ヤンデレ執事ー幻影の館ーSPラグナのラブミッション編
×ルチル×
呪われた館に選ばれた男
第1話「SPラグナのラブミッション」
※前作、ヤンデレ執事―幻影の館―を読むとより楽しめます。
――もしも、館が選んだのがラグナだったら。
「もしも、愛の形が自由なら……こんな可能性もあるかもね。」
闇に溶けるような、囁く声。
「ふふ、お嬢様。強い血統を残してくださいね。」
――ヤンデレ執事たちの新たな物語が、ここから始まる。
俺はラグナ。SP(セキュリティ・ポリス)をしているが、元は暗殺者だった。
その俺が今、"とある呪われた館"に足を踏み入れている。
ロゼクライン家――血塗られた歴史を持つ名家。
「……ったく、こんな怪しい場所に来ることになるとはなぁ。」
館に向かう馬車の中で、俺はぼやく。
目的は、使用人としてこの館で働いている弟・レヴィに会うため。
レヴィとはしばらく会っていなかったが、
"館で働いている"と聞いたときから、どうにも気がかりだった。
――そして今、俺は館の執事長・ギルバートに応接室へと案内されていた。
ギルバート「どうぞ、お入りください。」
応接室の扉が開く。
そこにいたのは――
白く透き通る肌、長い髪をなびかせた華奢な女性。
「……っ」
一瞬、息を呑んだ。
品のある佇まいと、どこか儚げな雰囲気をまとった**"彼女"**。
間違いない。
この館の当主――アリス・ロゼクライン、その人だった。
◇――アリス視点
"SP"という男が来ると聞いていた。
けれど、まさかこんなに……堂々とした存在感を放つ人だったなんて。
「……お初にお目にかかります、お嬢様。俺はラグナ。SPをやってる。」
低く響く声。
燃えるような赤くて長い髪、鋭い青い瞳で、じっと私を捉えている。
「……あなたが、レヴィの……?」
「ああ、兄貴ってやつだ。」
ラグナが微笑む。
その笑みには、どこか余裕の色があった。
「まぁ、今日は弟の様子を見に来ただけだからよ。お嬢様には特に用は――」
言いかけた瞬間、扉が勢いよく開いた。
「兄貴!!なんでここに!?」
ツンとした声。
振り向くと、そこには不機嫌そうな表情のレヴィが立っていた。
「ああ、やっと出てきたな。」
ラグナが軽く手を挙げると、レヴィは眉をひそめる。
「……ちっ、何しにきたんだよ。"ここ"に関わるなって言ったろ?」
「お前の様子を見に来たんだよ。」
「余計なお世話だっつの。」
レヴィはプイッとそっぽを向く。
「へぇ、お前がこんな態度を取るとはな。 そんなに"ここ"が気に入ってるってことか?」
「……っ!そんなんじゃねーけど……。」
ツンとした態度のレヴィ。
そんな弟を見て、ラグナはふっと笑う。
「……お前、だいぶ変わったな。」
◇――ミラージュ視点
館の奥から、その様子を眺めていた。
「……ふふ。やっぱり、"この組み合わせ"も面白そうだね。」
この館が"誰を選ぶか"は、その時々の流れ次第。
でも、"強い血統"を残すことが最優先事項。
ラグナ。お前はどうする?
