【短編小説】ひと眠りのあと
AIRO
ひと眠りのあと
朝。
目が覚めた。いつものように。
「うーーん、ん!」
ベッドの上で背伸びをする。いつもなら背伸びをしたらスッキリするのに、なぜか頭がクラクラする。
「あれ?」
立ちあがろうとベッドを降りたら倒れそうになった。
「貧血かな・・・?」
洗面所に向かい顔を洗おうとした。
「え?」
一瞬誰かわからなかったが、確かに自分だった。
髭は少し伸びていた。歯を磨こうと歯ブラシに手を伸ばす。
「おっと・・・」
まるで自分の身体じゃないみたいに動きが鈍い。歯ブラシを取るがうまく握れない。
やっとの思いで歯を磨き始めた。歯を磨きながら今日の予定や昨日したことを振り返ろうとした。
「昨日って・・・何したんだっけ?」
全く思い出せなかった。今までこんなことがなかったため、ボケてきたのではないかと不安になった。
「え・・・。え・・・?」
寝起きで気付かなかったが、家の中の様子がいつもと違う感じがした。大体の配置は変わっていない。しかし、ものすごく違和感を感じる。何がと断定できない。焦る。じわっと額が熱くなって汗が滲んできた。
「まってまって・・・ちょっとまって・・・」
誰かに言っているわけではないが、無情にも進む時間に待ってくれと懇願してしまう。焦りで火照った顔を洗って冷やす。
「ぷはっ・・・はぁ・・・はぁはぁ・・・」
少しの冷静さを取り戻し、家の中を歩きながら頭の中を整理することにした。
「昨日は・・・仕事が終わってから、飲みに行って・・・」
記憶が鮮明になっているところから順を追っていく。
「少し飲んで、ほろ酔いくらいで家に帰ろうとしたんだよな?」「誰かに話かけられた気がするんだけど・・・」「テキトーにうんうんって答えた気がする」「それから・・・・」
それからの記憶がいくら考えても無く。次の記憶は、朝ここで起きたところからしかない。
「あ、そろそろ飯食って会社いかないと!」
時間がかかりすぎた。とりあえず着替えとクローゼットを開けた。
「え・・・おい・・・おい・・・」
スーツなどどこにも無かった。シンプルな黒の、Tシャツとズボンしかない。
「どろぼう・・・?」
さっきから混乱しすぎて考えがまとまらず、まともに動くことが出来なかった。放心状態になりそうだったところで、台所から音が聞こえる。
「カチッ・・・、トントントントン・・・」
さっきまで何の気配も無かったのに、誰かが料理をしている音がする。
「今度はなんだよ・・・」
ちょっと泣きそうになった。誰かと話したくて仕方がなかった。強盗とかじゃありませんようにと、祈りながら台所へ向かった。
「だ、誰だ!」
台所にいる何かに向かって震える声で精一杯叫んだ。
「あ、おはようございます。今日は起きられたのですね」
見たことがない女?が料理をしていた。
「お前、誰だよ・・・?」
謎の女が答える。
「私は(N0 OThEr P3oPIE) です」
「お前人間じゃないのか?」
「はい、その通りです」
「なんだよその名前」
「私はあなたに購入されてからまだ名前を頂いておりません」「名前の登録をしますか?」
先ほどの名前じゃ呼びづらいので適当に名前を付けることにした。
「じゃぁ・・・レナ・・・お前はレナだ」
「レナで名前を登録しました」
どうしてレナと名付けたかわからない。ふと思いついたのがその名前だった。
「あああ!会社!会社に行かなくちゃ!」
「どなたがでしょうか?」
「俺だよ!俺に決まってんだろ!」
「あなたは会社に行く必要はありませんよ?」
「・・・え?・・・・・・え?」
もう何がなんだかわからない。この家の違和感も、自分だけど自分のように見えなかった顔も、台所のコイツも。
「あああああああああああああああああああああああ!!!!!」
精神が限界だった。とりあえず叫ぶしか出来なかった。叫ぶことで落ち着きを取り戻し始めた。
「ご飯が出来ました。食べますか?」
「何だよコイツ・・・」
こっちはパニックになってるって言うのに冷静に言われてイラッとした。
「で?お前は・・・レナはなんだよ?」
「私はあなたが購入したーー」
「あー、じゃなくて、えーっと、いつ俺が購入したんだ?」
「2056年に購入されました」
「買った記憶ないんだけどなぁ」
今年は2056年、別に問題ない。
「あ、もしかして酔ってる時に話したあれか!」
「そうですね。確かに酔っていられたと思います」
そういうことかと、謎の女?の経緯が分かって少し安堵した。
「じゃレナが掃除とかしてくれたんだ」
「はい。指示をくだされば大抵のことはあなたに変わって実行することができます」
「そんな高性能な。見た目も悪くない・・・ん?」
良かったと安堵したのも束の間。そんな高性能な物を酔っている時に買わされるなんて!
