天下無双の布団マン
砂坂よつば
正義のヒーロー誕生
むかし、むかし。あるところにダンスの得意な若者がおったそうだ。若者の夢は天下無双のダンサーになることだった。家業の寝具店の仕事もせず毎日ダンスの練習ばかりしていた。
朝食時、若者の父親はちゃぶ台の上にドンッと音を鳴らし握り拳を叩きつけた。その反動で小鉢と白飯がこんもりと乗った茶碗と具材の無い味噌汁入りのお椀が一瞬宙に浮いた。
父親「お前、ダンスばかりしてないで、オラの仕事手伝え!!」
若者「ふん!やだね」
若者は鼻を鳴らしそっぽを向き、茶碗一杯の白飯に具材のない味噌汁をかけ。汁飯を作るとずるずると行儀の悪い音を立て食べ始めた。数秒で食べ終わり、母親の淹れた緑茶を茶碗に注ぎ啜る。
若者「オレは夢を叶えるまでは親父の仕事を手伝わないって決めたんだよ!」
そう言って家を飛び出してしまった。父親の仕事は敷布団や掛け布団、枕を作り販売する寝具店だ。その日の夕暮れ時、突如村に化物のダニーニとカビーズが現れ暴れだした。
ダニーニは巨大なダニの姿をしている。その隣のカビーズは幼子くらいの大きさで赤色、青色、
村人A「こ、こいつらどこからやって来たんだ?!」
逃げ惑い助けを求め叫ぶ村人達。化物に捕まるとくしゃみや目の痒みが止まらないアレルギー症状が起きてしまう。それに加えて着用していた衣類や所持して食べ物が数分でカビてしまうのだ。
次々に村の家や店は襲われ、ついに若者の家であり店まで化物が迫っていた。
そんな非常事態を知らず河川敷でダンスの練習をしていると村人が若者に声をかけた。
村人B「おーい!?お前ん
若者「なんだって?!どういうことだ?」
村人と一緒に家に戻ると家の半分が壊れかけていた。家の前で必死に化物と戦っている両親に若者は叫んだ。
若者「なにしてんだ!?早く逃げろよ!!」
父親「に、逃げる訳にはいかねぇーんだよ!!」
母親「この店には絶対に守らなければならない三種の寝具があるのよ!!」
三種の寝具とは、枕、敷布団、掛け布団のことである。
店の奥から光り輝く三種の寝具が疾風の如く飛び出し、若者の目の前に宙に浮いたまま現れた。若者は寝具に惹かれ手を触れた瞬間、敷布団は彼の体を包むように巻きついた。そして頭から首まで枕がすっぽり収まり顔面だけ出している。肩から掛け布団が装着されて、まるでマントのように空を飛ぶことが出来た。
父親は変身した若者の姿を見て驚愕し、母親は肩を震わせ笑いをこらえている。若者の隣にいた村人は視線を逸らし下を向いた。化物がゲラゲラと笑って指を差しながら言った。
『ダッサ』
鏡を見なくてもそんなことは3人のリアクションを見れば分かりきっている。若者は恥ずかしさのあまり頭に来て化物を得意のダンス、ブレイキングダンスで2体同時に倒した。
こうして村は平和を取り戻し、正義のヒーローが誕生した。見た目はダサくても村人達は若者をこう呼ぶ。
『天下無双の布団マン』
(完)
天下無双の布団マン 砂坂よつば @yotsuba666
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