世界が僕たちを殺してしまう前に

昼月キオリ

世界が僕たちを殺してしまう前に

一話 両親への殺意

9月。僕は暑さや虫がいることにさえ気付かなかいほど疲弊していた。

ナギサ。26歳。

僕の母親は3年前から若年性認知症になった。

父親は2年前に事故に遭い、その後遺症で寝たきりだ。点滴がずっと繋がっている。

僕は毎日介護をし続けた。

「施設に入れるなんて普通はありえない」

「酷い」

「子どもとはこうあるべきだ」

「甘えるな、俺が若い頃は〜」

そう周りからは言われ、僕もそれが当然だと思って生きてきた。

だから逃げ場がないのが当たり前だと思っていた。

選択肢を持たぬようにと、周りと同じようにしなさいと産まれた時から社会に育てられてきたのだから当然だ。

周りの連中は見事に我慢大会な人生。

辛い方が勝ち選手権を絶賛開催中だ。

そんなこんなで頼れる人は周りに誰もいなかった。

それでもその時その時は平気だと思っていた。

というか何も考えないようにしてきた。

周りに逆らわず、自分の意思は持たず、考え方も生き方も合わせた。

だが、そんなロボットのような毎日はあっさり終わった。

日々の積み重ね、そしてそれ(殺意)は突然やってきた。

ナギサ「そうだ、両親を殺して自分も死のう」

ついに限界が来たのだ。

僕は両親を殺した。

父親はベッドに取り付けられている点滴を外しただけで呆気なく死んだ。

苦しむ様子もほとんどなかった。

本当に死んだのか?と思い呼吸を確かめに行ったらちゃんと止まっていた。

母親は騒ぎになっては不味いと首を絞めて声を出せないようにして殺した。

しばらくもがき苦しんでいたが僕が腕の力を弱めることはなかった。

ただただ、早くこの毎日が終わってくれと、その一心だった。

しばらく立ち尽くしていたが、近くを通る豆腐の移動販売カーの音が聞こえた。

その瞬間僕は我に帰り、気が付けば家を飛び出していた。

両親の遺体はそのままにした。


二話 赤子への殺意

9月。厳しい残暑の中、ひぐらしが大合唱のごとく鳴いていた。

キサ。26歳。

目の前で泣いているのは一歳にも満たない自分の息子。

名前はマサル。

いつだったか誰かに言われた言葉を思い出す。

「産んだら可愛いくなるから大丈夫だよ!」

あれやっぱり嘘だった。

だって目の前にいる"それ"に愛情なんて湧かない。

私の頭は単なるグロテスクな物体としてしか認識していない。

嫌悪感と憎悪しか湧かない。

旦那のタカトにはもちろんオブラートに包んで本音を伝えた。

自分の息子を可愛がれない、これからどうしたらいいかと。でも。

「それはお前がおかしい」

「母親とはこうあるべきだ」

「普通はこうなるはずだ」

「母親なんだから愛するのは当たり前だ」

それだけ言うと話は一方的に切られた。


大学生の頃付き合っていたのが今の旦那だ。

当時22歳。タカトと付き合い始めて4年、私達は結婚した。

旦那には最初から子どもは好きじゃないと言っていた。

それでもいいよと言われて結婚した。

今思うと、それは受け入れてくれていたわけじゃなくて軽くあしらわれていただけだと知る。

それからが地獄だった。

唯一の理解者だと思っていた彼が子どもを作ろうと言ってきたのだ。

旦那は産んじゃえば大丈夫大丈夫と言って嫌がる私を毎日のように抱いた。

すぐに子どもができた。


周りからは「旦那に求められて羨ましい」「子どもができて良かったじゃん!」「幸せだね〜」

そう言われた。

両親は「あなたが小さい頃は〜」とその話ばかりで私の話は全部スルー。

助けてくれる人はいなかった。

味方なんていなかった。

もし、たった一人でも味方がいてくれたら変わっていたかもしれない。

これから起こる惨劇が。

「毎日毎日うるさいんだよ!泣きたいのはこっちだよ!!・・・あ、そうだ、この子を殺して私も死のう」

逃げ場がなくなってある日私はついに、泣いている我が子の首を絞めた。

声が出ないように殺すにはそれしかなかった。

私の体と心は連日の睡眠不足、ストレス、食欲不振で限界を迎えていた。

息子は死んだ。

首を絞められて声も出せぬままに。

死体はそのまま部屋に放置し、私は家をそっと出た。

旦那が帰ってきたらすぐに警察に連絡して私の捜索願いが出されるだろう。

その前に行かなければ。あの場所に。

 


