【KAC20254】巨乳の妹が夜な夜な枕元でエッチな言葉を囁くせいで夢精している事をお義兄ちゃんはまだ知らない

斜偲泳(ななしの えい)

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 目覚めたときには手遅れだ。

 熱い疼きを帯びて起立した股間のスペースシャトルは、俺のGOサインを得もせずに勝手に発射秒読みを開始している。

 このままでは重大インシデント待ったなし。

 ドビュッと一発汚ねぇ花火を打ち上げて、パンツと共に男の尊厳を白く汚してしまうだろう。

 そして家族の目を盗み、こっそり風呂場でパンツを手洗いする羽目に……。

 それだけならまだいい(いやよくねぇけど!)。

 最悪、家族に俺の痴態がバレかねない。

 というか、既に義母さんにはうっすらバレているのだが……。

 だとしても、これ以上恥を重ねるのは絶対に嫌だ。

 幸い眠気は甘い夢の彼方に消し飛んでいる。

 悲しいかな、俺はこの事態に慣れて始めている(ここまでコンマ0,1秒)

 俺の中にあるありったけの力を総動員して無常なる生理的カウントダウンを少しでも遅らせると、俺は布団を跳ね上げてトイレへと急ぐ。


(出るな出るな出るな出るな――っ)


 へっぴり腰になりながら左手で力いっぱい暴発寸前の相棒を握りしめる。

 男は弱い生き物だ。

 一度カウントダウンが始まってしまったら、それを止める事なんて絶対に出来ない。

 羽ばたきを止めた鳥が地に落ちるように、あらゆる命がいずれ死を迎えるように、抗い難い自然の摂理としてそういう風に出来ているのだ。

 それどころか、カウントダウンを遅らせる事すら至難の業と言える。

 果たして、今度こそ俺は間に合うのだろうか?


 ――いや、間に合わせるんだ!


 パンツさえ汚さなければ、煮えたぎる熱いパトスをトイレに放つ事さえ出来れば、この痴態を闇に葬り、なかった事に出来る。


 だから頼む――間に合ってくれ!


 一階にあるトイレを目指して転がるように階段を駆け下りる。

 家族を起こすリスクはあるが、そんな事を気にしている余裕はない。

 そんな余裕は最初から存在しない。

 既にカウントダウンは0を刻みロスタイムに突入している。

 左手の握力と必死の想いが生み出した奇跡のロスタイム。

 いつ果てるとも知れぬか細い糸に縋りつき――やった!

 なんとか俺はトイレにたどり着き、便座の蓋を開ける。

 あとはパジャマのズボンとパンツを下ろすだけなのだが……。


「く、片手だから……う、上手く、脱げねぇ……っ!」


 両手を使えば早いのだが、生憎左手は猛る相棒を封じるのに忙しくて手が離せない(文字通り)。


 それでもなんとかズボンを太ももまでずらし、あとはパンツだけ!

 ………………そこで俺の我慢は限界を迎えた。


「うっ!」


 抗い難い快楽の奔流がパンツの中を熱くする。

 頭の中が真っ白になり、パンツの中も白く染まった。

 不本意ながら、けれども俺は一時、心地よさに放心し震えていた。

 けれどそれもすぐ終わる。

 生理的狂騒が終わると、賢者タイムと共に自己嫌悪の嵐が俺を襲う。


「……最低だ。またやっちまった……」


 夢精である。

 それも一度ではない。

 今回で九度目。

 それだけならまだいい(いや、全然よくねーけど)。

 だって俺は思春期真っ盛り、シコりたい盛りのイカ臭い16歳だ。

 健全な16歳男子なら夢精の一回や九回くらいするだろう(するよな? な? な!?)。

 だから、もしこれがごく普通の夢精、真っ当な淫夢を見た結果生じた暴発であったなら、俺もここまで酷く落ち込みはしなかったろう。

 けれど違う。

 まったく違う。

 エッチなクラスメイトの夢を見たとか、普段おかずにしているエロ画像、エロ動画の夢を見たとか、そんな健全な淫夢を見た結果の夢精ではないのだ。

 あろう事か俺は、三つ下の妹の淫夢を見て夢精していた。

 兄ちゃん失格である……。

 いや、待て、待ってくれ!

