惑星移動の荷物

taiyou-ikiru

第1話

 私は空を窓越しに眺めていた。するとなにか空から落ちてきたのだ。私は最初流れ星かと思った。だけど違った。だってあの大きな山に落ちていったから。なにかが落ちていったのだ。私はその事実に少し興奮し、わっと声を挙げてしまった。すると周りの子たちが私のことを不審気に見るのだ。でも私はそんなことは気にしていなかった。私の視線はあの大きな山に張り付いていたのだから。


 春の桜が未だ舞っていないぐらいの頃。私は家で準備を整えていた。

「お母さ~~ん リュックどこぉ」

「リュック?…なにに使うの?」

 母さんは器用に洗濯物をしながら言った。

「ちょっと山に行くの」

 軽快に言った私と裏腹に、母さんは洗濯物の手を止め私のほうを向き、いぶかしげな表情で言った。

「山に?ちょっと教えなさい、色々と。まずどこになにをしに誰と行くの?」

 足を屈んで私と目線を合わせてくる。母さんが物事を聞くときはいつもこうやって聞いてくるのだ。私はそれがなんというか嫌いだ。なんだか私を見透かれているような気分になるのだ。

「えっとね、えっと山に、流れ星をね、取りに友達と行くの‼」

「流れ星を取りに行くの?」

「そう‼今日ね、落ちてきたの窓から見てたんだけど空から流れ星があの山に落ちてきたの!!」

 お母さんはちょっと不思議そうな表情をしていた。

「へぇそうなんだ、、、それで山ってあそこのカバ山?」

 母さんの透き通ったような目の色に少し鼓動が早くなる。別に悪いことをしているわけではないのに。

「うん」

 まぁあの山なら、、、とボソッとつぶやき、少し悩んだ後また私のほうを見て、言った。

 「分かったわ、、、でも5時ぐらいに帰ってくるのよ」

 どうやらわかってもらえたようだ。私は嬉しくなって力を入れて「うん」と首を振ってしまった。そうしてリュックを棚奥から出してもらい、私は荷物を詰めにまた部屋に戻った。部屋に戻ると、先ほど用意した荷物をリュックの中に入れていく。おやつのときに残していた、クッキー5枚。そして水筒。中身は水。あとは地図に......コンパス。あとは....タオル..........。こんなものか...。よしっ準備ができたとリュックを担ぎ胸を躍らせ外へ出る。太陽の暑さがなんだか心地いい。


 公園からちょっと離れた木々に貼られた赤いテープから、前に26歩右に3歩、これが今回の集合場所だ。テープの下に立ちしっかりと頭の中で考えて一歩2歩と歩みだす。すると次第に薄暗くなっていき、右側に人影が見える。恐らく先に来ていたのであろう。人影が見えたことに安堵しながら、歩く足を早める。

「お~~い」

 そう言いながら手を振るとこちらに気が付いたようで、またあちらも手を振り返してくる。

「時間ぴったりだね。」

「でしょ」

 ピースをしながら少し乱れた息を整える。そう言ってメガネのおさげ髪の女の子、りんちゃんはゆっくりと(恐らく自分で持ってきたであろう)レジャーシートに体育座りで読んでいた本の続きを読むべく手を本へと向けている。私はその横に座り話しかける。

「、、、ねえねぇ何の本読んでるの?」

「、、植物のやつ」

「ふぅん、、、」

 いつも同じ本を読んでいるなと思ったがこれは聞いても失礼に値しないかと悩み、喋りが中断されてしまう。

「、、、、、、そういえばさまだ来ないのかな、、、のっちゃん」

「さぁ知らない。」

 ちょっと気まずい。早く、、、、のっちゃんが来ないかなぁ、、なんて思っている私は「ダメ」なのだろうか。別に仲が悪いわけじゃないけどりっちゃんとはいつもそうなのだ。なんだかりっちゃんは自分の世界がしっかりあるように感じる。別に悪いわけじゃないし私にはそういった世界がないから。羨ましくも感じる。あ~あ人の心がわかったらなぁ。りっちゃんが話したいときに話せるのになぁ。そんなことを思っていると、りっちゃんが話しかけてきた。

「そういえばさ、今日星を探しに行くんでしょ?本当にあるの?星なんて」

 私は嬉しくなっちゃって頬が緩むのを抑えながらうんと元気よく応えた。

「そう!星を探しに行くの!本当に見たの!星!!」

 前のめりになりながら熱弁する。りっちゃんは近い近いといわんばかりに後ろに引く。

「え、でも見ただけでしょ?」

「いや、、まぁそうなんだけどさ、、、本当に落ちてきたんだよ?ほらあそこぐらいにさ」

りっちゃんは変わらず懐疑的な目で見てくる。

「そう、、、それで仮に星が落ちてきていたとして、それをなにに使うのよ。」

「、、、それは...........」

 ちょっとだけ気持ちが萎む。でも本当にあのときは興奮したのだ。仕方のないことだと自分で庇護する。だって星が落ちてきたんだよ!見に行きたいじゃん‼。そんなことを心でつぶやいていると、焦ったような顔をしてりっちゃんは話す。

「いや、でも確かに星は気になるしちょっとだけ見てみたいかも  ね、ね」

 そんなにしょぼんとした顔をしていただろうか。ちょっとだけ拗ねてやろ。そう意地悪な心が働き口を尖がらせて意を表する。

「、、、ほんと?」

「ほ、ほんとだよ!見に行きたいよ。星。」

「ほんとのほんと?」

「もちろん」

 ちょっとだけ顔を柔らかくする。そうするとりっちゃんは安心したような顔をする。それがなんだか面白いのだ。そしてまたりっちゃんはなにかを話そうと口を動かす。

 するとりっちゃんがあっと声を出し、視線を私から反らす。私もそっちのほうを向くと、少し遠くでのっちゃんが笑顔で手を振り、歩いてきている姿が見えた。私は立ち上がって、おーーいと口に出す。するとのっちゃんも立ち止まっておーいと反復的に喋った。

「遅いよ~」

「いやーごめんごめん待たせちゃったね、準備に時間がかかちゃてさぁ」

 りっちゃんはその特徴的な栗色で長い髪をふわっと漂らせ、私の前に立つ。そうなのだのっちゃんはしっかりものなのに時間にはルーズブルなのだ。のっちゃんが喋った。

「ところでさ、今日は星を探しに行くんでしょ?」

「うんそうだよ。あっでも、りっちゃんは行きたくないんだよね~」

 新しく意地悪な心が生まれてにやにやした顔で言ってしまう。りっちゃんはこれまた焦った顔で言った。

「行きたいよ、いくよ行く行く!」

「あ~また意地悪して~~」

「ごめんってりんちゃんごめんてふっふふ」

 むすっとした顔でりっちゃんが追いかけてくる。それに呼応して私も逃げ出す。そうやってくるくると回っているといいタイミングでのっちゃんが言う。

「じゃあそろそろ行こうよ~」

「そうだね~」

「ちょっと待って‼捕まえてからにして‼」

 そうやって私たちは賑やかにあのかば山に向かい歩みだしたのであった。

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