「お嬢様に相応しいのは、"強い"者だけだ。」
ヤンデレ執事たちが蠢く館の中で、"新たな選ばれし者"の物語が、今始まる。
◆――アリス視点
「ラグナ・リヴァイア……」
目の前の男の名を、私は小さく呟いた。
「ああ。俺の名字は"リヴァイア"。伝説の怪物リヴァイアサンの末裔って言われてるけどな。」
ラグナはそう言って、気だるげに笑った。
「怪物の末裔……?」
「まぁ、眉唾だけどな。ただ、代々戦闘の才能は受け継がれてるらしい。」
「だからSPをしているの?」
「それもあるが、単純に"生きる術"として身につけたって感じだな。」
ラグナはソファに深く腰を下ろし、余裕のある仕草で脚を組んだ。
「でもさ、お嬢様。"怪物の末裔"なんて言われてるわりに、俺ってけっこう優しいだろ?」
彼は冗談めかして笑う。
その軽い雰囲気に、私は少し安心して、くすっと笑った。
「そうね、少なくとも"見た目"は怪物には見えないわ。」
「おいおい、そこは"性格も"って言ってくれよ。」
そんなふうに軽口を叩き合っていると、ふとレヴィの話題が出た。
「レヴィの兄ってことは、彼の幼少期も知っているのね。」
「ああ。あいつがガキの頃からずっと見てきた。」
「どんな子供だったの?」
私が興味を持って尋ねると、ラグナは少し考える仕草をした後、ふっと懐かしそうに笑った。
「今のお前も知ってるだろ?アイツ、ツンデレだろ。」
「……まぁ、否定はしないわ。」
「昔からそうだったんだよ。素直じゃねぇし、拗ねるとすぐどっか行くしな。」
「ふふ……それで?」
「可愛かったぜ。小さい頃は、俺の後ろをずっとついて回ってた。兄貴、兄貴ってな。」
「へぇ……。」
私は少し驚いた。
「今のレヴィからは想像しにくいわね。」
「だろ?今じゃ俺に対して生意気ばっかり言いやがるけどな。あいつは本当に"可愛い弟"だったんだぜ?」
ラグナは、どこか誇らしげに言う。
「でも、今でもきっと、お兄さんのことを大切に思っているわ。」
「そう思うか?」
「ええ、なんだかんだ言って、あなたのことをすごく気にしてるみたいだから。」
「はは、そうかもな。」
彼は満足そうに微笑んだ。
私は、ふとレヴィが私に向ける態度を思い出す。
ツンツンしているくせに、時折見せる甘えたような仕草。
ラグナが話す幼少期の彼と、今の彼が少し重なった気がした。
「……なんだか、少し羨ましいわね。」
私がぽつりと呟くと、ラグナは軽く眉を上げた。
「何が?」
「レヴィがそんなふうに、無邪気に誰かを慕っていたことが。」
「……。」
ラグナは少しだけ真剣な表情になった。
「お嬢様。お前も、無理に強がることはねぇんだぜ?」
「……え?」
「館の当主だからって、一人で全部抱え込む必要はねぇ。俺がいるし、レヴィもいるしな。」
彼の言葉に、一瞬、胸がざわめいた。
「……ありがとう。」
私は静かに答えた。
ラグナはまた、軽い調子で笑う。
「まぁ、俺は仕事としてお前を守るわけだからな。任せとけよ、お嬢様。」
その軽やかな笑顔を見ながら――
私は、ほんの少しだけ、この館での未来に希望を持てた気がした。
◆――ラグナ視点
「あいつも、昔は可愛かったんだけどなぁ……。」
俺はふと、懐かしい記憶を思い出していた。
――幼少期のレヴィ。
あの頃は、まだ俺のことを"兄貴"じゃなくて、"にぃに"って呼んでたんだよなぁ……。
「にぃに!髪、うごかして!」
幼いレヴィが、キラキラした瞳で俺を見上げる。
俺は少し笑って、赤い髪を触手のように変化させた。
「おっ、こんな感じか?」
「わぁぁ!!すごい!もっと!もっと!」
レヴィは小さな手をぱちぱち叩いて大喜びしていた。
その姿があまりに可愛すぎて、俺はつい調子に乗ってしまう。
「よーし、それじゃあ高い高いしてやるか!」
「えぇ!?ほんと!?やるやる!!」