 妹と言っても血は繋がっていない。

 いわゆる義理の妹という奴である。

 数年前に親父が再婚して、相手側に連れ子がいたのだ。

 義理の母さんは禿げ散らかした親父には勿体ない、それこそ弱みを握ったか、催眠術でも使ったとしか思えないくらい、優しくて胸の大きな美人さんだった。

 義妹の真白も義母さんに似て、三つ下とは思えないくらい可愛くて胸の大きな女の子だった。

 いや、待て、待ってくれ!

 義理でも俺はお義兄ちゃんだ!

 断じて真白ちゃんの事をそういう目で見たことはない!

 ……とは言わないが。

 だってしょうがないだろ!

 可愛くておっぱいがでっけぇんだから!

 それは事実なんだから可愛いとかおっぱいがでけぇとかエロいとは思うよ!

 思うくらいいいだろ!

 赤ちゃんを見て可愛いと思うくらい自然な事だろうが!

 それはそれとして!

 俺は真白ちゃんに対して如何わしい妄想を抱いた事は一度もないし、抱こうと思った事もないし、抱かないように心がけてきた。

 だって真白ちゃんは俺が病気で母親を失ったように、病気で父親を失っていたのだ。

 後で知った話だが、かなり仲が良かったそうだ。

 それで家に来た時は、真白ちゃんは随分ふさぎ込んでいた。

 俺や親父とは目すら合わせず、話す言葉も最低限。

 いつもこの世の終わりみたいな哀しい顔をしていて、飯を食べる時以外は殆ど自室に籠っていた。

 親父さんを思い出して泣く事があるのだろう。

 クリクリとした目元は時々、涙の痕で赤くなっていた。


「亮介。お義兄ちゃんとして、真白ちゃんを支えてやってくれ」


 親父に言われるまでもない。

 俺も男だ。

 たとえ家族でなくたって泣いてる女の子を放っておけるわけがない。

 だから俺は精一杯頑張った。

 一人っ子の俺がいきなりお義兄ちゃんになってどうしたらいいのかなんて分からなかったけど、とにかく頑張った。

 無視されてもめげずに話しかけ、義母さんから真白ちゃんの趣味や好きな物を聞きだして、良き話し相手、良き兄になれるように頑張った。

 その甲斐あって、今では最初からそうだったみたいに仲良しだ。

 真白ちゃんは笑顔を取り戻し、二言目にはお義兄ちゃん大好きと俺を慕ってくれている。

 ……まぁ、ちょっと依存気味な気がしないでもないが。

 あまりに懐きすぎて、真白ちゃんは学校でもろくに友達を作らずに俺にべったりな状態なのだ。

 しまいには「真白ね、将来お義兄ちゃんのお嫁さんになる!」なんて言い出す始末だ。

 いや、兄妹で結婚は出来ないと言えばこうだ。


「お義兄ちゃん知らないの? 義理の兄妹だったら法律上何の問題もないんだよ?」


 まったくどこでそんな知識を得て来るのか。

 なんでもそういうラノベがあるらしい。

 そうはいっても、流石に世間体が許さないだろう。

 まぁ、子供の言う事だ。

 折角仲良くなったのに強く言って関係を悪くするのもイヤなのでのらりくらりと躱している。

 そりゃ義理の妹でなかったら俺だって真白ちゃんみたいな子と結婚したいけどさ。

 義理でも俺はお兄ちゃんだし、俺に真白ちゃんじゃ荷が勝ち過ぎる。

 それこそ豚に真珠、猫に小判、キーファに力の種という奴だろう。

 そういうわけなのだ。

 誓って俺は真白ちゃんの事を如何わしい目で見てはいない。

 それどころか、本物のお兄ちゃん以上に大事にしている自負がある。

 ……まぁ、実際に真白ちゃんとのムフフな夢を見て夢精してしまっているのだから説得力はないのだが。

 納得がいかない。

 自分が許せない。

 それでもお前はお義兄ちゃんか!?

