ドクター・オノ 圧縮作戦
大河かつみ
初冬、日本の各家庭で夏の間、押し入れにしまわれていた布団を出す頃。掃除機の様な機械で空気を吸われ圧縮された状態の羽毛布団を袋から取り出そうとすると、中から布団と共に圧縮されたお父さんがあちこちで発見された。まさに家庭内では空気の様な存在だったので、いなかった事に家族は誰も気づかなかったのだ。
警察は、『布団を圧縮しようとして誤って自分まで圧縮してしまった痛ましい事故』であると見解を発表した。すると慌てて「そんな訳ないだろ!」とツッコミを入れ犯行声明を上げた組織があった。その名も『新政治団体 天下無双の会』。
彼らの主張はこうだ。「世界の資源量に対して人間の数が多すぎる。だから無能な人間はどんどん圧縮して布団と一緒にしまっちゃおうではないか!」
彼らのトップはIQの高い、エリート中のエリートで、あらゆる面で秀でた“天下無双の男”の異名を持つ発明家ドクター・オノだった。彼の新発明“なんでも圧縮しちゃうんだもんね光線”を浴びるとどんな大きい人でもみるみる圧縮されて仮死状態となり簡単に収納袋に入れられ押し入れにしまわれてしまうのだ。因みに仮死状態の人間は熱湯をかけると元に戻るらしく、先のお父さんたちも元に戻った。その際、「アッチチチ!」と熱がる様子が笑いを誘った。
とにかく彼の主張は当然、受け入れられるものではなかった。怒ったドクター・オノは強行策に出た。オノは次々と世界の要人らを圧縮して押し入れにしまっていったのだ!トランプ大統領もプーチン大統領も皆、圧縮されて杉並区のひとみアパートの201室の伊丹さん宅の押し入れにしまわれた。ビヨンセは北千住のいこい荘103号室にしまわれたらしい。かくて世界は恐怖のドン底に落とされた。
そこに一人の男が立ちはだかった。インターポールの敏腕刑事トニー・タカタニ。彼は早速、ドクター・オノの秘密のアジトに潜入する事に成功した。オノが伊丹さん宅の押し入れを利用する際、借用書に住所と電話番号を記載していたのだ。
アジトは駅近の五階建てマンションの三階で、一階にはローソンがあるという、住むのにとても適した部屋だった。
“ピンポーン”アジトのインターホンを鳴らすと「ハーイ。」という返事と共にドクター・オノがドアを開けた。
「そこまでだ。ドクター・オノ!」
タカスギはそう言って中に押し入った。2LDKの間取りで全体的に小ぎれいにかたづけられて感じの良い部屋だった。
「トニー・タカタニ!我々に歯向かうとはいい度胸だ。」渡された名刺を見ながらオノが言った。タカタニはその棒読み口調が気になった。オノも自覚があったらしく半笑いで詫びた。
とにかく、ドクター・オノは収納袋と“なんでも圧縮しちゃうんだもんね光線銃”を手にしてタカタニに向けて発射した。タカタニは間一髪かわすと右腕をL字型に曲げ、オノの顔面目掛けてぶちかました。
「アッシュク・ボンバー!」
ハルク・ホーガン似のタカタニの必殺技がさく裂した弾みで収納袋と光線銃は宙に飛び、収納袋がオノの身体をすっぽり包んだ。そして降り注ぐ光線。みるみる収納袋がオノの身体に密着し圧縮されていく。
「ウウ、苦しい。」
もがくオノのその手の動きはパラパラのダンスの様だった。
こうして事件は解決し世界中の要人が救出された。だが、トランプとプーチンだけはそのままにしておこうという話になり、伊丹さんも快くそれを了承した。
(了)
ドクター・オノ 圧縮作戦 大河かつみ @ohk0165
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