第2章:モカって「意外とすごい?」
第9話『モカ、たまには役立つにゃ!?』
銀色に輝く満月の夜、ココとモカは屋根裏部屋で密かに話し合っていた。
「アインズ先生のことを調べるには、図書館の禁書コーナーに行くしかないにゃ」
モカは窓辺に座り、尻尾をゆらゆらと揺らしながら言った。時計塔でリナと会ってから一週間が経ち、アインズ先生の動きを探るため、二人は次の行動を考えていた。
「禁書コーナーは上級生しか入れないんだよ」
ココはため息をついた。
「図書館司書のミューズ先生に許可をもらわないと…」
「じゃあ、モカの魅力で説得するにゃ!」
モカは得意げに胸を張ったが、ココは困った顔をした。
「どうやって?」
「ふふん、モカは可愛いからにゃ~」
モカがくるりと回って可愛い仕草をすると、ココは思わず笑ってしまった。
「確かにミューズ先生、猫好きだもんね」
***
翌朝、二人は図書館へと向かった。巨大な石造りの建物は学園の中でも一際古く、魔法の歴史を感じさせる場所だった。
「おはようございます、ミューズ先生」
ココは丁寧に挨拶をした。受付に座る白髪の女性は、厳しい表情で本を読んでいた。
「あら、ココさん。今日は何の本をお探しかしら?」
「えっと、銀月の迷宮について詳しく知りたくて…」
ココが言葉を選んでいると、モカがミューズ先生の机の上に飛び乗った。
「にゃ~」
モカは甘えた声で鳴き、ミューズ先生の手に頬をすり寄せた。
「まあ、可愛い猫ちゃん!」
冷静だったミューズ先生の表情が一変し、途端に柔らかくなった。
「使い魔のモカです」
「素敵な使い魔ね。よく躾けられているわ」
ミューズ先生はモカの頭を撫でながら微笑んだ。モカはその手に気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。
「先生、銀月の迷宮の研究をしている学者について知りたいんです。特にアインズ先生について…」
「アインズ教授?なぜ彼のことを?」
ココは一瞬迷ったが、正直に話すことにした。
「実は両親の研究が気になって…父と母はアインズ先生と一緒に研究していましたよね?」
「ああ、そうだったわね。フレイムハート夫妻は素晴らしい研究者だった」
ミューズ先生は懐かしそうに言った。
「でも、禁書コーナーには初等部の生徒は…」
「にゃ~~~」
モカが甘えた声でさらに鳴き、ミューズ先生の膝に飛び乗った。その愛らしい仕草に、先生はすっかり心を奪われている。
「ま、まあ、特別に許可しましょうか。お父さんとお母さんの研究のことを知りたいのは当然ね」
「本当ですか!ありがとうございます!」
ココは驚きと喜びを隠せなかった。
「ただし、30分だけよ。それと…」
ミューズ先生はモカに視線を向けた。
「この子も一緒に連れて行ってちょうだい」
「もちろんです!」
***
禁書コーナーは図書館の奥、らせん階段を下りた地下室にあった。魔法の灯りだけが照らす薄暗い空間には、古い本や羊皮紙が整然と並べられている。
「すごい…こんなにたくさんの本…」
ココは圧倒されながら、アインズに関する資料を探し始めた。
「モカ、『銀月研究』っていう棚を探して」
「了解にゃ!」
モカは本棚の上を軽快に飛び回り、棚の間を縫って進んでいく。やがて奥の方から声が聞こえた。
「ココ!ここにあるにゃ!」
ココが駆け寄ると、「銀月研究」と書かれた棚があった。その中には様々な研究書や論文が並んでいる。
「よし、アインズ先生の名前を探そう」
二人は熱心に本を探し、ようやく「銀月の神獣:探求と封印」というタイトルの本を見つけた。著者は「G・アインズ」となっている。
「これだ!」
ココが本を手に取ると、古いページからは少し埃が舞い上がった。中には詳細な研究内容や図解、そして迷宮の地図が描かれていた。
「へえ…『神獣の力は時空を超える』…『封印は三つの鍵によって守られている』…」
ココが読み進めていると、突然モカが警戒するように耳を立てた。
「誰か来るにゃ!」
確かに、階段を下りてくる足音が聞こえる。
「まずい、時間が来たのかも…」
「でも、まだ読み切れてないにゃ!」
ココは急いで本をバッグに入れようとしたが、厚くて入らない。
「どうしよう…」
「ココ!あそこに隠れるにゃ!」
モカが指し示したのは、大きな書架の裏側にある小さな空間だった。二人は急いでそこに身を隠した。
やがて足音が近づき、声が聞こえてきた。
