心地よいドキドキとワクワクがちりばめられた作品です
- ★★★ Excellent!!!
「明日の帰り道、魔法使いを見かけたらどうしよう?」
この作品を読むまでは当たり前に考えなかったそんなことが、ごく自然に頭にわいてくるような、現実にファンタジーがうまく溶け込んだ作品です。
第一章では、登場人物のそれぞれの人物像、生い立ちや過去の傷などが様々なイベントとともに明かされていくのですが、気づけば読者である私も物語の中にぐっと引き込まれていました。
メインの登場人物は本作の概要にもあるとおり4人です。大人で、魔法と関わりのある千秋と拓人と、高校生で一般人の茜と優斗。
大人と子ども。魔法使いと一般人。共通点なんてほとんどない4人が、ごく自然に心を通わせ、一つのチームになっていくのですが、しかしその過程にあるのは世界の危機だとか大層な事件ではなく(厳密にいえばそうなのですが)、4人がマジカルエクスプレス便の仕事をこなす穏やかな日常、プラスアルファ。ファンタジーなのに、ファンタジーというよりも、いま私たちが生きている現実のすぐそこに存在しそうなリアルさが、とても印象的でした。
マジカルエクスプレス便のチームとして楽しく過ごす時間の中でも、影魔法使いとの遭遇などを通して、それぞれの成長もしっかりと感じらました。この成長が、これからの物語の展開にどうつながっていくのかわくわくしました。
第二章では、百年目の満月の日を中心に、五徳の話、優斗の特訓などなど、一気にファンタジー的な要素が増えてきて、話を進めるたびに心が弾みました。
その中でも、登場するドラゴンが≪河童≫ドラゴンだったり、茜と優斗の昔話であったり、多数の千秋のポンコツエピソードであったりが随所にちりばめられていたので、重たく暗い雰囲気にならず、クスリと笑いつつテンポよく読み進めることができました。
また、基本的には千秋視点で話が進んでいますが、たまに優斗や茜、店長の視点での話もあったりして、千秋視点では知ることができないそれぞれの心の内が知れるポイントがあるのも良かったです。個人的には特に店長視点の閑話が好きです(トラ吉呼びとミケちゃん呼びの差…笑)。
第一章では警戒心からか控えめに見えた茜も、第二章に入ると自分の知的欲求を抑えず、貪欲に魔法について食いつくようになりますが、その変化も良いなと思いました。
優斗は根明な部分はそのまま変わらず、自分の中にある力に対する責任と決意を新たに抱いて、頼もしく感じられました。
ファンタジーだと、世界観の説明やルールの説明が事務的で無理やりねじ込んだような感じが出てしまうことが多々ありますが、その点もごく自然に過不足なく、登場人物たちのやりとりの中にあったのがすごいと思いました。
影魔法使いとの対決、百年目の満月の日、これから物語がどう展開していくのか楽しみです。
超個人的には、4人の保護者的なポジションにいる店長とエリアス先生も、どうか最後までご無事でいらっしゃるように祈るばかりです…