事件の前……

全然迷

続き……?

暗い寝室の中。

薫は深い眠りの中にいる。

照明は全て消すタイプらしい。


「すぅー、スヤスヤ。スゥー、スヤスヤ」


リズムが変わった。


「むにゃむ。ん、んぐっ、ゴーッ」


悪夢を見ているのだろうか?。


…………


昏い暗い、真っ黒な闇の中。

誰かが縋る様に足を引っ張る。

イヤッあっちへ行って。

声にならない声で叫ぶ。


辺りは古ぼけた写真の様にセピア色。

どこからともなく、定着液の硫黄の様なそれでいて酸っぱい臭いがする。


あっちへ行っても。

こっちへ行っても。

どこまで行っても行き止まり。


行き場をなくした人々が、虚ろな眼をして、どこまでもどこまでも列をなす。


「グスッ、グスッ、スン。グスッ、グスッ、スン」


肩を震わせ、女の子が泣いている。

アレは私?。

と、意識は女の子に変わった。


「お腹が空いたよう」

意識はぐるぐる巡る。


見たことあるけど見たことのない男の人が声を掛ける。


「嬢ちゃん、こんな瓦礫の原で一体ぇどうしてぇ?」


「お父さんと、お母さんが……」


「スンスンッ」


泣き声を抑えて、


「死んじゃったの」


「…………」


「そうか……」


「おじちゃんと、一緒に来るか?」


「嫌っ、ラザフォード先生が危ない人についていっちゃダメだって仰っていたし」


「それに……お酒臭い」


「……っ」


「!!ラザフォード⁉︎」


…………


「フォーン、フォーン」


呼び出し音が鳴り響く。


薫はぱちりと目を開け、壁の時計を見やる。


「まだこんな時間!研究所からだ」


薫は素早く、壁のデバイスを通話モードに切り替える。


「なっ、何ですって!!!」


「すぐに向かいます」


ぱっと飛び起き、布団を丁寧に畳む。


こんな時にも彼女は冷静にと、自分に言い聞かせている。


「(でも、それはそれ)急がなきゃ!」


顔を洗い、歯を磨き、軽く化粧し、髪をまとめ上げる。鏡に映る自分を見る。


服装を確かめて……。


案外、冷静なようだ。


10分で身支度を整える。シャワーを浴びる時間はない。


母の形見の桐ダンスの上の写真に、いつものように挨拶を、


「お父さん、お母さん、行ってきます」


と手を合わせる。


15年前の出来事が頭をよぎる。


「(何か関係性が?)」


「(今!迷ってる暇はない)」


百錬の言葉が頭に浮かぶ。頭を振り払いながら、百錬にもらった、全国的ラーメンチェーン店“天下無双”監修の新発売のおにぎりをかじり、翔ぶように、魔素研究所へと向かった。


「(一体全体何があったっていうの?ラザフォード先生はどう思ってらっしゃるのかしら?)」


まだ辺りは薄暗かった。



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事件の前…… 全然迷 @zen_zenmei

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