「記憶石のことを、あの子が知っているとは思わなかったな」
その声は間違いなくアインズ先生のものだった。
「はい。あの子は親譲りの好奇心を持っています」
もう一人の声に、ココはぎょっとした。それはミューズ先生の声だったのだ。
「彼女は何を探しに来たんだ?」
「あなたのことよ、ガルディス」
「そうか…まずいな」
アインズ先生が棚を見回している。
「彼女の両親の行方は?」
「まだ見つかっていません。迷宮の最深部へ向かったきり…」
「あと10日…満月の夜までに神獣の力が必要なんだ」
「本当に…それをするつもりですか?」
「もちろんだ。学園の全ての魔力を吸収し、究極の魔法を完成させる…そのためには神獣の力が必要なんだ」
ココとモカは息を殺して会話を聞いていた。学園の魔力を吸収するとは…何を企んでいるのだろう。
「ミューズ、ココが来たら知らせてくれ。彼女の持つ記憶石も必要なんだ」
「はい…」
ミューズ先生の声には迷いが感じられた。
「さて、『封印解除の儀式』の本を借りていくぞ」
二人の足音が遠ざかり、静けさが戻ってきた。
「ミューズ先生…裏切ってたなんて…」
ココは悲しそうに呟いた。
「違うかもにゃ…声に迷いがあったにゃ」
「でも今は、ここから出なきゃ」
ココは本を手に、そっと隠れ場所から出ようとした。しかし、足を踏み外し、バランスを崩してしまう。
「きゃっ!」
本が手から滑り落ち、大きな音を立てた。
「誰だ!?」
階段の上からアインズ先生の声がした。足音が再び近づいてくる。
「どうするにゃ!?」
「迷宮の地図をちぎって持っていくしかない!」
ココは急いで重要なページを破り取り、ポケットに入れた。
「でも出口は…」
「あそこにドアがあるにゃ!」
モカが指し示したのは、本棚の奥に見える小さな扉だった。その扉には複雑な錠前がついている。
「鍵がかかってる…」
「どうするにゃ!?」
アインズ先生の足音がどんどん近づいてくる。ココは必死に錠前を調べた。
「魔力を流し込むタイプの鍵だ…でも私には魔法が…」
「モカがやるにゃ!」
モカは決意に満ちた表情で錠前に前足をかけた。
「でも、モカも魔法が…」
「信じるにゃ!」
モカは錠前に集中し、目を閉じた。しかし、何も起こらない。
「もう、役立たずなモカには無理かにゃ…」
落胆するモカだったが、その瞬間、背中から銀色の尻尾が現れた。
「モカ!」
銀色の尻尾が錠前に触れると、「カチッ」という小さな音がした。
「開いたにゃ!?」
「急いで!」
二人は扉を開け、素早く中に入った。扉の向こうは狭い通路になっていた。
「これは…秘密の通路?」
「学園の地下道かにゃ?」
二人は急いで通路を進んだ。しばらく行くと、上に向かう梯子が見えてきた。
「登ってみよう」
梯子を登りきると、そこには小さな円形の蓋があった。ココが蓋を押し上げると、驚くべきことに、それは学園の中庭の茂みの中に出る隠し出口だった。
「すごい!抜け出せたにゃ!」
二人は急いで茂みから出て、人目につかないよう屋敷への帰り道を急いだ。
***
「はぁ…はぁ…無事に帰れた…」
屋敷の自室に戻った二人は、ようやく安堵の息をついた。
「モカ、すごかったね!錠前を開けてくれたおかげで逃げられたよ!」
「えへへ…たまには役立つにゃん!」
モカは照れくさそうに笑った。
「でも、なんで開いたのかな?」
「わからないにゃ…でも、モカも頑張ったにゃん!」
「うん、本当にありがとう!モカがいなかったら捕まってたよ」
ココはポケットから破り取った迷宮の地図を取り出した。そこには、迷宮の最深部への道筋が記されていた。
「これで両親が向かった場所がわかるかも…」
「アインズ先生、何か怖いことを企んでるにゃ…」
「うん。満月の夜までに何かする気みたい…あと10日か…」
「それまでに何とかしないとにゃ!」
ココは窓から見える月を見上げた。
「お父さん、お母さん…どこにいるんだろう…」
モカはココの膝に飛び乗り、顔をすり寄せた。
「大丈夫にゃ。モカがついてるにゃん。たまには役に立つこともあるにゃ!」
「うん、ありがとう。モカといると安心するよ」
二人は月明かりの中、これからの作戦を考え始めた。モカの銀色の尻尾の謎、アインズ先生の企み、そして両親の行方。すべてを解き明かすための冒険が、いよいよ本格的に始まろうとしていた。
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