あの子と再会するために

寝癖のたー

ゆめ

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 

 夢は、目覚めればいずれ忘れてしまう。


 僕は急いで二度寝、いや、10度寝をした。

 「またきたんだ。いらっしゃい。」

光が差し込む教室で、入り込んできた風が、彼女の緑がかった白髪を揺らす。


 俺はこの夢、いや、この少女に憑りつかれていた。

 

 彼女をじっと見る。目が合った。


「にひ~」

 白い歯を見せながらにやりと笑う彼女。


 苦し紛れに微笑み返した僕の顔は、明らかに熱を帯びていた。

 そんな僕を見て、彼女も少し頬を赤く染める。

 

 彼女の外見は現実的なものではないが、とても安心感を覚える、まるではるか昔から知っていたかのような。

 きっと根源的な願いの具現化なんだろう。

 

 ――これが夢だと、だんだんと自覚してきた。

 回数を重ねるごとに、徐々に現実の布団の感触を感じる回数が増えてきた。


 ふいに現実に引き戻されると、急いで意識を夢の中へ戻した。


 夢の初め、彼女とは、勇者とその仲間の僧侶、といった関係だった。

 天下無双の成り上がりストーリーだった。


 気が付けば、豪華客船で2人でダンスを踊っていた。

 夢の中では、現実でできないダンスもお手の物だった。


「これで最後かもね~」

 ふいに彼女はそう言った。


「何が?」

「とぼけない!もう、ほとんど起きてる」

「そんなことない」

「このあったかい教室も、現実のイメージに引っ張られてるでしょ」


「……」


「おわかれだよ」


 「いやだ……」


 カーテンの隙間から午後の太陽が差し込んでくるのを感じる。


カーテンを閉めなおそうと、少し、上体を起こしたその時、夢が途切れたのを感じた。


「……あ」


 ふたたび、眠りにつくが、眠気は訪れない。


 異世界への扉を、締め切られてしまったようだ。


 急いで紙とペンを手に取り、彼女との思い出を、忘れる前に記録しようとした。


 所々、忘れているところがあるのを感じる。


 そう考えているうちにも何か大切な記憶が抜け落ちていくのを感じる。


 2時間もしないうちに、僕の記憶から彼女は消え去った。


 白髪に翡翠を溶かしたような淡い緑色を含んだ彼女。

 陽気で活発な性格。


 その輪郭を残して。


 再び彼女と再会するために、僕はあの、寝起きのヒントをもとに小説を書くことにした。


 今夜、再び再開することを願って。

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あの子と再会するために 寝癖のたー @NegusenoT

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