発見4
暫くの間、俺は何も言えず、考えを巡らせていた。
手に余るくらい様々な疑問があり、その全てに答えを見つけるのは困
難だ。すぐには見つけられない答えを探してグダグダ考える事を俺は一時中
断した。
俺が幼い頃に学んだ処世術だ。
全てに優先するのは、何か。
それは依頼の品を期限内に探し出し渡す事だ。
それさえできれば、他の疑問や謎は自ずと解明されるはずだ。
テーブルから顔を上げると、彼女が俺を見つめていた。
その薄い瞳の中に、昔仕事に出かける俺を送り出す度に妻が投げかけ
た怯えと憐憫の色を見つけ、俺はたじろいだ。
「俺はいつも正確な品質と確実な納期で信用を勝ち取ってきた、今度も
問題ない」
「本当に、大丈夫なの?」
俺は彼女を安心させるため、柄にもなくウィンクで返事をした。
「話は変わるが、あんたが昔暮らした孤児院でも消灯時間にヤンキース
のバットを持って壁をガンガン叩きながら電気を消しにくる爺さんがい
たかい?」
「バットとお爺さんじゃあなかったけど、洗濯棒を振り回すおっかない
ハイミスの寮長様がいたわ」
顔を見合わせ俺達は吹き出し笑いをした。
笑ったのは何年ぶりだろうか。
妻と暮らした最初の頃には笑ったような記憶がある。
俺は腹をくくった。
俺の命を数日で終わらせないために、ハイエナにこの身を曝しても何
とか見つけ出してみせる。
でも、戦いの前に目の前に座っている若い女性とひとときの会話を楽
しむ休息があってもいいもんだ。
孤児院での食事、奉仕という名の過酷な労働、記念品と呼ばれる様々
な物の調達方法(幸か不幸か養子先が見つかり院を出ていく仲間から 貰ったり、くすねたり)、ベッドの場所やサイズからシャワーの制限時 間は何分だったかまで、話しても話しても俺達の話題は尽きる事がな かった。
注文もしていないコーヒーが突然に運ばれてきた。
「もうすぐ夜明け、閉店だよ」
という迷惑そうなマスターからの声が二人の会話を中断させた。
「おやじさんには俺が自信たっぷりだったと伝えておいてくれ、パティ」
「わかったわ ヒョウ。私はウソをつくのがとても上手だから。まぁお 互いさまだけどネ」
俺は店の前で彼女に二日後の同じ時間に再びここに来てくれるように頼んだ。
彼女は少しはにかみながら快諾してくれ、朝もやの中俺達はそれぞれの家路についた。
自宅に戻った俺はリーに朝食を与えた後、眠たい目をこすりながら ベッドにもぐり込んだ。
薄暗い部屋中央でメール受信を知らせるコンピュータの赤いモニター
ランプが光っているのに気がついた。
その点滅を凝視した。点滅は古い時代のモールス信号を使用している。 トン、ツーツーツーこれはJだ。
次にトン、トン、ツー、トンこれはFだ。
最後の光の意味を考える間もなく俺はシーツを蹴飛ばし飛び起きた。 キーボードを叩き届いたメールの送信元と内容を確認する。
こいつだ!
数少ない俺の友(現在までだまされたり裏切られた事がないからとい
う理由で俺は分ける)といえる奴からのメールだ。
眠気は既に吹っ飛んでいた。
探していたブツだ。
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