くじゅうの日の夢
もっちゃん(元貴)
夢カード
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
これで、9日連続で、同じ夢を見続けている。
一体何の苦行だよ!いつまで続くのだろうか?はぁー。ため息しか出ない。
この苦行が始まったのは、やはり9日前に夏祭りの屋台で買った「夢カード」のせいだろう。
◇
ー9日前
地元の神社で開かれた夏祭り会場
久しぶりに、夏祭りの会場に来て屋台を見回っていると、一軒気になる名前の屋台を見つけて、その屋台の前に立ち止まった。
その名前は、
顔の深くまで黒いフードをかぶっていて素性がまったくわからない屋台の店主が声をかけてきた。
「いらっしゃい。夢カード一枚買わないかい?」
テーブルの上には、よく見る対戦カードのような大きさのカードがいくつか並んでいた。
だが、カードに描かれている全ての絵がみな漆黒の闇だった。
その絵をじっとみてるとその闇にのみ込まれそうな感じになる。
「あの…夢カードって何ですか?」
「夢カードは、あなたに幸福を授けるものです。一家に一枚あれば、一生幸せになりますよ」
わたしは、あまりにも怪しい感じしかしないので、立ち去ろうとするが、「待ってください!あなたには、特別にこのカードを売りますから…」
なにやら、高価なものが入ってそうなアタッシュケースを開いて、中からカードスリーブに入った黄金色に輝く夢カードをわたしの手に渡してきた。
「これは何ですか?」
カードをみると、店頭でみた他のカードと同じ漆黒の闇の絵が描かれていたが、なぜか黄金色に表も裏も輝いていた。
「これは、この店で1番価値のある夢カードです。毎晩、枕元に置くと翌る日は一日中幸運が舞い込むことになるでしょう」
さらに怪しさがMAXになったが、最近わたしには身内の不幸が続き気が弱っていたため、少しでも幸せを欲していた。
店主に、「ちなみにいくらですか?高かったらいま手持ちがなくて…」
「それなら問題ありません。わたしの販売しているカードは、すべてお客様がお決めになることになってますから」
「ということは極端な話、タダでもいいってこと?」
「ええ。もちろんですよ。このカードの価値はあなたが決めるのですからね」
流石にタダは、悪いかと思って、「じゃあ、千円でいいかな?」
千円札を店主に渡した。
「はい。千円ですね。これから毎日千円分の幸福がやってくるでしょう。それとそのカードを破らないでくださいね。すこしでも破れると危ないですから。ヒヒッ…」
「…わかりました。気をつけますね」
店主の危ないという言葉と、最後の奇妙な笑い声に、何かしら違和感があったが、幸福が訪れるならいいかと夏祭り会場を後にしたのだった。
◇
その夜から、言われた通り枕元に黄金色に輝く夢カードを置いて寝たのだが、毎朝なぜかわたしが事件事故に巻き込まれて、意識を失うと目が覚めるのだ。
1日目は、トラックに跳ねられる。
2日目は、車を運転していたら逆走車に突っ込まれる。
3日目は、買ってきた弁当による食中毒。
4日目は、道を歩いていたら無差別殺人鬼に襲われる。
5日目は、仕事中に突如、心臓発作が起こる。
6日目は、ハイキング中に、突如土砂崩れに巻き込まれる。
7日目は、地震が起き、家が倒壊し、生き埋めになる。
8日目は、寝ているうちに家が火の海になる。
9日目は、通勤中、電車が踏切でトラックと衝突して脱線する。
以上が1日目から見た夢の大まかな内容だ。
店主が言っていた通り、たしかに、毎日些細な幸せを感じることもあった。
それは、なぜか最近あんなに、わたしに対して嫌味しか言わなかった上司が珍しく褒めてくれるし、昼飯を食べる飲食店が毎回違う店に行ってもことごとく半額セールをやっていたり、赤信号待ちをまったくしなくなったりした。
しかし、この悪夢を毎回見ることに対して、わたしは、もう嫌気がさし、破いてはいけない夢カードを破り捨てた。
10日目、朝起きるとあの悪夢にうなされていたのが嘘のようにスッキリ目が覚めたのだった。
いつもの通り、会社に出勤途中、青信号で横断歩道を歩いていたら、急ブレーキの音が聞こえてきたのだ。
その音が聞こえた方を振り向くと目の前に、トラックが……
「えっ!?」
わたしは、今がまだ夢の中なのか?はたまた現実なのか?わからないまま跳ね飛ばされ地面に叩きつけられた。
空中に、あの店主に似た羽を生やしたナニカを見た後、意識を失った。
「ヒッヒッヒッ…」
笑い声が、街中に鳴り響いていた。
終
くじゅうの日の夢 もっちゃん(元貴) @moChaN315
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