魔眼チートは厨二ムーブをかましたい
彼方
第1章 まずはレベル上げ編
第1話 厨二ムーブをかましたい
俺、水戸部
背後からは
「これで安心だね」
「ほんとお兄さんに会えて良かった」
「もう帰れないかと思ったぁ」
「まだ中級ダンジョンはわたし達には早かったね」
などとJKたちの気の抜けた会話が聞こえてくる。
俺は数分前にこのJKたちを犬型魔物であるコボルトから救出していた。ダンジョン内で迷子になっていた彼女たちに頼まれ、ギルドに帰還するまでの護衛をすることになったのだ。
下から二番目の難易度である中級ダンジョンで迷子になっていることから考えると、この子たちの実力は初心者に毛が生えたぐらいの物なのだろう。コボルトを瞬殺した俺の実力を見て安心しきっているのか、先ほどの泣き顔が嘘みたいだ。後ろからはのんきに会話をしているのが聞こえてくる。
今進んでいる道がダンジョンの奥に繋がっているとも知らないで。
(クククッ。ついに見つけた。三日間かかったぞ)
うら若いJKたちを引き連れてダンジョン内を歩く。これこそ俺が喉から手が出るほど心待ちにしていたシチュエーションだった。
(最高だ! 最高の獲物だ!)
俺は自らの計画の成功を確信し、足取り軽く進んで行く。たまに、後方を歩くJKたちに躓きやすい場所などを注意喚起しながら、適度な会話を織り交ぜつつ、怪しまれないように細心の注意を払っていく。
♢ ♢ ♢
数十分後、俺のある考えは仮説から確信に変わった。
(この子たちアホだろ……。大丈夫か? よく冒険者やっているな)
俺は後方を歩いているJKたちのことがだんだんと心配になってきていた。ダンジョン内だと言うのにまるで緊張感がない。いま四人は次の旅行でどこに行くかを楽しそうに話している。
俺の個人的な事情から、俺たちは先ほど彼女たちを救出したフロアからすでに4フロアも下の階に降りていた。ギルドは地上にあるため通常は階段を上がって行かなければ帰還できないのだが、彼女たちは何も文句は言わずダンジョンの奥深くへとついてきている。
最初に階段を下りた時は「あれ?お兄さん、階段を降りるんですか?」と一人が聞いてきたのだが、「こっちの方が近道なんだ」と俺が言うと「なるほど~」とすぐに納得したようだった。そこからさらに3フロアも降りているのに誰も文句を言ってこない。
こちらとしては好都合なのだが、この子たちの後の人生を考えるとだんだんと心配になってきてしまう。
(うーん。いい子たちなんだけど。危なっかしいな。なんでこの子たちの親は、この子たちが冒険者になることを許可したんだろう)
前にギルドの受付で聞いたところ、18歳以下の人間が冒険者になるためには保護者の許可が必要らしかった。自分が親だったら心配過ぎてこの子たちに許可は出せないだろう。
そんなことを考えていると、通路の奥から一体の魔物が現れた。壁で燃えているかがり火に照らされて、筋肉質な体と、その巨体が良く見える。
オーク——豚型の二足歩行のモンスターだ。ぱっと見る限りその身長は2メートルは超えているだろう。緑色の肌と豚のような形をした鼻が特徴的な魔物だ。10段階ある、魔物の危険度を現わす等級では下から5番目のB級。中級ダンジョンに生息する中では強敵だが、俺の敵ではなかった。
その緑色の巨躯を見て、俺は興奮してしまう。
(待ちわびたぞ! 前に出会った個体よりもでかい!! こいつは期待できそうだ!)