三話 殺した後に甦る初恋

僕は電車に乗って樹海の森へ向かっていた。

電車の一番後ろのこの車両ににいるのは二人だけだった。

僕と、もう一人は君だけ。

電車の中で出会ったのは初恋の人だ。

あの目元、唇の形、髪の色、変わっていない。

あの日見ていた君のままだ。

しかし、あの頃と違って顔色は青白くやつれている。

目の下のクマも酷い。

極度の睡眠不足状態だろう。

体は酷く痩せ細って骨張っていた。

食事もまともに取れていないのだろう。

彼女はこちらに気付いていない。

初恋の人の変わり果てた姿に僕は思わず声を掛けた。

ナギサ「あの・・キサちゃんだよね?」

彼女は不意に声をかけられビクリと肩を振るわせた。

キサ「え、ナギサ君?」


僕は高校2年の9月。そう、今と同じこの季節に彼女に告白をしてフラれている。

彼女は明るくて友達も多かった。だけど反対に俺は根暗で友達もいない。

でも、それでもこんな僕にも気さくに声を掛けてくれた。

彼女はアニメが好きだったが、周りに話が合う人がいなかったそうだ。

僕はアニメオタクと言われる部類の人間だった為、その話をしたら意気投合し、すぐに打ち解けて友達になった。

自分なんかが告白なんてと最初は思っていたが、

僕は後悔したくなかった。

まぁ、案の定フラれたわけだけど。


ナギサ君だ。

あの頃から変わってない。

話し方も見た目も。

私は本当はナギサ君が好きだった。

でも、あの頃の私は周りの目を気にするあまり告白を断ってしまった。

友達としてナギサ君と仲良くしている時、周りから「ナギサ君は辞めときなよ〜根暗じゃん」「もっといい男にしなよ、かっこいい子紹介するよ?」と言われていた。

私も「うん、そうだね、そうするよ」と答えてしまったのだ。

自分が好きなんだからいいじゃん!って言えていたらどんなに良かったか。

本当は私もずっと好きだったのに・・・。


ナギサ「隣いいかな?」

キサ「う、うん」

ナギサ「顔色悪いけど大丈夫?家に帰って休んだ方がいいよ」

キサは首を横にふるふると小さく振る。

キサ「あの家にはもう帰れないから」

ナギサ「あの家って実家のこと?」

キサ「ううん、旦那と子どもがいるマンション」

一瞬、音が聞こえなくなった。

しかし、すぐに電車のガタンゴトンという音が聞こえてきた。

初恋の人は結婚して子どもまでいた。

ショックだった。

僕はというと初恋を拗らせて彼女を作れないまま23歳になり、それからは両親の介護に追われれる日々だった。

今思うと、彼女を作れなくて正解だった。

できていたとしてもどの道別れていただろうから。

ナギサ「そ、そうなんだ・・・でも、どうして帰れないの?」

キサ「私、今日、自分の子どもを殺したの」

僕の初恋の人はそう言った。

"殺した"と彼女は確かにそう言った。

僕はすぐに返した。

ナギサ「実はさ、僕も今日、両親を殺したんだよね」

キサ「え!?・・・そ、そう・・・」

彼女は一瞬、目を見開いたものの、すぐに平静に戻った。

同じ場所を目指しているとすぐに互いにピンときた。

二人は無言のまま終着駅へ向かった。


着いた場所は初めて来る場所で、人は誰もいない。

あたり一面、緑に包まれていた。

いわゆる秘境駅と言われる場所だ。

駅には屋根もトイレも付いていない。あるのは駅名が書かれた錆びれた看板と、二人掛けの錆びれたベンチ一つ。

そして、そのベンチの横に立て掛けてあるもう一つの看板。

傾いてはいるが"この先800m、樹海の森"としっかりと書かれていた。

二人は垂れてくる汗を拭きもせず、ただただその先へと足を運んだ。

その間、僕達はずっと閉じていた口を開き、今日あったことをポツリポツリと互いに話始めた。



四話 ずっと言って欲しかった言葉

ナギサ「そっか、今まで頑張ったんだね」

キサ「え・・・?私、子どもを殺したんだよ?なのにどうしてそんなことが言えるの・・・?」

ナギサ「もちろん、子どもを殺したのはいけないことだよ、

僕たちは許されないことをした、それは事実だ、

でも、今までの君の考えまで僕は否定しないよ」

キサ「な、なんで・・・」

ナギサ「むしろ僕はキサちゃんをここまで追い込んだ旦那さんに怒りが湧いてるくらいだよ、

だって、僕が君の恋人でいたなら

君みたいな考え方があったっていいじゃないかって言っていたはずだよ」


そうだ、私は本当はずっと誰かにそう言って欲しかったんだ。

あの日、ナギサ君からの告白を受けていたら未来は違っていたのかな。

ナギサ君はあの時からずっと今も私のことを好きでいてくれている。

一途なナギサ君ならタカトみたいなことしない。

ナギサ君と付き合っていたらこんなことにはならなかった。

でも、もう遅い。

そんな虫のいい話を考えてる自分最低だ。

全部自分が悪いんじゃないか。


正直、こんな悲しい初恋の人との再会の仕方なんてあるのかよって嘆きたくなった。

例えばさ、同窓会で久しぶりに会ったら話が盛り上がってそのまま二人で抜け出して二軒目に行くとか。

オシャレなカフェの店員をしていたら君がたまたまお客さんで来てそれがきっかけでまた話すようになってとか。

いやいや、それは無理があり過ぎる。

同窓会なんて呼ばれるタイプではないし、引っ込み思案で根暗な僕がオシャレなカフェの店員なんてできるはずがない。

それでももっとロマンチックに出会いたかった。

でももう遅いや。

もっと選択肢を持つべきだった。

周りが何と言おうと、逃げだと言われようと、頼れる部分は頼ればよかった。

自分は自分だと胸を張れる人間だったらよかった。

でも、最後の最後で味方ができてよかった。

こんな形だけど、君とこうして二人で歩いている。

それだけで今までの人生が報われた。

今まで幸せなんて感じたことなかったけどこの瞬間だけでも幸せだ。

ああ、このまま時が止まってくれたらいいのに。

僕たちは誰にも許されない。

僕たちはこれから地獄へ落ちるんだ。

だって君も僕も家族を殺したんだから。

僕らは似たもの同士だろう?

