現代世界で異世界魔王と戦うために神の腕を貰った件
@Zeroziroro
第1話 奇妙な部屋
「んん〜、ん? 真っ白な部屋に椅子が二つ……間違いない、これは異世界行きの前兆だ! っしゃあああ!! ついにあの退屈な世界から解放される時が来たってワケだ! いや〜長かったなぁ、ようやく俺もファンタジーの住人か……!」
「おやおや、いきなり失礼な態度をとるとは、大胆ですね? それもこの私、宇宙一美しい女神を前にして?」
「えっ……? あっ、ごめん、ごめん、ごめんって! で、どうなの? さっそくだけど俺の異世界転生はいつ開始? ほら、俺ってば命懸けで人助けしたじゃん? ご褒美タイムでしょ?」
「……は? 異世界転生? 何のためにわざわざそんなところへ行くんですか?」
「……え?」
「まず自己紹介をさせていただきますね。私はステラ・コルネリア、宇宙の均衡を司る者です。あなたが今ここにいるということは、つまりあなたにはある使命が与えられるということです。あなたには、百年前から崩壊の一途をたどる"現代世界"を立て直してもらいます」
「いやいやいや、なんでそうなる? ちょっと待て、冗談でしょ?」
「ノウヤルさん、私の話の途中で口を挟むのはやめてください。とても失礼ですよ? あなたには"ブレッシング・ヒーロー"の再建を任せます。彼らは百年前から現代世界で活動を続けていますが、どうにも成果が上がっていません。魔族の侵攻は進むばかりで、もはや世界は滅亡寸前なのです」
彼女はそう言いながら話を続けた。現代世界が滅びかけているのは、かつて勇者たちが開発した"異世界間ポータル"が魔族に奪われ、複製されたことが原因らしい。その結果、魔族たちは次々と現代世界へ侵入し、人類文明を支配しようと動き出した。
そして彼らの最終目標は――"ジェノサイド"。それが彼らの悲願であり、今もなお狙い続けているものだった。
「とはいえ、まだ完全には成し遂げられていません。勇者たちが必死に食い止めているおかげで、ね。彼らは故郷の世界を捨て、現代世界に定住し、そこで戦い続けているのです」
「……いやいやいや、待て待て待て! ちょっと整理させてくれ! 質問してもいいか?」
「もちろんです」
「俺が生まれてから二十四年間ずっと戦争が続いてたってこと? でもさ、それにしちゃ街中で戦争なんか見たことないし、普通にみんな生活してただろ? 破壊された街並みとか、そういうのも見たことないぞ?」
「……良い質問ですね。戦闘が行われる際、勇者たちは"ドメイン"を展開し、戦闘の被害や民間人の死傷者が出ないようにしています。しかし、あなたが助けたあの少女の場合、話は少し異なります。彼女はまだ戦場に立つ準備ができていなかった。そのため、あの場で魔族にドメインを破壊されてしまったのです」
彼女の言ったことは確かに正しかった。深夜の帰り道、仕事を終えて帰宅しようとしていた時に、それは起こった。スーツ姿の二体の魔族が、美しい少女と激しく戦っていた。
少女は追い詰められ、もう少しで魔族にその身を喰われるところだった。
だが、たまたまその場に居合わせたノウヤルは、一瞬の判断で自らを犠牲にする道を選んだ。その結果、魔族の餌食になったのは、彼の肉体だった。
「……で?」
「詳しい説明は、あなたが目覚めた後にいたしますので、ご安心ください。あなたは死ぬことはありません」
「あーあ、めんどくせぇなぁ……せっかく現代社会から解放されて、ファンタジーの世界で冒険できると思ったのに……まぁ、仕方ねぇか」
「大丈夫ですよ、あなたが魔族を滅ぼすことができれば、何でも差し上げます。少なくとも、魔族を現代世界から撤退させることができれば、どんな願いでも叶えましょう」
「……何でも?」
「もちろんです! 遠慮なくお申し付けください!」
「マジで?」
