病室のおじいちゃん

おゆたん

第1話「子供の思い出」

これはちょっと先の未来の、もしかしてのお話し。


とある病室に、一人の寝たきりの老人がいる。

彼は**「おじいちゃん」**と呼ばれ、人々から敬愛されている存在だった。


今日も、お見舞いに訪れた者たちは、彼の周りに集まり、うっとりと話に聞き入っている。

おじいちゃんは、まるで子供のように楽しげに語り始めた。


「今日は子供の話をしようかねぇ😊」


◆ 子供の話


おじいちゃんは目を細めながら、まるで昨日のことのように語る。

• 「最近できた新しいテーマパークに行った時の話😊」

• 「ついこの前発売されたゲームの話し 早くSwitch2やりたいなー😊」

• 「流行りのアニメ😊」


見舞客たちは感動しながら頷く。

「おじいさま、本当に楽しそうにお話しされる……!!」

「まるで昨日のことのように覚えておられるのですね……!!」


だが、それは当然のことだった。


なぜなら——


「おじいちゃんが話しているのは、本当に昨日の事だからだ。」


◆ 子供の記憶


病院の受付。医者と、疲れ切った顔の父親が向かい合っていた。


「奥様の入院費が滞っていますが……」

「先生、なんとかなりませんか!」

「何とかと言われましても……」


焦る父親の足元に、小さな男の子がしがみついていた。

その腕の中には、大事そうに抱えた古びたぬいぐるみ。


男の子には、不治の病のお母さんがいた。

治療には莫大な費用が必要だった。

家にはそんなお金はない。


だから——


医者は、男の子に優しく微笑んで言った。


「坊や、本当に良いのかい?」


男の子は不安そうに唇を噛んだが、静かに頷いた。


「でも正直、思い出が少なすぎるよ……。そうだな、ママとの思い出なら高く売れるよ😊」


男の子は、びくりと肩を震わせた。

目には涙が浮かんでいる。


「大丈夫だよ。ママが良くなったら、またいっぱいママとの思い出を作れば良いじゃないか😊」


医者はそう言って、優しく微笑んだ。


男の子は、お母さんとの記憶を売った。


それは、男の子にとって一番大切なものだった。


お母さんに手を引かれて歩いた帰り道。

誕生日に作ってもらったケーキの味。

熱を出したときに、頭を撫でながら歌ってくれた子守唄。

それらすべてを、子供は手放した。


◆ 病室のおじいちゃん


「ママ、ママ、また一緒に遊ぼう。ママ、手繋ご? ママ、大好きだよ!」


病室に響く、幼い子供の声。

しかし、それは小さな男の子ではなく——ベッドの上の、おじいちゃんの言葉だった。


見舞客たちは、その言葉に聞き惚れた。

目に涙を浮かべ、感動に震えていた。


「おじいさま、素晴らしいお話でした……!」

「まるで、ご自身が体験されたかのような語り口でした……!」


おじいちゃんは、満足げに微笑んだ。


◆ 「その後の話」


その代わりに得たのは、大金。

そして、お母さんは助かった。


だが——


お母さんは退院し、子供の元へ戻った。

けれど、子供は彼女のことを見ても、何も感じなかった。


「……はじめまして。」


そう言った子供の瞳は、ただの他人を見るように冷たかった。


お母さんは泣いた。叫んだ。何度も名前を呼んだ。


「パパ!このおばちゃん怖いよ!えーんえーん!」


全てを知っている夫は、ただ茫然とするしかなかった。

かすれた声で、ようやく絞り出す。


「……お前のママだよ。」


それでも、子供にとっては見知らぬ女性の声でしかなかった。


お母さんは、耐えられなかった。


——その夜、お母さんは命を絶った。


◆ 病室の中で


おじいちゃんは、微笑んで話し終える。


「……そんな子供の記憶をね、昨日手に入れたんだよ😊」


見舞客たちは、優しく頷いた。


「おじいさま、素敵なお話でした……!」

「まるで、ご自身が体験されたかのような語り口でした……!」


おじいちゃんは、満足げに微笑んだ。

信者たちも、幸せそうに微笑む。


この病室では、何もかもが穏やかで、温かく、幸せだった。

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