塩谷凛 第7話




 世界は常に茜色に染まる夕暮れだ……


『なぁ、いいだろ?』

『……でも』


 私には初恋の相手がいてさ、その人は何時も何かを必死に追いかけているみたいだったの。後ろを振り向く事なんて無い、そんな人だったな……


『凛……さっきも見せたろ? 絶対に良いものなんだよ』

『で……でも……』


 でもね? あの人はきっと私の事なんて知らないの……私の恋が実る事はきっと無いんだ……


『良いからさっ! ほらっ、こっち来いよ』

『ちょっ、お……お兄ちゃん……』


 手を引かれ、押し倒されたベットの上。


 これから何をされるのかは分かる……先程見せられた漫画のせいなのかな? 不思議と身体が求めてる様な……そんな感じする……


 はぁ……なんか下半身の内側が熱い……


 私の全身を貪る様に這い回るお兄ちゃんの手…….たまに電流が走る様な刺激が私の中に駆け巡る……


 気持ち良い……


 もう……この刺激に身を任せちゃお……



#




「凛?」

「あ、ごめんねっ! 凄い面白かったよ?」

「そ? それなら良かった」

「うんっ!!」


 なんか先輩って思ってたのと全然違うじゃん! 小学生の時は元気いっぱいなヤンチャなイメージで、中学で再会した時はなんかお洒落で軽〜い感じの不良だったのに……


 それにこの間……まるで別れようとしてるみたいで不安だったけど……ちゃんとこうしてデートに誘ってくれた……


 もうあんな事言わないで欲しいな……


「この先少し混んだ道行くから、ちゃんと繋いでてね」

「はぁーーい」


 ちょー気を使ってくれるーーメチャクチャ優しいーー!!


 何この大人っぽさっ!! 超余裕があるって感じするっ!!


「今度はここら辺の古着屋とか見て回るのも良さそうだね」

「あ、いいねっ! 私ここら辺来た事無くってさ〜なんかお洒落なお店いっぱいあるね!」

「そうだね? あんまり子供……じゃ無くって小中学生だと、治安的にもあんまり来ないかもね?」

「……なんか今子供扱いした?」

「あ、いやいや……言葉選びをちょっと間違えた? みたいな?」


 絶対子供扱いしたっ!! 先輩と私三ヶ月しか誕生日違わないのにっ!!


 なんか突然髪黒くしたのは驚いたけど……それも逆に落ち着いてて大人っぽくなったって言うか……私はギャル系だし、付き合うなら不良っぽいカッコの人が合うかなーって思ってたけど……


「なんか先輩前よりオシャレになった?」

「ん? そう見えるかな? ちょっと趣味が変わりはしたけど」

「うん、なんか大人ってゆーか、芸能人とかみたいな?」

「はは、それは褒めすぎだよ。凛も今日の格好、凄く可愛いくて似合ってるよ」


 キャーーーーーーー!! クラスの男子とか今まで周りにいた男の子と全然違うんだけどぉーー!! 何この余裕な感じーー!!!


「せっ! 先輩は私がギャル系でも大丈夫?」

「好きなスタイルは人それぞれだからね? 好きな様にして俺は大丈夫だよ」

「ちがうーー!! そうじゃ無くって!!」

「??」


 もぉーーにぶいなぁーーこういう所はまだ子供なーー


「あぁ……ごめんごめん、俺は凛がどんな格好してても可愛いくて良いと思う。だから大丈夫だよ」

「!!??」


 ひゃぁーーーー!!!!


 ダメだぁーー頭から湯気が出ちゃいそぉーー、なんか恥ず過ぎるんだけどぉーー!!


「あ、ここでクレープ買っていかない? 公園の売店でも食べ物とかあるけどーー」

「クレープが良いっ!!」

「ふふ、じゃあ奢るから好きなの選んで良いよ」

「マジッ!! やったっ!!」


 あぁーー


 マジで幸せだぁ〜〜 



#



「美味しい?」

「うんっ!!」


 井の頭公園なんていつ振りだろー、動物園に行った以来かな? 


 ベンチに座ってクレープを食べる先輩。白のTシャツの上にグレーのカーディガンを軽く羽織り、古びたジーンズを履いた脚を組んでる……


 カッコいい……なんか様になってるなぁ……


 先輩は池の周りではしゃぐ子供達を優しい顔でじっと眺めてる……


 少し唇にクリームついてる……可愛いっ!


 私はあの唇とキスしたんだな……そんな事を思い出す。


 でもアレ以来……先輩はああいう事しない……


 今日二人で観た映画は恋愛物で、とても純粋な過程を辿って結ばれてった……


 私達はそんな過程をすっ飛ばしちゃった……


 ……先輩は多分それが間違えたって思って、こうしてゆっくりとやり直そうとしてくれてるんだと思う……


 そしてそれはきっと、私の為なんじゃないかって思う……だけどなんか少し残念な様な……


「ん? 凛? どうした?」

「え、あ……ううん、なんでもないよ」


 大人で優しい先輩……私の心なんて、なんでも見抜かれてそう……


「んーー、これか?」

「えっ……」


 差し出されたクレープ……先輩のは王道のチョコバナナだ……


「食べたいのかと思ったんだけど……違った?」

「……食べたいけど……」


 えーーー、良いのかな? か、関節キスだよね? ここまでなら良いの? それとももう解禁??


「じゃ、遠慮なんてしないで良いよ」


 うぅーーーーなんか先輩全然意識してくれてないっ!! 確かにもうこんなのより先まで行ってるけどもっ!!


 なんで私こんなにドキドキしてるのっ!!


「じゃ、じゃあ……」


 まだほんのりあったかい……口の中にチョコとバナナの甘味が広がる……


 私、今どんな顔してるのだろう……真っ赤になってるとしたら……それはきっとこの甘味の所為だ……


「美味しい?」


コクっ


 恥ずかしい……こんな事くらいで……私こんなに意識して……


「凛のはイチゴホイップだっけ? 一口貰ってもいい?」

「……うん」


 顔を赤らめたのを隠したいから、私は顔を伏せたままクレープを差し出す……


 先輩は今どんな顔をして、私と関節キスをしているのだろう……


 少しは意識してくれてるのかな……


 見たいけど見たくない……顔を上げれない……


「ーーあぁ……」


 ……先輩?


「そっか、これ関節キスになっちゃったね? はは……なんか照れ臭いね?」


 あぁ………………………


 この気持ちは先輩がくれたモノだ……馬鹿な私にくれたモノだ……


 あの日、手を止めてくれた先輩…………


 別れないでくれた先輩…………


 お陰で私は…………


 今ちゃんと恋をしてる…………



「凛? ……どうした?」



 だからこそ私は…………



「なんでもないよ……」



 こんなに後悔してるんだ……






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