第7話 図書館で、とある研究者に会う。
「ねえ、グラニス」
「どうした?」
「あのアクセサリーってさ、古代文字が見切れてて一部しか見えてなかったり、写真の中でめちゃくちゃ小さかったりしても読み取れるの?」
「小さい分には良いけど、三分の一は見えてる必要がある。汚れてるなら三分の二は見えていた方がいいな」
「……どういうことなんだろうね。こういう情報って、全部見えてようやく解ける物じゃないの?」
「さあな」
図書館で膨大な本の中から、古代文字を探すグラニスとリーナ。
なお、ルクスは露店で買ってきた食べ物を、もぐもぐ食べつつ、『ぴぃ?』と時々鳴いている。
そんなルクスを見るリーナの視線は暖かいものだ。
これまで、『病気』が本当にひどく、まともに食事が喉を通らない状態が続いていた。
それが、気分が多少良くなる程度であっても、薬を用意できたことで、普通に何かを食べられる程度には回復している。
それを見て安心しているのだろう。
これから本格的な薬を手に入れるために情報収集が始まるわけだが、余裕ができたというのは大きなことだ。
「……最悪三分の一でも問題ないか。情報としてすごく頑丈だよなぁ」
「そうだよねぇ」
相槌を打つリーナをしり目に……。
(ていうか、QRコードに似てるよな。あれって確か、工場みたいな油で汚れるような現場で使うことが前提で開発されたって聞いたことがある。『同じ情報の繰り返し』で情報を頑丈にしてるって話だったか? ……これもそうなのかね?)
グラニスはそんなことを考えていた。
ちょっと見切れていても、ある程度汚れていても、QRコードは読み取れる。
もちろん、コードを読み取ろうと思っている人間がわざわざ見切れたコードにしたり、汚れた物を使おうとするとは思えないが、とにもかくにも、QRコードは情報として頑丈である。
様々な考古学の研究の中に出てくる古代文字は、大体は『研究の過程でこれを発見したが、読み取ることはできなかった』という話ばかりだが、それでも写真としてきっちり残っている物ばかりだ。
ただし、中には『古代文字なんて研究してもどうせわかんないんだから、ページにそこまで載せても仕方がない』として、ちょっと見切れている場合もある。
とはいえ。研究の過程で出てきた者であろうとなかろうと、どのみち内容はわからないのだから、グラニスの視点で重要なアイテムといえるかどうかは別問題だ。
「……うーん」
「どうかな」
「すぐにたどり着くものじゃないとは思ってたけど、正直、期待外れだな」
「どういう意味?」
「俺たちが使おうとしてるドラゴンリーブって、強い薬草の部類らしい。武器に使う物として、かなりランクが高い扱いをされてた」
「ほー……」
「言い換えれば、俺たちがルクスに使いたいポーションもまた、ランクが高い物なんだが、そこに至るには、いくつかのレシピを組み合わせて作る必要がある」
「組み合わせ?」
「俺が作った『鉄の剣』って、そこに至るためには三つのレシピが必要だっただろ?」
ソードグリップ。鉄のインゴット。
この二つのレシピがあって、初めて『鉄の剣』のレシピは意味を成す。
ドラゴンリーブがランクの高いアイテムの素材であるということは、それより多くの手順が必要になるということだ。
「そうだね……あ、そういうことか。そのポーションを作るためにいくつかのレシピが必要になるし、そのレシピがどこにあるのかもわからないってことだよね」
「そうなる。レシピを実行する魔法だから、適当に物を組み合わせることもできないからな」
「……ということは、『竜の薬』のレシピを見つけることができたのは、奇跡ってことなんだね」
「そうなる」
本当に奇跡的な確率で、竜の薬のレシピを見つけることができ、ルクスの病気は関知していないが、それでも、動くことはできる程度になっている。
というより、モンスターというのは、多少の病気でも動けるような個体が多いのだ。
何故なら、モンスターは『薬を開発する手段』など持ち合わせていないため、そもそもある程度のウイルスならば体内で無理矢理抑え込むようなことも可能。
そういう前提があるため、重い病気であったとしても、それを軽くすることができるならば、普通に過ごすことは可能だ。
元気に飛び回ることはもちろん不可能だが。
「……ん?」
グラニスが本を元の場所に戻した時だった。
新刊コーナーがあり、そこに、『古代魔法研究』の本が置かれている。
「へぇ、新しいのが出たのか……」
その本を手に取って、リーナがいる場所に向かう。
「……あれ、まだ本があったの?」
「新刊があった。まぁ、多分研究が進んではいないかもだけど……」
パラパラとページをめくる。
「……あ、古代文字があった」
「ふーん……」
グラニスは読み取ってみる。
『魔力活性剤 』+『 治癒エキス』+『ドラゴンリーブ』→『竜の秘薬』
グラニスの頭に、確かに、この情報が流れ込んだ。
「えっ……」
「どうしたの?」
「ドラゴンリーブを使った薬の情報だ」
「嘘……」
「魔力活性剤、治療エキス、ドラゴンリーブ、これを合わせれば、『竜の秘薬』になる。ただ……」
「その二つの素材のレシピは、まだ出てきてないってことだね」
「ああ。ただ、これは大きい。ゴールがわかるかどうかは大きいぞ」
ゴールがわかっていない場合、例えば途中で『魔力活性剤』のレシピを見つけたとしても、その素材に対して興味が薄くなる。
「一歩進んだね」
「ああ。まさかこんな偶然があるとはな」
本をテーブルに置いた。
「まだ若いのに、こんなに本を並べて珍しいねぇ」
「「!」」
グラニスたちに向かって、誰かが話しかけてきた。
振り向くと、一人の青年がいた。
研究者だろう。
シャツとズボンの上に白衣を着て、好奇心があふれる目をした茶髪の男だ。
「……ああ、驚かせてすまないね。僕はシェル・グリーブ。古代魔法の研究者で、その本を書いたのも僕なんだよ」
「え、この本を?」
「ああ。どんな魔法を研究しているのか気になるけど、もしよければ、僕も力になるよ」
「あ、ありがとうございます」
良い笑顔のシェル。
古代魔法の研究者という、願ってもない人材が、目の前に現れたようだ。
最前線で戦ってたフィジカルチート転生者が合成魔法を手にした件 レルクス @Rerux
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