空白のカレンダー

昼月キオリ

空白のカレンダー

妻はまだ38歳という若さだった。

途中まで家で生活していたが、徐々に症状が悪化し、入院生活を経て亡くなった。

生前、月に二度必ずデートをする日を決めていた。

互いの仕事の休みが重なる日。

第二土曜日と第四土曜日だ。

その際、妻はいつもキッチンに飾ってあるカレンダーに目印をつけていた。

真四角な空白の中に赤ペンで描くハートマーク。

妻は予定があるとカレンダーに絵を描く癖がある人だった。

色々なペンを使って描くからこの部屋のカレンダーはカラフルで明るく可愛らしいものだった。

けれど、一月経ってから今僕の目の前にあるカレンダーは無機質で真っ白な空白が目立つものへと変わってしまった。

手で触れると冷んやりと冷たい。

まるで今の僕の心と同じだ。

この先もずっと僕は冷えた日々を過ごすと思った。

亡くなってからしばらくは妻の部屋に入る事さえできなかった。

どうしても妻の死を受け入れられなかったのだ。

しかし、いつまでもこのままにしておけば妻の部屋が埃だらけになってしまう。

それだけは避けたかった。妻は綺麗好きだったから。

きっと汚れた部屋を見たら怒るだろう。

僕はついにずっと手付かずだった妻の部屋を整理しようと中に入る。

整理する途中、引き出しの中を見た。

紙が沢山入っている。

何かが書かれている・・・何を・・。

僕は書かれたものを見た瞬間、涙でいっぱいになった。

一枚一枚手でめくる。

そこには妻の手書きのカレンダー。

来年、再来年・・・100年後まで。

妻は自分の死期を悟った後で描いていたんだ。

いつもデートをしていた第二土曜日と第四土曜日に赤いペンでハートマークを。

「はは、はは・・・ばかだなぁ、100年なんて僕が生きてるはずないのに」

それはそれだけ自分と一緒にいたいという妻からのメッセージだった。

僕はその日以来、妻の手書きのカレンダーをキッチンに飾った。

第二土曜日と第四土曜日にはテーブルを飾り付けし、妻の好物を並べ、写真立てを置く。

僕は妻の写真立てを見つめて言った。

「乾杯」

写真の中の妻はいつまでも幸せそうに笑っていた。

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空白のカレンダー 昼月キオリ @bluepiece221b

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