青年期 第十二話 泥濘は深くしつこく

元服(げんぶく、げんぷく)とは、奈良時代以降の日本で男子の成人を示すものとして行われた儀式。通過儀礼の一つである。 引用wikiprdia


永仁4年 (1296) 3月 一色頼行

雪が融け、川が冷たい雪解け水で増水しているころ、俺たちは田植えの手伝いをしていた。


「やべぇ、太郎たすけて」


田んぼに足を取られている三郎が悲鳴を上げる。


「おにぃ、がんばれぇ」

「頑張れ~」


「おいっ、彩はいいけど守時てめぇは助けろよ」


じつは三年前に赤嶺家に娘が生まれ、赤嶺家の男が特に溺愛しており将来、行き遅れにならないかが心配な子だ。


「すみません、私は彩殿のお守りをしなければならないので、あしからず」


「このくそったれが!!」


「おいっ、そこ遅れてるぞ!」


「いや、太郎お前なんでそんな早いんだよ、農家の人より早いぞ!」


「やはり、日ごろの鍛錬がこういうところで出るんじゃないかな、あとで公波に言っておこう”三郎は鍛錬が足りていない”と」


「はぁ?マジでやめろよ、ほんと、頼むから、俺の元服がまた遅れる」


そうなのだ、太郎はそろそろ14歳になるのだがいまだに、元服できていない、俺のことをまだ太郎と呼ぶのも嫉妬かららしい。


「まぁ、そう焦んなって、おれは三年前にしたけど」

「わたしも、10歳のころにはしてましたねぇ」


「キェェェェェ!」


「でも本当に元服は近いと思うぞ」


「えっ、なんで」


「それはだってほらっ」


「あれがイライラしていますからね」


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永仁4年 (1296) 3月 一色公深


「いまの情勢はこちらにすこし有利といったところだったよな」


館の一室で私は公載と将棋をしながら話した


「そうですね、やはり昨年完成した人工河川がでかいですね、あれによって三河の豪族の中で結束力が出てきました、このままいけば交渉次第ではかなりの勢力を味方につけられますな。」


「あれまで、味方3、中立5、守護2くらいで事次第によっては、こちらが狩られかねない状況だったが今では、味方5、中立2.5、守護2.5くらいだろうか」


「ただやはり、守護殿はえらく文化人気取りなんだな、公家気取りの愚図どもが我々の作った景気のおこぼれを得ただけのくせに、守護のまわりでおべっかを使う糞どもがっ!」


パチンっパチンっと打つ音が怒りが込められたのか、一室に響きわたる。


「ただ少し気になることで言えば、他の国に得宗家がかかわっているのか?なんだよな」


すこし悩んだように、長考に入った。


「しかし、我々にはそういう諜報を担当するものがいませんからねぇ」


「まぁ吉良の若頭に任せるしかないか、組一番の切れ者で一族の中核を担っている、麒麟の入れ墨を持つあの方ならきっと手を打ってくださっているでしょう。」


突然始まった龍みたいな自由業のゲームの話をされた公載が首をかしげながら、駒を進める


「何がしたいんですか?吉良家ってそんな白峯会みたいな家でしたっけ、あと吉良殿は入れ墨入れてないです、そんなに詳しくないくせに語るのやめてもらっていいですか、はい王手」



「げっ降参だ、ちょっとくらい手加減してくれよ、いったいいつからこの手を読んでいたんだ?」


「だいたい、50手目超えたあたりから考えたので、40手ほど前ですかね」


「お前の方が吉良殿よりもしかしたら賢いのかもしれないな」


三日月の出る夜に、二人は場所を移し縁側のほうに出て、酒を片手に話し始めた


「ははっ、私のほうが賢くても向こうのほうが立場が高いので、できることが違いますからな」


「うちが小さくて済まないな、そうしたらお前の才をもっと生かせるのになぁ」


「あなたについていった時点で私は立身出世をあきらめたようなものですが、ただ一色家は次代からが本番ですからね」


「そう、だな、はぁ、どうすれば、いいのだろうか?」


そんな次代を楽しみにしている公載を前に、俺はさっきまで楽しく飲んでいた酒の味まったくしなくなった。


俺にはすでに息子がおりその子は非常に優秀なんだが庶子で、おれの正室が最近妊娠した。

もしこの子が男子だった場合頼行を養子に出すか、新しい家を建てなければならない、しかしうちは新しい家を作れるほどの余裕もなく、仲のいい家はだいたいすでに後継ぎが定まっている。


いったいどのようにすればいいのだろうか?


「もしや、家督のことについて悩んでおりますのかな?」


「あぁ、頼行がこれからどうなるのかをな」


酒を勢いよく飲み干し公載は言う、

「私はお菊様が男子を生まれたとしても、頼行様になされたほうがいいと思いますな」


「してその心は?」


「あなたの生まれが遅かったせいであなたは足利一門の中で家格が低いのと似たようなもので、頼行様は庶子だからという理由で一色家を継げない、このようなことがあっていいのですか!

今でさえ幕府は揺らぎ、朝廷はただの神輿となっている、このようなざまで次代が安定するわけがない、戦乱だ、戦の世となる。

そのときに一色の上に立つものは誰よりも才に満ち溢れている、この方をおいて他に当主にふさわしいお方はおろうか、いやっ、いるはずがないだろう!」


明らかに酔いが回っている、公載がいつもの冷静沈着な思考を捨て、思いの丈を述べた。


公載は頼行の守役でもないのに、かなり入れ込んでいるな。

確かに、言ってることは間違っていないのだが、やはり庶子が家を継いでしまったら前例が残り後の世代が苦労するのではないだろうか。はぁ、頼行がこれから生まれてくるわが子を陰から支えてくれるようになってくれないだろうか?


陰陽師にでも占ってもらおうか


《          涼風や ほの三日月の 羽黒山            》

                           松尾芭蕉

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こんにちは梟町です。

今回の話は将来への不安をもつ親子をえがきました。

次に生まれる子は、男子か女子か、いったいどちらになるのだ!

最後の句はなんかあった。


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