この世界に僕らの味方なんていないよ。

味方はこの世界にたった一人だけだ。

僕らは同じ日に人を殺して同じ日に同じ場所で同じ死に方をするんだ。

この世で唯一の味方だ。

僕だけは君の味方だ。何があってもそれは変わらない。

僕が君に告白をしたあの日からずっと。

だからどうか君も僕の味方でいて欲しい。

どうか・・・。


五話 神様タイムスリップ

僕たちは樹海で首を吊って死んだ。

カナカナカナカナ。


キサ「ナギサ君!ナギサ君!」

ナギサ「う・・・あれ、ここは?」

キサ「良かった、気が付いて・・分からないの、気付いたらこの真っ白な空間にいて・・・」

ナギサ「なんだこの空間は・・・」

神様「やぁやぁ」

そこには現れたのは長い白髪に白い髭、白い衣服と背中に羽根が生えたおじいさんだった。

漫画でよく見る神様といったところか。

ナギサ「え!?だ、誰ですかあなたは・・・というかここはどこですか」

神様「ここは成仏する前の入り口みたいな所だよ、

二人は死んで霊体になっているというわけだ」

つまり、幽霊ってことか。

キサ「あ、あの、それならこれから私たちは地獄へ行くんですよね?」

神様「まぁそう焦るでない」

ナギサ「神様ということは僕たちが何をしたか知ってるんですよね?」

神様「ああ、全部知っている、二人とも家族を殺したのち、樹海で首を吊ったとな」

ナギサ「だったら今すぐ地獄へ行くべきでしょう?」

神様「出たでた、人間はすぐ〜すべきーとか、こうあるべきーとか頭が硬いのぅ・・・わし、そういうの嫌いだなぁ」

神様は聞き飽きたと言わんばかりに首を横に振りながら気怠そうに言った。

ナギサ「・・・」

キサ「・・・」

神様「まーったくそーんなんじゃこの先、生きてくのもしんどかろうに、

あ、二人とも首吊ってもう死んでおるんじゃったな、こりゃまた一本取られたわい」

人を殺した相手に話しているとは思えないほどこの神様という人はあっけらかんとしていた。

まさか首吊りの話をこんなに明るく話されるとは・・おそらくこの神様にしかできない芸当だろう。

ナギサ「ですが、死んでいるならこれから成仏するのですよね?先程、ここは成仏する前の入り口だと言っていましたし」

神様「人ひとりを成仏させるのも結構面倒でのぅ、しばらく時間がかかるのだよ、いやーんなっちゃう、

あーそうだ、どうかね?これを機に一度だけなら人生をやり直すチャンスをあげよう、

お前さんたちも色々大変な目に合ったようじゃし」

ナギサ「え、や、やり直すって・・・」

キサ「わ、私やり直したいです!ナギサ君、一緒にやり直そうよ!」

ナギサ「キサちゃん・・・うん、分かった、やり直そう」

神様「今度は山奥でのんびり暮らすといいよ、世界が君たちを殺してしまう前にね」

ナギサ「そうですね」

神様「よし、決まりじゃな!まぁ、君たちはこれからはもっと自由に生きなさいな、ほいっ!」

神様がそう言うと二人はパッと消えた。



目が覚めた僕はベッドの上にいた。

あれ?僕は死んだはず・・・。

一階から物音が聞こえて慌てて起き上がる。

ナギサの部屋は二階だ。

部屋を出てキッチンに行くと、そこにはエプロンを付けて朝ごはんを作る母親の姿があった。

なんで生きてるんだ?・・・僕は確かにこの手で殺したはずなのに。

僕が状況を飲み込めずにポカンとしていると、母親が話しかけてきた。

母親「ご飯もうできるわよ、あら、ナギサどうしたの?顔が真っ青よ、大丈夫?今日は学校お休みする?」

え、学校?何を言ってるんだ?

僕は急いで鏡を見た。

そこに写っているのは高校生の時の自分だった。

高校生の頃にタイムスリップしている・・・?