「ええ!」
「ホントに?」
「ホントですってばあああ!!!」(バシッ! 扇子を投げつける)
「うおっ!? わかったわかった、怒るなって……まだ何を願うか決めてねぇし、てか、そもそも俺にそれができるかどうかもわかんねぇだろ? で、どうやって魔族を倒せばいいんだ? こういうのって普通、チート能力とかもらえるんだよな?」
「ええ、もちろんです……さあ、お好きなものをお選びください〜」
そう言うと、女神は無数の神聖な武器を宙に浮かべて見せた。目の前には、光り輝く神々しい武器がずらりと並ぶ。剣、槍、斧、弓、カランビット、その他にも様々な武器があった。
そのどれもが豪華な装飾に包まれ、純粋な聖なる力を宿しているように見えた。
だが――
「おいおいおい! ちょっと待て! なんだこのラインナップ!? まさかとは思うけど、俺に物理武器を持たせるつもりか? 俺の右腕、魔族に食われてもうねぇんだけど? 片腕でどうしろってんだよ!? ふざけんな!!」
「失礼ですよ! でも……確かに一理ありますね、ふむ……片腕がない、と」
「……だろ? だったら俺に合うモンをくれよ……」
「わかりました、状況は理解しました。では、立ち上がっていただけますか?」
「……」
その時、女神は特に焦る様子もなく、迷っているノウヤルに向かってスッと人差し指を向けた。指先からは淡い神聖な光が放たれ、その輝きが彼の失われた腕へと舞い降りていく。そして次の瞬間――失ったはずの右腕が、ゆっくりと再生し始めた。
ただし、それは単なる肉や骨が成長しているわけではなかった。無数の光の粒が集まり、神聖なエネルギーの塊となって腕の形を成していく。
「おぉぉぉ!? 俺の腕が!? いや~、助かったぜ! じゃあさ、これで問題なくなったことだし……俺、剣選んでいい? ていうか、どうせなら全部もらっとくわ! そっちのほうが楽に戦えるしな!」
「バカですか!? ちゃんと話を聞いてください! これは普通の腕ではありませんよ!!」
そう言うと、女神は淡々とノウヤルの新しい腕の特性について説明を始めた。その能力は、ただの義手なんかじゃなく、強大な力を秘めた"神聖なる右手"だった。
《ホーリーハンド》
— 死神モード → 一定時間、死神の化身となり、身体能力が爆発的に向上する。ただし、持続時間には限界があり、終了後は極度の疲労に襲われる。
— 死の手→ 敵の魂を吸収する特殊な効果を持ち、さらに即死級の攻撃を放つことも可能。
「ふむふむ、なるほどな。悪くねぇ……いや、むしろかなりいいじゃねぇか。まぁ、これだけの能力があるなら、とりあえず剣とかは――」
「ダメです! 欲張らないでください! いいですか、私は宇宙の均衡を守る存在です。誰か一人が支配的な力を持つようなことは許されません。ですから、あなたにも例外は認めません」
「ちぇっ……わかったよ、わかった」
「よろしい、ではそろそろ時間です。今のあなたでは、普通の生活を送ることは難しいでしょう。その右手には強い引き寄せの力があり、放っておけば魔族側の"ハンター"に狙われるでしょう。しかし、安心してください。"オルド・ルクス"があなたを導いてくれるはずです」
「…………」
その時、ノウヤルはいつものように軽口を叩こうとしたが――なぜか言葉が出てこなかった。それは、女神の意思だった。これ以上無駄話が続かないようにするための、一種の"強制終了"のようなものだった。
そして同時に、ノウヤルの体は徐々に光の粒子となり、消え始めていく。
『ちょっ……待て待て待て!! いや、ちょっと考えさせろって!』
そう言いたかったが、もう遅かった。頭の中に浮かぶ言葉すら、口にすることは叶わなかった。
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