九分九厘そうなんだけど

青王我

一厘の方だっていい

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。始めこそいつもと変わらない、取り留めのない夢だった――。


「その話、長くなる?」


 放っておけば朝まで話していそうな男を、カウンター席の隣りに座っていた連れが制止する。

 二人の目の前には刺身やら、煮物の小鉢やらが並び、めいめいに中身が減ったグラスが置かれていた。


「長くなりそう」

「手短に頼むよ」


 男が刺身の最後の一切れをつまみ上げると、空いた皿が速やかに下げられ、入れ替わるようにして山菜のおひたしが提供される。

 男の連れはおひたしを憮然とした表情で口に運び、その旨さで僅かに頬を緩ませながらも小声で悪態をつく。


「しかし焼き鳥屋だっていうのに、いつになったら焼き鳥が出てくるんだろうね」

「コース料理ってなんでも最後にメインを持っていきがちだよね」


 焼き鳥屋といったら席につけばもうひたすらに串をついばむのが普通だと、少なくとも連れは思っていたようだ。


「まあでも、焼き鳥屋なのに刺身が出るマインドはアレかもね」

「せっかくだから鳥刺しにすればいいのにさ」


 しかし味自体は最高なので、二人とも酒はスイスイと進んでいる。

 それに、焼き鳥屋にはよくある煙臭い雰囲気も全くない。それは排煙装置が優秀だというのもありそうだが、一番の理由は焼き鳥専用の厨房が上階にあるという点だろう。


「それでどうして同じ夢だと分かったのさ?」

「そう、途中から君と同じ卓でお酒を飲むんだけど、メインの料理が焦らされるところで気付くんだ。それで、やっとメインが来たかと思えば上から――」

「おおっ、ヤキトリの降臨だぁ?」


 夢の話を続けようとする男を遮って小さく叫ぶ連れの目線の先には、かごに載せられて上階から吊り下げられてくる焼き鳥の姿があった。

 下階の店員が降りきったかごから焼き鳥を取り出し、周囲の客に配っていく。それは待たされたに値する、素晴らしい出来の焼き鳥のようだった。

 男の連れは焼き立ての焼き鳥にありついてハフハフと吐息を漏らす。

 ひとしきり焼き鳥をついばんで酒を呷った連れは、憂いも文句も消え失せたような笑顔で男の方を向き直った。


「ごめんごめん、それでなんだって?」

「うん、それで、今回はどっちなんだろうね?」

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九分九厘そうなんだけど 青王我 @seiouga

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