ナギサ「父さんは?」

母親「父さんはいつも通り会社よ?」

ナギサ「そう・・・」

母親「ナギサ、本当に大丈夫なの?最近疲れてるんじゃない?」

優しい母親の言葉に泣きそうになった。

ホッとしたと同時に罪悪感に苛まれた。

僕は殺してしまうのか。母さんを、そして父さんを。

ナギサ「いや、大丈夫だよ、学校行ってくるよ」

僕はなるべく平静を装った。

母親「あらそう?それなら気をつけて学校行くのよ、はい、お弁当」

ナギサ「うん、ありがとう母さん」

よく分からないが、ひとつだけ確かめないといけないことがある。

学校に行くとすぐにキサちゃんが僕のところへ来た。

話があると。

向こうもすぐに僕に会いに行かなければと思ったと言う。

どうやら二人は記憶はそのままにタイムスリップをしたらしい。

キサ「こんなことってあるのね・・・」

ナギサ「うん、僕も最初は何が起きたのか分からなかったよ」

キサ「やっぱりあの神様って人、本物だったんだ」

ナギサ「本当にいるんだね、神様なんて・・・」

キサ「まだ信じられないよ」

ナギサ「キサちゃん」

キサ「何?」

ナギサ「僕、キサちゃんが好きだよ」

キサ「ナギサ君、忘れたわけじゃないでしょ?私がしたことを・・・私は・・・」

ナギサ「うん、それは僕も同じだよ、でも、それでも僕は君が好きだし君の味方だよ」

キサ「ありがとう・・・ナギサ君、私の味方になってくれて、私も好きだよ」

ナギサ「え・・・ほ、本当に?」

キサ「うん、本当はね、私もずっと好きだった、あの日言えなくてごめん」

ナギサ「いいんだよ、今こうして言ってもらえて凄く嬉しいよ、ありがとう」

キサ「ナギサ君は優しいね」

ナギサ「そんなことないよ」

六話 世界が僕たちを殺してしまう前に

ナギサ「これは神様が与えてくれた最後のチャンスだと思う、だからやり直そう、

もうあの時の悲劇を繰り返してはいけない、

僕たちは二人で生きていこう」

キサ「うん」

二人は手を繋ぎ固く決意した。

大切なのは行き止まりにならないように選択肢を持つこと。

ナギサは卒業後、お金を貯めて両親には施設に入ってもらった。

母親の認知症も父親の事故を食い止めることはできなかったのだ。

しかし、前の時よりも母親の症状も父親の怪我もほんの僅かだが緩和されていた。

これも神様のおかげだろうか。


神様「え、わし?わしは何もしとらんぞ」

空からすかさず手を横に振り突っ込みを入れる神様。


僕は施設には通っていたが心は晴れていた。

もう周りの意見に流されない。

流されて流されて人を殺す結末にだけはたどり着いてはいけない。

僕らは僕らだ。

周りには周りの幸せがあるように僕らには僕らの幸せがある。

周りに流されずに自分の意思はちゃんと持つこと。

周りに合わせてその結果自分が壊れても労りの言葉はおろか責められるだけで誰も責任なんて取ってはくれない。

会社が良い例だろう。

全ての会社がそうではないだろうが、仕事をしてる時は良くしてくれた人たちも体調を崩して辞めるとなった瞬間冷たくなったじゃないか。

結局、無理をしたのだってそれを選んだ自分の責任なんだ。

そうだ、結婚も仕事も全部辞めよう。人と関わるのは時々でいい。

普通はこうだ、こうしなければ、こうあるべきだという概念を取っ払った僕らに待っていたのは驚くほどに穏やかな日々だった。

