お前がそんなんだから

小狸・飯島西諺

短編

 私の父は、選挙に行かない人だった。


 学校の先生には、「選挙には必ず行くように」「自分の意思を政治に表明できる場所」と教わっていたので、今年十八になるから行くことになるけれど、きちんと意思を表明しに行こうと思っている。


 幼い頃から、何となく、「投票率の低さ」「政治への無関心」というニュースをテレビで見ていた。


 選挙に行かない人の気持ちが、私には分からなかった。


 小学生高学年の頃、ある選挙があった。


 それに母は行き、父は行かなかった。


 それを見て。


 体調が悪いのかな、とか。


 政治に興味がないのかな、とか、思う前に。


 この父のことを、尊敬していていいのか?


 いの一番に思ったものだった。


 いや、別に良いのだ――親が親の意思で、投票しないという選択をするというのなら、私はそれを阻止しようとはしない。産んでくれたこと、お金を稼いでくれていること、私を生かしてくれていることには感謝しているし、今までは、無条件に無頓着に、尊敬していた。


 ただ、私は。


 そんな父親を、私は肯定することができなくなった。


 それから、めっきり父と会話する回数も減った。


 元々休日は部屋から出てこなかった父だったけれど、徐々にその回数も減っていった。


 その分、部屋から出てきた時の、亭主関白っぷりも酷くなっていった。


 一度、父がパソコンで何をやっているか、こっそりと書斎に入って見たことがある。


 父がパソコンを消すのを忘れたまま、車で出かけていったことがあるのである。


 どこに出かけるとかは言わない。まあ行くところなど、レンタルビデオ店に決まっている。自室で映画を観て、休日のほとんどを過ごす。私たち子どもと遊んでくれたことなど、一、二回しかない。


 果たして、父はというと。


 インターネット上の、現X、旧Twitterにて。


 政治の話について、思いっきり喧嘩をしていた。


 相手は、会話を見たところ、見知らぬ人である。にも拘らず、お互いに本名も明かさぬアカウントのまま、罵声を浴びせ合っていた。ここでその描写を克明に記載しても良いが、使っている言葉もまあ酷いもので、精神衛生上良くはないので、ここでは表現は控えよう。


 それを見た時の絶望感は、何にも代えがたい。


 ああ、うん。


 


 そう思ったのである。


 いや、いや、いや。


 別に良いのだ。


 政治の話をネットでしようが、ここに記載できないような罵詈雑言を見知らぬ人にしていようが、それは父の自由である。勝手にパソコンの中身を見た私が悪い。


 ただ。


 後からうだうだ文句言うんだったら、投票しろよ。


 世の中を良くするために努力しろよ、大人だろう。


 いつまで一人暮らし気分でいるつもりなんだよ。


 いつまで一人で生きている気分でいるつもりだよ。


 父親じゃねえのかよ。


 


 そんな風に、父に関する何もかもが駄目になってしまった。


 私は今年18歳になった――受験の年である。


 私の反抗期が終わり、時折父と話すと、必ずと言って良いほど「介護」の話題を出すようになった。


 どうやら、自分が介護されるのが当然だと思っているらしい。


 ふざけるな。


 尊敬どころか会話もしたくない、いつまでも自分本位でしか生きられない、そんな父親の介護を、誰がすると思う。


 さっさと死んでくれればいいのにな。


 そう思った。


 さあ、こんな父のようにならないために。


 私は、ちゃんと勉強しよう。




(「お前がそんなんだから」――了)

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