雨のち曇り。君と僕。
巡李 渇流(めぐり かわる)
第1話
ひんやりとした空気が窓から入ってきて、火照った私たちの体を冷ます。
君は寒いと言いながら薄ピンクの下着を身に纏い、白いカーディガンを羽織る。
「送ってくれる?」
そう聞かれて頷く僕に、優しくキスをした。
゛飴と鞭゛みたいな愛情で君は僕を撫でるが、既に首輪なんて外れてて、空っぽの君をただ見つめるだけの時間が過ぎていく。
「雨降ってきたね」
鍵を閉める僕を背に、手のひらで雨を感じる。
君の家は2駅先で終電なんてまだまだ先なのに、僕の歩幅を気にせず足早に行こうとする。
「じゃあ、ここでいいから。またね」
駅の2つ手前の信号でそう言うと、携帯に目をやりながら改札に向かって歩いていった。
君の甘い香水のかおりが雨に混じり、待てと言われた犬のように動けずに後ろ姿をただ見つめていると、右ポケットからピロンと通知音がなった。
『遊んでくるね』
君からのメッセージが僕の心に黒い絵の具を流す。
雨が大ぶりなり始め、僕は家に帰れず近くのコンビニで煙草をふかす。
雨と煙草の匂いが目に染みて涙が出た。
コンビニの店員がゴミを回収しに外に出て来るがしゃがんだまま煙草をふかし、俯いた。
「大丈夫ですか?」
ゴミを回収し終わった店員が心配そうにこちらを見ているが、僕の心は君のように空っぽでただ店員の綺麗な顔を眺めていた。
「あの、これ、良かったら貰ってください」
手に渡されたのは有名な天然水。
「僕、お酒飲んでないですよ」
そう言うと彼女は少し驚いた顔で天然水と僕の顔を交互に見た。
「ごめんなさいっ!酔って気持ち悪いのかと思って…」
僕は笑ってありがとうとお礼を言った。
彼女はいいえと言いながら、ボブのサラサラな黒髪を耳にかける。
「あの、お家近いですか?帰れますか?」
彼女はまた心配そうにこちらを見ていた。
きっと、少しだけお節介なのは彼女の性格なのだろう。
「心配ありがとう」
彼女のお節介に心が熱くなるのを感じ、また目尻が熱くなる。
「私もうあがりなので…その、少しお話しませんか?」
僕は吸っていた煙草を灰皿に捨て、少し考えてから頷いた。
「よかった!少し待っててください」
彼女は慌ててコンビニの中に入っていった。
10分くらいたってからコンビニの自動ドアが開いた。
「すみません!お待たせしました」
雨は彼女を待ってたかのように止み、彼女の黒いボアが1月の寒さを物語る。
彼女の名前は゛雪(ゆき)゛と言うらしい。
人生は残酷だと思った。ちょうどさっき一緒にいた君の名前も゛優希(ゆき)゛だ。
薄ピンクの下着を身に纏った姿が脳裏によぎる。
雪は、コンビニのバイトをつい最近始めた話や、将来保育士になりたくて専門学校に通っている話などを、楽しそうに話している。
「そういえば、さっきの女の人は彼女さんですか?」
彼女という言葉が頭でぐるぐると回る。
「幼なじみだよ」
嘘では無い、実際に優希とは付き合っていないし、中学時代から11年の付き合いだ。
「幼なじみ!いいですね!好きなんですか?」
僕は何も言えず、雪の話をひたすらにきき、気づけば雪の家の近くまで来ていた。
「そうだ!次はコンビニの前で泣かないでくださいね」
雪は意地悪そうな顔をして住宅街に消えていった。
ピロン
まるで出番を待っていたかのように右ポケットから通知音が鳴った。
『終電逃した。迎え来て』
雨のち曇り。君と僕。 巡李 渇流(めぐり かわる) @meguri_kawaru
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