第7話

僕は5日間の眠りから目覚め、任務の内容を空夜さんから聞かされていた。


「今回は時嶺、黒崎、常世で動いてもらう」


黒崎は露骨に不満そうな顔をした。


「今回は任務というより見学だ。時嶺のサポートをしてくれ」


「任務の内容は何ですか?」


僕は尋ねた。


「簡単に言えば裏切り者の暗殺だ。詳しい資料はここにある」


資料に目を通すと、対象は夜白琥珀やしろこはくという男。レスティアの末端構成員で、敵組織に情報を売ったらしい。

能力は影踏み。相手の影を攻撃すると、その本人にダメージが入るらしい。

資料には、白髪の若い男の写真が載っていた。


「作戦の詳細は時嶺に聞け。それじゃあな」


そう言って空夜さんは部屋を出ていった。


「作戦は私がスナイパーで仕留める。そのためにあなたたちが、撃てる位置まで誘導する。それだけ」


「それだけですか?」


あまりにも大雑把すぎる。


「どんなに綿密に計画しても、どうせ予想外のことが起きるから無駄よ」


確かにそれはそうかもしれないが、もう少し考えたっていいだろうと思ったが口には出さなかった。


「ガレージはこっち。ついてきて」


黒崎はそう言うと、足早に歩き始めた。


「足引っ張らないでよね」


黒崎に言われる。


「多少鍛えたんだから、前より強くなってないと困るわ」


時嶺さんにも言われた。

5日間寝てたとはとても言えない空気だ。


「ハハッ」


乾いた笑いしか出なかった。


そうしているうちにガレージの前に着く。

この施設ならスポーツカーやヘリ、戦車まであるだろうと思ったが、中には軽自動車が一台。

意外だったが、派手な車だと目立つからだろう。


「私が運転する」


黒崎が名乗り出た。


「あなたは自分のことだけ考えて。今回は私が運転する」


そう断られ、僕たちは車に乗り込んだ。


目的地に着くと、黒崎が説明を始めた。


「夜白はこのマンションの501号室に住んでる。その場で殺せればいいけど、無理そうなら向かいの公園におびき出して。私はあっちのビルで狙うから」


「夜白って強いんですか?」


「まあまあ強いわ。一人だと私も厳しい」


なんでそんな相手を僕に任せるんだと不安になる。


僕と黒崎はマンションに向かう。

ロビーは荒れ果て、クモの巣が張り、壁には落書きがされていた。


「そういえば、あなた何してたの?トレーニングルームにはいなかったけど」


「まあ、いろいろと…」


濁そうとしたが、


「具体的に」


仕方ないので答える。


「この5日間、ずっと寝てた」


「じゃあ前より強くなってないわけ?」


「…その通り」


「ほんっと馬鹿ね」


言い返せなかった。

確かに貴重な5日間を睡眠で潰すのは馬鹿だ。


「じゃああなたは囮ね。私がどうにかするから」


「なんで僕が囮なんだよ」


「だってあなた、攻撃されるのが前提の性能でしょ?」


確かに僕は再生能力しか取り柄がない。仕方ないか。


「わかったよ」


501号室へ行くため、階段を上ろうとしたその時、腹に激痛が走った。

攻撃かと身構えたが違う。腹痛だ。


「ちょっと…腹痛でトイレに…」


黒崎は呆れた顔をしている。


幸いロビーにトイレはあったが、不幸にも地獄のように汚かった。

それでも中に入るしかない。


腹痛は治らず、トイレから出ると黒崎が不機嫌そうに待っていた。


「私を待たせるとか何様よ」


「本当に申し訳ない…」


「変なもの食べたんじゃないの」


「アジトにあったサプリと、パンみたいなの」


「…マニュアル読んでないの?」


「重要そうなとこだけ」


「それ、1つで一週間分の栄養なの。五日ぶりに食べたなら胃がやられるわ」


最初は圧縮してあるが、胃の中に入れると膨張する、読んでる時は便利だと思ったことを思い出した。


「で、何個食べたの?」


「パン十個、サプリを四個ずつくらい」


「もうちょっとで死ぬわよ、あなた」


僕もそう思う。


「どうせなら囮として死になさい」


そう言われ、僕たちは501号室に到着。


「まずあなたが入って」


と言われたが、鍵はかかっている。

ノックやチャイムも反応なし。鍵穴もこじ開けられない。

僕はひらめいた。


「瞬間移動で中から鍵開けられない?」


「無理。行ったことない場所には行けないの」


ギフトの源は想像力、想像力できないことは不可能なのだろう。

なら、ベランダから入ろう。


隣の部屋を開けると、運良く開いていた。

そこから隣のベランダへ行き、窓を割って中へ。


ゴミだらけの部屋。だが、生活の痕跡はある。

僕は鍵を開けて黒崎を呼んだ。


「今は留守っぽいけど」


「食べかけのものがゴミ箱に入ってるわ。多分まだいるし、私たちに気付いてる」


僕は拳銃を構えた。


「まだそんなおもちゃ使ってるの?」


アノマリーは異常な再生能力を持つため、アノマリーにとって銃なんてエアガンと同じ。

でも僕の力じゃそれくらいしか扱えない。


部屋を調べ、リビング、寝室、トイレ、クローゼット、そして最後に風呂場。


浴槽にはフタがある。おそらくここだ。


恐る恐るフタを開けると――


そこには.....


白髪の若い男がいた。


蛆と一緒に。

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