 バカ野郎!

 夢精する度に自分を叱りつける日々である……。


「……こうなったら、いっそ彼女でも作るか?」


 そんな理由で彼女を作るのもどうかと思うし、そもそも作れる当てなどないのだが。

 割とマジでそう考える程度には落ち込んでいる。

 それはともかく、バレる前に証拠を隠滅せねば……。


「お義兄ちゃん、どうしたの?」

「うにょらぴょぺぇぼばぁ!?」


 いつの間にか背後に真白ちゃんがいた。

 黒髪ロングの童顔に見合わない巨乳の義妹君が。

 大きすぎて窮屈なのだろう。

 ピンク色のパジャマは上のボタンが二つ外され、大きく膨らんだ白い胸元が露になっている。

 注意したい所ではあるのだが、年頃の義妹におっぱい見えてるぞなんて言えるわけもなく、慌てて視線を逸らすのみだ。

 ……いや、こんなんだからエッチな夢を見るんじゃないか? と思わないでもない。

 って、そんな場合でもない!


「え、ぁ、いや……ちょ、ちょっとトイレに……あははは」


 夢精しましたなんて言えるわけもなく慌てて誤魔化すのだが。


「ドア開けたまま?」

「………………スーッ」


 純真無垢な視線が痛い。

 切羽詰まっていてドアを締める余裕なんてなかったのだ。


「え、えっと、その……あ、慌ててたんだ。漏れそうで、さ……」


 苦し紛れの言い訳である。

 ある意味事実だし、他に言いようもないのだが。

 それはそれで恥ずかしい。

 それでも、夢精バレするよりはマシだろう。

 ……情けない。

 こんなんじゃ真白ちゃんに失望される。

 と、思うのだが。


「そうなんだ? ダメだよお義兄ちゃん、寝る前にちゃんとおトイレ行っておかなきゃ」


 真白ちゃんは特に動じず、いつも通りの愛らしい笑みを返してくれる。

 あぁ、俺の義妹可愛すぎぃ!?


「そ、そうだな! 今度から気を付けるよ!」

「うん」


 可愛らしく頷くと、真白ちゃんは不意に小首を傾げ、スンスンと鼻を鳴らした。


 その動作に、俺はギクリとして固まる。


「な、なんだよ」

「ん~。なんか変な匂いがすると思って」

「そ、そりゃするだろ。トイレなんだから……」

「そうだけど。そういう匂いじゃないって言うか。なんか青臭い感じ? なんだろ、これ」


 真白ちゃんは麻薬探知犬みたいに小さな鼻をスンスン鳴らし、匂いの出所を探している。


「な、なんだろなー! どこかで栗の花でも咲いてんのかな!?」

「栗の花? どうして?」

「それは、えっと……」


 あぁ、藪蛇だった!?


「な、なんとなく……」

「変なお義兄ちゃん」


 真白ちゃんがクスリと笑う。

 どうにか誤魔化せたらしい。

 あぶなかった……。

 義妹にだけはバレたくないからな……。


「ところでお義兄ちゃん。なんでさっきから向こう向いて話してるの?」

「………………」


 俺は便器の方を向いて話していた。

 パンツから染み出した汚ねぇ花火の余波が薄っすらパジャマのズボンを汚していたのだ。

 しばし、息の詰まるような沈黙がトイレに満ちる。


「お義兄ちゃん?」

「こ、これからするところだったんだよ!」

「漏れそうだったのに?」

「そう! 今にも出そう! だからちょっとあっち行っててくれる!?」

「そうなんだ……。ごめんね、お義兄ちゃん。邪魔しちゃって……」


 真白ちゃんが申し訳なさそうにしゅんとする。

 それだけで俺のハートはズキズキ痛んだ。


「いや、こっちこそゴメン! 大きい声出しちゃって! 真白ちゃんは悪くないから!」

「……本当に? 真白の事、嫌いになってない?」

「なってない! なるわけないだろ! 大事な義妹だぞ!」

「……じゃあ、真白の事好き?」

「それは……」

「やっぱり真白の事嫌いなんだ……」

「好きだよ! 好き好き大好き超愛している! だから頼むよ! もう限界だから!」


 暴発したパンツが冷えてきて気持ち悪いし、そんな状態で義妹と会話するのもきちぃ!

