900字でお伝えするとあるゲテモノ料理屋のキッチン

長月瓦礫

900字でお伝えするとあるゲテモノ料理屋のキッチン

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

仲間たちが次々とトラップに引っかかって、人間たちに捕獲され、台所へ連れて行かれる。


仲間たちは羽をむしられ、血と魔力を抜かれ、無造作にパックに詰められ、半分は冷凍庫に入れられる。体は徐々に凍り付き、やがて息絶える。


もう半分は鍋に放り込まれ、野菜と一緒に煮込まれ、ぐつぐつとダンスしている。

その後、中身をミキサーにかけ、深皿に流し込まれ、布団のようなパイ生地に巻かれ、オーブンで焼かれる。焼けたパイを切り分け、人間に提供していた。


カウンターからこっそり、小さな妖精が一部始終を見ていた。

無表情なお雛様の影に隠れ、じっと見ていた。


どれだけ騒いでも誰も助けに来ることはない。

客は美味しそうに仲間達を食べるばかり、誰も気づかない。


あのキッチンはこの世の地獄、天下無双の存在となった人間にどうして太刀打ちできようか。妖精はそっと逃げ出した。


妖精界に戻ってから、毎晩のように悪夢を見ている。

これは悪い夢だから、誰も気づかない。これを何度、繰り返しただろうか。


小さな妖精は仲間たちが開けてくれた穴から脱出し、キッチンの有様を指をくわえて見ていた。妖精一匹、何ができるというのか。

無残に殺される仲間を置いて、妖精は涙を流しながら、女王の玉座へ飛びこんだ。


小さな妖精から話を聞いた女王は、噴火しそうな勢いで立ち上がったまま、滂沱の涙を流していた。

誰もがあこがれていた人間界、妖精を可愛がってくれると聞いていたのに、この有様は何だ。なぜ、彼らは自分たちを捕らえ、食材にする。誰も答えを出せなかった。


人間たちとはお互いに妥協しながら付き合いを続けてきた。

それも今一度、見直すべきなのかもしれない。


「私が直接、探しに行きましょう。

その話が真実であれば、到底許せるものではありません」


女王は床に杖を突いた。地面が揺れた途端、夕焼けのような羽を持ち、西に沈む太陽の目を持つ緋色のトリへ姿を変えた。


縺ォ繧薙@縺阪�のトリの降臨である。


「こちらから攻め立てれば、彼らの非を正すことはできませんから。

今は人間界にいた彼らを思い、悲しみましょう」


女王はそれだけ言って、夕焼け空へ向かって飛んでいった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

900字でお伝えするとあるゲテモノ料理屋のキッチン 長月瓦礫 @debrisbottle00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