塩谷凛 第9話
少しワリーなって思ってんだ。
「おい、加賀谷! お前部活も一緒だろ? 上手く連れ出せよ」
「うす……」
「俺ら三年は引退してっからな、頼んだぞ」
「うす……」
先輩らの気持ちは分かる。俺もビビったわ、俺が告ってる隙にまさか凛を落としてるとは……
俺の彼女と一、ニを争って可愛い一年。別にミッシーが見劣りするとかまでは思わねぇ……それでもやっぱかなりビビった。
「加賀谷、わりぃな? まぁ俺も先輩達側だし」
「し、新城さ、あいつと仲良かったじゃん? 別れるっつってんだし、そんなーー」
「加賀谷……アイツの方に付きてーのか?」
ちっ……板挟みじゃねぇか……小学校からの幼馴染で、ライバルとして何度も争ってきたけど、常に俺の上に立ってた男。
(かなわねぇって骨の髄まで沁みちまってる……)
「んな訳ねぇだろ? ただもう直ぐいなくなる先輩達の顔色伺うのもなんかカッコ悪りぃって言うか……」
「……いなくなんねぇよ」
「え?」
なんだ? なんでそんなに笑ってる……
(取り敢えずタバコ吸いてぇ……)
俺は胸ポケットからセッターを取り出すとジッポで火をつける。
「俺らのガキん時からの夢覚えてっか? ……先週先輩達と兄貴の顔合わせは済ました……」
「…………って事は……やれんのか!?」
「あぁ、単車は随時用意してく……そこら辺は川向こうから先輩らや兄貴が適当にやってくれんだろ」
俺達の夢……この街のヤンキーがかつて他市の頂点に立ってた時にあった伝説のチーム。
新城の八個上の兄貴が頭を張ってたチーム……それの復活と跡目を継ぐのが俺らの夢だった……
「マジか……」
「……わかったろ? 今、俺らはナメられる訳にはいかねぇんだ……」
「あ、ああ……」
言ってる事は分かる。だけどダチだぞ? 友達だぞ? 話し合うとかじゃダメなのかよ? だけどこんな事言ったって、どうせ俺の意見なんて遠らねぇ……なら……
「で、でもヤス君と松には言っとかねぇと……」
「…………あぁ、好きにしろ。二人にはこの話は通してあるからよ」
「そ、そっか……」
俺は心底思った……関わり合いになりたくねぇって……
#
「だからさー、ヤス君までダリーから行かねーって言っててさぁー、ヤス君いねーと松君もこねーじゃん? だから集まりワリーんだって!」
「いや、それ俺に言ったって仕方ねぇだろ?」
「んな事ねぇーよ、お前繋ぎみてーな所あったじゃん?」
教室に戻ると山中のうるせー声が聞こえてくる。内容は分かってる、溜まり場のスケボー場の、最近の集まりの悪さの事だ……
ヤス君と松はミッシーとオナ小だったけど、その頃はアイツは真面目で仲間じゃ無かったらしい。だけど、松は幼稚園から一緒だったとかで、そこそこ遊ぶ機会があったとは聞いた。
そんな二人はミッシーの擁護派なんだと俺は思っている……
「なぁーヤス君怖ぇーんだよ! これ以上しつこくしたらシメられそうだし……」
「そんな簡単にヤっちゃんは手を出さないよ、新城とは違って」
「あっ!! お前今のタブーだぞっ! 聞かれたら殴られんだからなっ!!」
そう、ヤス君と新城は良く比較される。目立ちたがりで力を誇示したがる新城と、クールで切れると怖ぇーヤス君……喧嘩は互角だって聞いたけど……実際にヤッてる所は見てねぇ……
「新城にヤっちゃん誘って貰えば? 二人は幼馴染で親友なんだし」
「……新城は最近先輩達とつるんでばっかなんだよぉー」
保育園の幼馴染で親友……二人は同じ野球部のヒーロー……ヤス君は学年一の可愛い子と付き合い、新城は直ぐ別れたとは言え狙った女と付き合ったりした。アイツらはこの学年の支配者だ……
「まぁ、なんかで顔合わせたら、なんで行かないのか聞いてみるよ」
「おう! 頼むぜー!」
アイツは今自分が置かれてる状況がわかってんのか? ハッキリ言ってお前はもう俺らのグループとはもう呼べねぇんだぞ?
(なのに、なんでそんな余裕なんだ……)
「み、ミッシー……」
「加賀谷? どうした?」
「今日、部活出んのか?」
「? あぁ、最近は毎日出てるだろ? 悪かったなサボりまくってて、今更レギュラーになろうとは思ってねぇーけど、一応副部長としての仕事はしにいくよ」
「だ、だな? 同じ副部長の俺に投げっぱだったかんな」
「あぁ、本当悪かったな?」
(やっぱ……コイツはいいヤツだ……)
先輩や新城の気持ちは分かる、分かるけども……塩谷がコイツで良いってんなら仕方ねぇ事なんじゃねぇのか?
