暴走族に入る子は本来悪い子ではなく、いびつな家庭のなかで感じた寂しさを紛らしたくて、同じような仲間とつるむうちに、そういう組織に加わってゆく。友斗くんも同じだったが、どこかで心に隙間風が吹き、敵に追われる焦燥感と通常の世界の住人を前に感じる負い目、様々な心理を持つ。
でもそんな気持ちを抱えたまま学校へ行ったら、あたたかくまっすぐな目を持つ友達と空手に出会い、大きく変わってゆく。
なんて素敵な心の成長だろう。元暴走族だったお母さんへ、言いたい文句をぐっとこらえる思いやりも、本当に泣けてくる。友斗くん、これからもがんばれ!!!そうエールを送りたい。
この作品は少年の蹉跌と更生の物語です。
物語は主人公である友斗が、人を傷つけることの惨さを我が身で知ることから始まります。
集団で襲った相手に返り討ちにあって無様に負けるのです。
〝激弱キックですね〟
襲った相手にそう嘲られ、打ち負かされ悔しさの中に沈むのです。
一人称で語られる打ち拉がれた友斗の心情が胸に切なく迫ります。
行き場を無くされ、否応なく生き方を変えられた主人公。
彼はまだ中学一年生の児童であり、
学生生活へと立ち戻ることになります。
しかし、そこで新たな友人との出会いを得て友斗は別の道へと向うことになります。
ケンカから空手、暴力から武道へと打ち込むものを変えることになるのです。
友斗は、この出会いを通じて違えた道から完全に離れ、これまでの自分の行いを顧みるのです。
ここに至り、友斗の行いを通して〝生き方とは、とりもなおず〝行き方〟であるということが読む者にも明瞭に示されます。
人との出会いは人を変え得るのです。
そして、物語の後半。
ある機会に臨んだ友斗は、勇気と覚悟を持って困難に立ち向かいます。
新しい友だちや師匠とともに。
そして、すべてが終わった後、かつて憧れた先輩とより良い関係となり、また出会い直すこととなります。
この作品は、傷つきやすい少年の心の成長を瑞々しい筆致で描いた物語です。
少年期にある方も、かつてそうであった大人の方も本作に触れることで心にまた新たな息吹を感じることでしょう。
お勧めします。ぜひ一度ご覧ください。
暴走族をやめることになった中学生の少年の物語。子どもが非行に走る理由はさまざまですが、生まれつきの「ワル」だけでなく、周囲の大人や環境によってそうなってしまう現実もあります。本作は、そうしたリアルをしっかりと描き出しています。
主人公の蹴りは、相手から「激弱キック」と馬鹿にされるほどのへなちょこぶりです。そのことがきっかけで空手を習い始めるのですが、新しい仲間との出会いを通じて、次第に地に足のついた考え方を持つようになります。
そして物語の終盤では、大きな壁が彼の前に立ちはだかります。仲間を思う気持ち、困難な状況でも諦めない強い意志が描かれ、少年漫画のような熱い展開が胸を打ちます。
また、同じ作者の関連作品『右頬をうて』もおすすめです。両作を読むことで、「あの人物はあの時の…」と新たな発見があり、より深く楽しめるでしょう。ぜひ、あわせて読んでみてください!