夢を軸に紐解かれて行く、一人の『英傑』の立身と最期

 短い中に、とんでもない力強さと大河なオーラを秘めた作品でした。

 田文(でんぶん)は生まれながらに「迷信」を信じる父親によって命を奪われるような危険にさらされていた。
 どうにか父親から殺されることは回避できたものの、その後も「ある夢」を見る度になんらかの命の危険にさらされる。

 それらを乗り越え、どんどん立身出世をし、ついには「戦国四君」の一角をなすようにまでなる。

 読み進めていくとわかるのは、この『田文』が中国の歴史にその名を深く刻む人物であるということ。

 最近では漫画「キングダム」で大国である秦を苦しめる「合従軍」が作られる話が出てきました。秦以外の国々が手を結び、一斉に秦に襲い掛かるという。
 
 どうして各国が連携し、このような状況を作り上げたか。
 その合従軍の「アイデア」を出した蘇秦。それを受け入れ、合従を進めた。

 それが孟嘗君(もうしょうくん)という、一人の人物だった。

 多くの食客を抱え、その中には様々な技芸を持つ者がいた。中には鶏の鳴き声が上手いだけの者もいたが、孟嘗君が命を狙われた時にはその才能を駆使して危機を救ってくれることにもなった。

 そのことから「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」という、「どんなつまらない才能でも役に立つことがある」という故事成語も生まれています。

 そうした有名エピソードには事欠かない、まさに傑物。

 本作はそんな人物の「人生のターニング・ポイント」となる出来事の数々を「夢」を象徴として描き上げ、短いながらも強い感興を読む人の心に残すことに成功しています。

 あまりにも力強い人物像。そして強い運命のような力。それらをひしひしと感じさせてくれる、圧巻の物語です。 

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