触手にした髪をレヴィの小さな身体に巻きつけ、ふわっと持ち上げた。
「ひゃああああ!!」
「はははっ!怖いか?でもお前、こういうの好きだろ?」
「す、すごい!でも落ちないでね!?にぃに、絶対落ちないでね!?」
「大丈夫大丈夫。俺はお前を傷つけたりしねぇよ。」
俺は優しくレヴィを支えながら、彼を宙に舞わせる。
レヴィは最初はびっくりしていたものの、次第に楽しそうに笑い始めた。
「にぃにすごーい!やっぱりにぃにがいちばんすき!」
「ははっ、そんなこと言ったら甘やかしちゃうぞ?」
「えへへ、いいよ!にぃには優しいから!」
俺は、レヴィの言葉を聞いて、心の底から嬉しくなった。
小さな弟は、俺のことを全力で信頼して、愛してくれていたんだ。
「……っ!」
我に返った瞬間、俺はあまりにも甘すぎる記憶に浸っていた自分に気づき、軽く頭を振った。
「……くっそ、可愛かったなぁ……あの頃のレヴィ……。」
まさか自分が恍惚とした顔をしていたなんて、誰にも見られなくてよかった。
今のレヴィは生意気ばっかりだけど、昔は本当に可愛かったんだよなぁ……。
でも……本当は今でも、可愛いんだけどな。
俺に懐いてた、純粋で素直なレヴィ……。
もし、もう一度あの頃みたいに甘えてくれるなら、俺は喜んで何度でも高い高いしてやるんだけどなぁ。
「……はぁぁ。弟って、ほんっとに可愛いなぁ。」
そんなことを考えながら、俺は今のツンツンしたレヴィを思い浮かべ――
「……あいつ、昔みたいに"にぃに"って呼んでくれねぇかなぁ……。」
ぼそっと呟いてみた。
けど、もし言ったら全力で**「バカか!!」**って殴られる気がするから、心の中にしまっておくことにした。
◆――レヴィ視点
館の廊下を足早に歩く。
俺は、今しがた館にやってきた"とんでもない男"について、どうしても文句を言わなきゃ気が済まなかった。
――俺の兄貴、ラグナ・リヴァイア。
まさか、あの男がこの館に足を踏み入れることになるなんて……!
「ちっ……何考えてんだよ、クソ執事長。」
俺は苛立ちを抑えきれずに、執事長の部屋の扉を乱暴に開けた。
「おい、ギルバート!!」
部屋の奥に立っていたギルバートが、振り向きながら穏やかに微笑む。
「これはこれは、レヴィ。そんなに慌ててどうしました?」
その余裕たっぷりの態度がさらにムカつく。
俺は机にドンと手を置き、ギルバートを睨みつけた。
「なんで兄貴を呼んだんだよ!?俺は一言も頼んでねぇぞ!」
「確かに、あなたは頼んでいませんね。」
ギルバートは落ち着いたまま紅茶を一口飲む。
「ですが、知っている者なら、あなたもお嬢様に近づくことを許せるだろう?」
「……っ!」
思わず、言葉に詰まる。
「あれほど警戒心の強いあなたが、館の使用人たちと距離を置いているのも理解しています。ですが、お嬢様をお守りするには、誰かしら信用できる者が必要でしょう?」
「だからって、なんでよりによってアイツなんだよ……!」
「"強い者"ですから。」
ギルバートは淡々とした口調で続ける。
「館にふさわしいほどの力を持ち、あなたにとっても特別な存在――それならば、彼もまた"お嬢様の近くにいる資格がある"のでは?」
「……っ!」
俺は無意識に拳を握りしめた。
確かに、兄貴は強い。俺なんかより、ずっとずっと強い。
それに、"信用できる"かどうかでいえば……
……俺にとって、兄貴は特別な存在だ。
「……でも、俺は……」
納得できない。
兄貴は俺の兄貴であって、お嬢様の執事なんかじゃない。
なのに……
「……っくそ。やっぱ気に入らねぇ!」
俺はギルバートを睨みつけると、そのまま部屋を飛び出した。
「ふふ……あなたは本当に素直ではありませんね、レヴィ。」
ギルバートの含み笑いが、背後で聞こえた。
くそっ……!