(なんか……あっちがダセー……)
分かってるんだ! そんな事はっ!! でも俺みたいに組織に組み込まてるやつは、上の言う事を聞かねぇと居場所が無くなんだ……俺はそういう奴を何人も見てきた、結局は大に小は従うしかねぇんだ!
「…………はぁ」
「ーーミッシー?」
なんでそんな顔すんだ? 俺、そんな情け無い顔してんのか? なんでそんな優しそうに俺を見んだよ……
「いいぜ、どうせ先輩達とかだろ? 分かってっからそんな顔すんなよ」
「…………あ」
「部活終わってからか? どうせ体育館裏だろ? ちゃんと行くって伝えといてくれよ」
「お、おまっーー」
「だからさ、そんな顔すんなよ。大丈夫だ」
俺はなんてダセーんだ……先輩達の事言えねえ……俺が誰より一番ダセー……
「ミッシーマジか? 遂にって事だろ? だから言ったんじゃーーーん!!」
「山中……落ち着けって……」
「お前マジで俺の言う事聞かねーからこうなったんだぞっ!! 加賀谷っ!! これ他に知ってる奴は?」
「……新城くらいだ」
「……うーー」
山はいいヤツだな……二人はこんなに仲良かった記憶はねぇけど……最近のコイツになんか思う所とかあんのか……
「まぁ取り敢えず落ち着けって、話し合いで終わる様にするつもりだよ。でも、この間みたいに殴りかかってくるなら……また転ばしちゃうけどな」
「……え?」
「……ミッシー? なんの事?」
俺はなんの話か全く分からない……転ばした? もう、一度なんかあったのか? そんな情報全くもってねぇ……
「先輩達全員、足払いして転ばして逃げたんだよ、なんか殴りかかってきたからさ」
「ミッシー!?」
マジか? それが本当なら今日まで先輩達が動かなかったのも分かる……今日やっとあの人の停学が解ける日だから……
「……ミッシー、今日なんの日か分かってるか?」
「……分かってるよ、だからお前が何を伝えに来たか分かったんだ」
あぁ……カッケェな……なんだよコイツ……
俺の知ってる三嶋と別人じゃねぇか…………
#
「ちゃんと伝えてきたぜ……」
「ん? ああ、サンキューな亮」
廊下で新城に報告をする。もっと喜ぶかと思ったが、思ってた程コイツも乗り気じゃねぇのか?
「新城どうしたんだ? 望んだ通りなんだろ?」
「あぁ、当たり前だろ?」
「本当に本当か?」
「……なんだよ、さっきから何が言いてぇんだよ」
俺は頭が悪りぃ……勉強だけじゃなく、色んな事全部……だけどなんかコレはちげーんだ……
「ひ、ひさびさにアイツと話したんだけどよ、何かもうパンピーって感じでな? ほら、そんなのに人数集めてーとか……か
「……あぁ、まぁ硬派のやる事じゃねぇな?」
「だ、だろっ!? だからーー」
「先輩達はそっち路線じゃねぇんだわ、俺らの代からはそっちでも良いけどよ? 先輩らは金とか欲しいからギャング寄りで行くんだとさ」
「ま、マジか?」
「あぁ、マジだ」
そんな……それじゃあ、アイツはコレからずっと搾取されたりし続けちまうんじゃ……
「亮、お前ちょっと誘ったぐらいで気にしすぎなんじゃねぇか?」
「……新城」
「あくまで先輩らは先輩らだ。三嶋と先輩らの問題だろ? もうパンピーで俺らと関係ねぇっつーなら余計俺らが口挟むもんじゃねーんじゃね?」
(コイツの言う通りだ……)
俺はやっぱバカだ……アタマが悪過ぎて簡単に言いくるめられて……
ガラガラガラ……
隣のクラスの扉が開く、今は昼休みが終わる十五分前だ。誰だ? 聞かれたか?
「ん? あれ? 新城に加賀谷じゃん? 四階にもいかねぇで何やってんの?」
「おう、松。ちょっと亮と適当にダベってただけだ。一緒に行こうぜ」
聞かれてはいなそうだ……新城と松は自然に笑顔で喋ってる……
「この時間からかよぉー、五限目遅刻決定だな! 加賀谷も行こうぜ!」
「い、いや俺は今日はいいや……」
「…………」
「そうなん? じゃあ行こうぜ、新城、ヤス!」
松の後ろから教室からヤス君が出てきた。欠伸をしながら眠そうに後頭部を掻いている……
(目が合った……)
無言で俺の前を通り過ぎていくヤス君……一瞬だけど横目で俺に視線を合わせてきた……
その目は何処かバカで情け無い俺を、責める様に冷めたものだった…
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