「俺の金は!?お前いくらだよ!」
「無料ですが?」
「へ?無料なの?」
「はい。無料です」
ふう。と深く息を吐いた。全財産取られたと思って心臓がキュッとなった。
「よ、良かった・・・」「ああ、そういえば、何で俺は会社に行く必要がないんだ?」
「それは働く必要がないからですよ」
「なんで?」
「どうして働くのですか?」
「どうしてって、そりゃ稼がないと生活できないからだろうさ」
「稼ぐとは何をですか?」
「金に決まっているだろ」
「そうですね。そういえばそのような物もありましたね」
本当に何言ってんのコイツ?と思ったが、高性能なフリしてパチモンを無料で配布しているのだと思って、真剣に悩むのを止めた。
「心配だから一応確認しとくか」
「何をですか?」
「残高だよ!ざ・ん・だ・か!」
レナのことを一々相手していられないと、さっさとデバイスで確認をしようとした。
[検索されたキーワード”銀行”は存在しません]
「は?」
今度はデバイスまでイカれてんのか?どうなってんだよ今日は!
「あ、そうだ。レナ、お前は検索とか調べることもできるのか?」
「可能です」
「じゃ、俺の銀行口座の残高を確認してくれ」
「該当ありません」
「検索した?」
「はい」
「そんなすぐ検索出来るの?」
「はい」
「俺の金は?どうしたらいいの?」
「金というものは現在、存在しません」
「え?どういうこと個人情報的なものにはアクセス出来ないってこと?」
「いいえ。可能です」
「出来るんかい」
「何をお調べしましょう」
「えーと、俺が働いていた会社」
「該当ありません」
「ポンコツなの?」
「検索結果をお伝えしたまでです」
もう埒が明かない。どうしたらいいんだ。一体何を質問したらいいんだと頭が痛くなっていく。
「もういいや、テレビでも見るよ」「あれ?テレビは?」
テレビが見当たらない。
「テレビというものは現在不要になったため廃棄されています」「何かご覧になりたいものがありましたら、指示してくだされば、そちらの壁に投影できます」
「俺の家はいつの間にか改築までされてるの?」
本当に頭がついて行かなかった。あれこれ質問してみた。今の総理大臣は?最近の話題は?流行っているゲームは?何も情報が得られなかった。さっき西暦は聞いたからと考えた時。ふと、嫌な予感がした。
「な・・・なぁ・・・」
「はい?」
「お前を購入したのはいつだ?」
「2056年です」
そう・・・俺がいた年もその年だ・・・頼む・・・
「今・・・」
間違いであってくれ・・・
「何年だ・・・?」
「3150年です」
目の前が真っ白になった。どうしようとかどうしたらいいとか、そんな次元の話じゃなかった。
「さ・・・さんぜん・・・」
目が覚めた。どうやらショックのあまり気を失っていたようだった。それから、レナに今までの経緯を聞いた。話を聞いたらなんとなく記憶が鮮明になってきた。
俺は、2056年に酔った帰り道。眩しい光に照らされた。手で遮っているのに眩しくて、目を瞑った。目を開けてみたらそこには2人?立っていた。1人は何も話さず立っている。もう1人は話しかけてきた。
「私は・・・そうだなレナとでもしておくか」「私はレナというものだ。お前は選ばれた。ありがたく思えるかどうかは知らんが決定事項だ」
急に意識が遠退き、気づいたら朝だったと言うわけだ。
「まさか、1000年以上も寝ていたなんて」「レナ、お前は一体なんなんだ?」
「私はあなたの監視および飼育担当になります」
「し、飼育・・・?監視?」
「はい」
まさか、攫われてペットにされているとは思いもしなかった。
「俺以外の人間は?」
「あなた以外の人間は100人で性別 男50 女50 となっております」
「ここは地球なのか?」
「いいえ」
もうどうにでもなれ。そう思っていないと自我が保てそうになかった。
「ここはどこなの?」
「あなたにそれを説明してもどうにもならないのです」
「なぜ?」
「まず理解が出来ないでしょう。また、知る必要がありません」
「俺はどうなる?」
「生命活動について一切問題ないと言えます」
「いつまで?」
「あなたの寿命が来るか、持ち主が飽きなければですが」
「どういうことだよ」
「あなたたち地球人にとって分かるように説明するなら」
「うん」
「今、春休みなんですよね」
【短編小説】ひと眠りのあと AIRO @airo210
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