俺は絶対に兄貴がお嬢様に近づくのを阻止してやる!
くそっ……!どう考えても気に入らねぇ!!
兄貴がこの館に来てからというもの、お嬢様との距離が近すぎる!!
「……絶対に兄貴をお嬢様に近づけさせねぇ!!」
俺は拳を握りしめ、**"妨害工作"**に乗り出した。
《作戦その1:お嬢様との接触妨害》
俺は館の廊下を歩く兄貴を見つけると、さりげなく前に立ちはだかる。
「おう、兄貴!こんなところで何してんだ?」
「あ?お嬢様に呼ばれたから行くとこだけど?」
「そうかそうか!でもよぉ、今お嬢様は体調が悪いんだよ!だからお前みたいなデカブツが行ったら余計に疲れちまうだろ?」
「……そりゃ大変だな。」
「だろ!?だからお前はここで待機してろ!代わりに俺が様子見てくるからよ!」
「ふーん。」
兄貴は俺をじっと見たあと、ニヤッと笑った。
「……で、お嬢様の"体調不良"って本当か?」
「は、はぁ!?当たり前だろ!?」
「ふーん、じゃあ今ここでギルバートに確認してもいいか?」
「……っ!?」
「お嬢様のことだし、ちゃんと執事長として知ってるだろうからなぁ。」
「ちょっ……!わ、わかったよ!ちょっと待てって!確認しなくていいから!」
「お前さぁ、バレバレなんだよ。」
「ぐぬぬぬ……!」
《作戦その2:兄貴の服をすり替える》
「よし、次はこっちだ……!」
俺は兄貴の部屋に忍び込み、用意しておいた"ダッサイ執事服"をクローゼットに忍ばせた。
「これを着せてお嬢様の前に出れば、一発で幻滅だぜ……!」
――そして翌朝。
お嬢様がいる前で、兄貴が姿を現した。
「おはようございます、お嬢様。」
そこには、なぜか俺が用意した服ではなく、めちゃくちゃ似合ってるカッコイイ執事服を着た兄貴の姿が。
「なっ……!?なんで俺の仕込んだダサい服じゃねぇんだよ!?」
「お前、俺の服すり替えたろ?」
「ぐっ……!?」
「さっきギルバートが"ラグナ様、こちらをどうぞ"って持ってきたんだよなぁ。どうやらお前の仕業だってバレてたみたいだぜ?」
「……くっそぉぉぉ!!!」
《作戦その3:お嬢様の部屋を兄貴が訪ねるタイミングで罠を仕掛ける》
「今度こそ成功させてやる……!」
俺は廊下に"見えないワイヤートラップ"を仕掛け、兄貴が通った瞬間に転ばせる作戦を決行!
「これで派手に転んで、お嬢様の前で恥をかけぇぇぇ!!!」
――だが。
兄貴はワイヤーの前で急に止まり、軽くジャンプして回避。
「……は?」
俺は呆気に取られる。
「レヴィ。お前、罠仕掛けたろ?」
「なんでバレてんだよ!!」
「昔からお前の悪巧みは顔に出るんだよ。」
「ちっくしょぉぉぉ!!!」
◆――結果:レヴィの妨害工作、全敗。
「……はぁぁぁぁ……。」
俺はソファに突っ伏して落ち込む。
何やっても兄貴には通じねぇ……。
「おう、レヴィ。」
振り向くと、兄貴がニヤニヤしながら立っていた。
「またなんか企んでんのか?」
「ぐぬぬ……!何もしてねぇ!!」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ。」
そう言って、兄貴はスタスタと去っていく。
「……っくそぉぉぉぉ!!!」
俺は床をバンバン叩きながら、"兄貴妨害作戦"の次の計画を練り始めたのだった……。
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