前世の記憶と今の世界での経験が混ざり合い、どきどきした。


「どんな真実が待っているのかな…」


「きっと、いい結末になるにゃ!」


「うん!」


 二人は窓から見える月を見つめた。明日の冒険に向けて、心の準備をしながら。


「おやすみ、モカ」


「おやすみにゃ、ココ」


 月の光が二人を優しく包み込む中、彼らは静かに目を閉じた。明日はいよいよ最後の結節点。全ての真実が明らかになる日。ココとモカの冒険は、クライマックスへと向かっていた。



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最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

小さな魔法使いと黒猫の、ちょっとドジで、とびきり楽しい冒険――

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