 なにこの羞恥プレイ!?


「うん! ごめんねお義兄ちゃん! 真白もお義兄ちゃんの事愛してるよ!」


 嬉しそうに言うと、真白はパタパタと階段を上がっていった。


「………………助かったぁ」


 ホッとすると、俺はいそいそと風呂場に入りパンツとズボンを手洗いする。

 真白ちゃんは寝直したようで、それ以降一階に降りて来る事はなかったが。


「………………? てか真白ちゃん、トイレに降りて来たんじゃなかったのか?」


 だとしたら、トイレに行かずに寝直すのはおかしい気もする。

 実際行ってないわけだし、俺の足音を聞いて様子を見に来ただけなのだろう。

 他に理由も思いつかないし、俺も深くは考えなかった。


「しかしさっきは危なかったな……。まだ心臓がドキドキしてやがる……」


 バレてないとは言え夢精した所を可愛い義妹に見られたのだから当然なのだが。

 ……というか最近は真白ちゃんの顔を見るだけでドキドキしてしまう自分がいる。

 真白ちゃんとムフフな事をする夢を何度も見たせいで変に意識してしまうのだ。


「もしかして、これは恋? とか言ってる場合じゃねぇっての!」


 頭から熱いシャワーを浴びて精子と一緒に煩悩を洗い流す。

 実際、こんな夢を見続けていたらそうなりそうで恐ろしい。


「………………本当に、なんでこんな夢見ちまうんだ?」


 尋ねたところで答えなど返って来るわけもないのだが。



 †



 それはね。

 全部真白のせいなんだよ、お義兄ちゃん。

 風呂場の扉を僅かに開けて、こっそりお義兄ちゃんのシャワーシーンを覗き見る。

 お義兄ちゃんがどんな夢を見たのか、真白は全部分かってるよ?

 だって真白がそうなるように仕向けたんだもん。

 寝ているお義兄ちゃんの耳元で、夜な夜なエッチな声を囁いてるの。

 そうしたら夢の中でお義兄ちゃんと一つになれるでしょ?

 お義兄ちゃんが悪いんだから。

 あんなに拒絶したのに、どこまでも真白に優しくして、お義兄ちゃんの事好きにさせたんだから。

 この世にお義兄ちゃんしか要らない。

 お義兄ちゃんだけいればいいって真白に想わせちゃったんだから。

 それなのに結婚してくれないって言うんだから。

 そんな決まりは何処にもないのに。

 お義兄ちゃんだって本当は真白の事が好きなはずなのに。

 周りを気にして自分に嘘をついちゃうんだから。

 だから真白は考えたの。

 お義兄ちゃんが正直になる方法。

 真白の事をもっともっと好きになってくれる方法。

 義妹じゃなく、一人の女の子として見てくれる方法。

 真白が夢に出て来たらお義兄ちゃんは真白の事もっと意識してくれるでしょ?

 夢の中の真白とエッチな事をしたら、お義兄ちゃんは真白の事もっと意識してくれるでしょ?

 上手く行くか不安だったけど、余計な心配だったみたい。

 やっぱりお義兄ちゃんも真白の事が好きだったんだよね?

 だって夢の中の真白とエッチな事してくれたんだもん。

 夢精したってそういう事でしょ?

 学校で習ったんだから。

 だからお義兄ちゃん。

 もっとも~っと真白の事好きになって。

 お義兄ちゃんが素直になってくれるまで。

 お義兄ちゃんが真白の事女の子として見てくれるようになるまで。

 真白は何度でも、何度でも、何度でも何度でも何度でも。

 お義兄ちゃんの夢に出るからね。

 

 

 

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