こいつこそが俺が探し求めていたモンスターだった。オークはダンジョン内に生息するモンスターの中で唯一、斧を武器にしているモンスターだった。俺は、このオークと斧を使ってあることがしたかった。
それは、俺が子供の頃に大流行したアニメのワンシーンを再現することだった。
目の前から迫りくる敵の斧による斬撃をぎりぎりのところで回避し、敵の頭部の上に現れ、頭部を上から剣で突き刺す。あまりの速さから周りで見ていた人からは攻撃を受けたかのように見える技。
「残像だ」というセリフと共に、世のちびっ子たちを中二病の深淵に招待した至高の技である。
この技のポイントは2つある。
「攻撃が当たるギリギリまで動かず敵を引き付けること」
「攻撃が直撃したように見えるほどの速さで回避をすること」
俺はポイントを確認すると意識をオークに向ける。向こうも俺の姿を捉えたのか、その巨体からは想像できない程の速度でこちらに突っ込んできた。
俺は右手に一週間前に買ったばかりの剣をつかむが、全身の力を抜き、腕を垂らしたまま構えはしない。
後方からはJKたちの叫び声が聞こえる。その悲鳴の大きさと比例するように俺の心は高ぶっていく。
(最高だ! やってやる!)
俺は回避をする一瞬に全神経を集中する。オークは走りながら右手を高々と振り上げ、近づいてくると俺の頭部目掛けてまっすぐに振り下ろしてきた。
(今だっ!!)
俺は回避をするために能力を発動させようとする。
しかし、次の瞬間、斧の一撃が俺の頭に直撃した。
頭部の皮膚が切り裂かれ鮮血が血しぶきとなって空を舞う。
「ぎゃああああああああ」
痛い。すごく痛い。レベルによる強化で防御力は上がっているはずなのに痛い。
「きゃあああああああーーーーーーーーーー」
後方からはJKたちの叫び声が聞こえる。
「大丈夫ですか!! お兄さん!!」
(ごめんよ。嫌なものを見せてしまったね。くそっ、前のオークよりも攻撃の速さが速かった。回避が一瞬遅れてしまった……)
俺は、一瞬だけある能力を発動させると、2撃目を叩きこもうと斧を振りかぶっているオークの胴体に横なぎに蹴りを放つ。するとオークの腰のあたりで上半身と下半身は切り離され、二つに別れた体は消滅していった。
(仕方がない。仕切り直しだ)
俺は左手で頭を押さえながら、右手でバッグ型のアイテムボックスの中から小さな瓶に入ったポーションを取り出し、ゴクゴクと飲んでいった。すると、ぱっくり割れた頭部の皮膚が超回復をはじめすぐに元通りになった。
回復が終わったタイミングでJKたちが心配そうな様子で駆け寄ってくる。
「お兄さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと油断しただけだから。あの程度、大したことないよ」
俺は心配そうな目で見つめてくるJKたちを安心させるためにあえて落ち着いたトーンでそう口にする。
「良かったぁーー」
「もぉー死んだかと思いましたよ」
「あー、びっくりした!」
「でも無事でよかったぁーー」
俺の余裕がある姿に安心したのかJKたちに安堵の表情が浮かんだ。
「お兄さん。私たちが後ろにいるからって無理しないでくださいね。敵わないと思った相手がいたらすぐに言ってください」
JKたちの中で一番しっかりしてそうな黒髪ボブの少女が言った。
「そうだよ。私たちは逃げるのだけは得意なんだから!!」
ウェーブがかかった金髪をしている1番頭の弱そうな少女はそう口にした。
(ああ。この子たちはみんな良い子たちだな。安心してくれ。必ず無事にギルドに送り届けるから)
少女たちの優しい言葉を聞いて俺は少しジーンとしてしまう。心の中で少女たちを必ず無傷で送り届けることを誓う。しかし、やっとめぐってきたチャンス。計画を中断する気はなかった。
(少しだけ遠回りさせちゃうけど。あと少しだけ付き合ってくれ。ごめん!!)
俺はさすがに申し訳ない気持ちが込み上げてきていたため、心の中でJKたちに謝った。そして再びJKたちを引き連れダンジョン内を進み始めた。
俺はなんとしてもこのJKたちに、最高の厨二ムーブを見せつけたかった。
なぜ今こういう状況になっているかと言うと話は2週間前に遡る。
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