10. 運命のタクシーと、猫の先生――新たな扉の前で

 そうして、アーサーの最終ワクチン接種が無事(?)終わったあと――いや、無事って言っていいのかすら怪しいよね……。


 私たちは、ついに本当に向き合わなければならない問題に直面することになる。


 それは、避妊手術。

 正直に言うと、黄先生にアーサーの手術を任せるのは不安が大きすぎる。

 時間がかかるとか、記録が怪しいとか、そういうレベルの話じゃない。


 この子たちの命を預けるのに、迷いがある。だって、アーサー女王だよ? そんな適当な人に任せられない!


「…やっぱり、別の先生を探そうか。」

 そう決めた帰り道。なんか、黄先生との縁もこれで終わりかなって、ちょっと寂しくもあった。


 私たちはタクシーを呼んだ。


 助手席の背に、二枚の写真が貼られていた。

 一枚は、大切にされていたらしい猫の写真。

 もう一枚は、まだ幼い赤ちゃんの写真だった。


 タクシーでこんな写真見るなんて、なんか運命っぽいよね……?


「…猫と、赤ちゃん?」

 そう思って見ていると、運転手さんが話しかけてきた。


「うちの猫、去年亡くなったんですよ」

「…この子(赤ちゃん)と同じ場所に、同じ模様のアザがあってね」

 彼の話は、そこから自然と始まった。私たち、なんか引き込まれるみたいに聞き入っちゃってた。


 その猫は、長年一緒に暮らしてきた家族のような存在だった。

 晩年、体調が悪くなった時期に、ちょうど家族がタイへお参りに行く予定があり――


「帰ってくるまで待っててね」

 そう声をかけてから出発した。その時、猫は弱々しく尻尾を振って、まるで『分かったよ』って言ってるみたいだった。


 猫は本当に帰宅を待って、その数日後に静かに息を引き取ったという。


 そのとき、彼は猫にこう話しかけた。

「また戻っておいで。今度は、うちの子として」


 それから1年後、生まれた息子の体に――

 猫とまったく同じ場所に、同じ形のアザ。


 彼は迷わず信じた。

 「この子は、あの猫なんだ」と。


 正直に言えば――


 私も信じたいと思っている。だって、こんな偶然ってある?って思うくらい、アーサーとマーリンに出会ったのも運命っぽいし。


 アーサーとマーリンは、私たちにとってただの猫じゃない。


 本当に、大切な我が子のような存在だ。いや、時々女王と賢者に振り回されてるけどね!


 前に同居人と話したことがある。

「もし子どもができるなら、一度にふたりできたらいいよね。双子がいいなって思う」


 アーサーとマーリン見てると、なんかその夢が叶った気分になるんだよね。

 でも私たちには、きっと子どもはできない。


 だからこそ、このふたり――アーサーとマーリンは、かけがえのない奇跡なんだと思う。だからこそ、手術とか大事なことは絶対失敗できないんだよ……!


 そんな私たちに、運転手さんはこう言ってくれた。

「猫を診てもらってた、いい先生がいるんです。うちの子も、最後までお世話になりました」


『本当に信頼できる人だったよ』って、運転手さんの目がキラッと光ってた。


 そして教えてくれた病院は――

 なんと、私たちの住んでいるエリアのすぐ近く。いや、こんな近くにいたならもっと早く知りたかったよ! 黄先生、ごめんね!


 これが、黄先生との別れと、

 新しい先生との出会いのきっかけだった。なんか、タクシーに乗った瞬間から運命が動き出したみたいだね。

 次のページは、もっと明るく、もっと安心できる場所であってほしい。


 そんな風に思いながら、私は窓の外に流れる景色を眺めていた。アーサーとマーリン、これからもずっと一緒だよって、心の中で呟いた。

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