ナギサ「神様が言ってたね、山奥で暮らしたらって、

僕もそう思うよ、誰もいない場所で、誰も来ない場所で、かなり不便な生活にはなると思うけど・・・」

本当は山奥にまで行かなくても良かったし、仕事を辞めなくてもいいとも思った。

友達の多い君には酷なことかと思ったけど。

正直、初恋の人を独り占めしたいと思った。

キサ「大丈夫だよ、人目を気にしてしまうなら人間関係は絶った方がいいかなって私も思ってたところ」

ナギサ「本当にいいの?簡単には街に出れなくなるけど」

キサ「うん、いいよ、私もう疲れちゃったの、それにねナギサ君がいてくれたら他には何もいらないよ、二人で生きて行こう」

それは僕にとってこれ以上ない言葉だった。

行こう山奥へ。世界が僕たちを殺してしまう前に。


僕たちは深い深い森の奥にある小さな家で自給自足をしながら暮らした。

記憶は消えてはいないから罪悪感に苛まれる日もあった。

残酷で優しい時間。

そんな日は一日中抱き締め合った。

毎日、野菜を育てて空を眺めて、夏には川に遊びに行った。

世間から隔離された世界。

まるでこの世界には最初から二人しかいなかったかのように静かで穏やかな時間が過ぎていった。


空からそんな二人を見守る人物がいた。

神様「ふむ、上手くいったようじゃな、いつの時代も人間とは困った生き物だのぅ・・・

おや?あそこにいるのは確かキサちゃんの旦那になる予定だった確かタカトと言ったか」

タカトは彼女とデート中だ。

神様「おっと、この彼女さんもキサちゃんみたいに大人しいタイプだ、いかんいかん、このままではこの彼女さんもキサちゃんが辿った結末を迎えてしまう、ほいっ!」

神様が何やら力を使うと、タカトのズボンが下に落ちた。

ガバっ。

タカト「え!?な、なんだ!?」

彼女「いーやー!!最低ー!!」

さすがの大人しい彼女もこれには耐えられなかったようで強烈な平手が飛んだ。

バチン!!!

タカト「いってぇ!!」

神様「大成功♡」

神様は空に向かってVサインをした。

神様「今のはなかなか良い平手じゃったのぅ・・・

キサちゃんをボロボロにした罰じゃ、

おや、あっちにいるのはマサル君じゃないか、産まれてくるルートが変わって今はこの女性の息子として産まれてきたようじゃな、歳は三歳くらいかのう」

母親「マサル!危ないから道路に出ようとダメでしょう?」

マサル「ご、ごめんなさい・・・」

母親「ほら、行くわよマサル」

母親が手を出すとマサルは素直に手を出した。

マサル「うん!!」

神様「ふむふむ、元気に育っているようで何よりじゃ、まーったく、人間とは世話の焼ける生き物じゃのう、ほっほっほ」

部下「神様」

神様「おや、来たか」

部下「またあなたは勝手な事をしましたね」

神様「ふむ?何を言う、わしは世界平和を望む正義のヒーローだと言うのに」

部下「よく言いますよ、気まぐれでしか動かないくせに」

神様「そんなことはない」

部下「俺からしたらあなたの暇つぶしに付き合わさる人間達が不憫でなりませんよ」

神様「まぁ、楽しんではおるな」

部下「本当、性格悪いですね」

神様「それは褒め言葉として取っておこう」

神様と部下はそう言いながら消えていった。

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