【KAC20255 三題噺】とある島に伝わる神話より

日崎アユム(丹羽夏子)

島の古老、なんかはまってんな

 むかしむかし水平線の向こう側からこの島にある戦士が渡ってきた。


 この戦士は半神半人の男で、天下無双の剛の者、ある時は太陽を海に落とし、ある時は月を引っ張り、深海の化け物を退治したと思ったら火山の化け物を退治する、海の世界の英雄であった。


 しかしこの半神半人の戦士の男にはいくつか欠点もあった。

 うちひとつが、下半身のだらしなさである。

 この男は行く先々の島の女たちを追い掛け回しては嫌われていた。

 島の女たちは、誠実で浮気をせず、一緒に子を育てるための漁や畑仕事をする働き者の男を求めているから――これは今もそう――いくら戦士の男が勇猛果敢な伝説をいくつも作っていても、戦い以外の時間はぐうたら寝ている上に行く先々で女を漁っているものであるから、嫌われる時には嫌われるのである。


 さて、この戦士の男はある時この島へやって来た。


 みんなも知っているとおり、この島には女神が住んでいる。若く美しい女神は、その時も、密林の中の緑でできた布団に転がってゆっくり休んでいた。


 戦士の男は恥知らずにもその女神の布団に潜り込んでいった。

 夜這いだ。


 戦士の男はだらしなくよだれを垂らしながら女神の豊満な尻をつかんだ。


 けれど黙って襲われるような女神ではない。

 彼女はカッと両目を見開き、えいと戦士の男を投げ飛ばした。


「お前は何者ですか。私の布団に忍び込むとは何事ですか」

「私はカランダ・カワンダ。創世神の息子にして天下無双の戦士である」

「この私がこの島を産んだ女神であると知ってのことですか」

「もちろんである。どうか私の子供も産んでいただきたい」


 この戦士の男はとかく力が強い。しかし女神も女神であるから負けてはいない。二人は布団の上で取っ組み合って喧嘩をした。だが決着はなかなかつかない。


 ここで女神はひとつの提案をした。


「このままでは決着がつきません。別の勝負の方法を提案しましょう」

「なんだい? この私が勝負事で負けることなんてないが、提案は聞こう」

「ダンスで勝負です」

「どんなダンスだい?」

「ブレイキン」

「ブレイキン」

「Hey, DJ!」


 風の神がレコードでスクラッチをする。


「Yo, wack野郎、私のHIP-HOP魂を感じていきな!」

「OK, jiggy hottie, ノってやろうじゃねえかその挑戦」

「プチョヘンザ!」

「チェキラ! チェキラ!」


 こうして島の女神と戦士の男はひと晩じゅう踊り続けたが、戦士の男のダンスがあまりにも上手なので、その筋肉の美しさに惚れた女神は結局男に身をゆだねた。


「ア〜イ♡」


 そうして生まれた二人の子供が、みんなもよく知っているウェダ島、キナワ島、ホーカ島である。


 めでたしめでたし。






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