第3話

状況を整理しよう。


今、僕は電車の中で銃火器を持った男に追われている。

ただの男じゃない。さっき「能力がどう」とか言っていた。ここは転生ものではなく、いわゆる“異能力バトル”の世界に来てしまった。


手元にあるのは、コインが二枚。

時間を稼ぐだけでいい。助けが来るまで。いや、来る保証なんてどこにもないけど。


男は今にもロケットランチャーで僕を爆殺しそうな勢いだ。


一回死んでから、体が軽く感じる。筋力が強化されてるのかもしれない。

そう思って、全力でコインを男に投げてみた。



....しかし なにも おこらなかった


だが、何かしなければ。

僕は賭けに出た。


「話し合わないか」

そう提案してみる。


「お前は誰だ。それだけ答えろ」


「僕の名前は――」


「そういうことじゃない。答える気がないなら、死ね」


男は引き金に指をかけた。


その瞬間、ガタンッという音とともに、電車のスピードが上がった。銃弾は僕の頬をかすめて飛ぶ。


死ぬかと思った。でも、助かった。

死に際に何かが起こって助かるなんて……もしかして、本当に主人公なのかもしれない。


「待ってくれ。僕を殺せば、君も死ぬ。さっき投げたコイン、あれは爆弾だ」


嘘100%、完全なブラフだ。


「それを示す証拠は?」


「ない。でも、正しいかどうかを考える時間なら、君にはある」


僕は続けた。

「僕の能力は爆発。触れたものを、好きな時に爆発できる」


どこかで聞いたことのある、ユニークの欠片もない能力だ。


「じゃあ、なぜすぐ殺さない?」


「聞きたいことがあるからだ。とりあえず、まず名前と能力を教えてくれ」


「名前はカイ。苗字はない。能力は、持っている銃を任意の銃に変える能力だ」


そう言って、RPGをピストルに変えた。まるで手品のようだった。


やけに素直に答えたな……僕にハッタリの才能があるかもしれない。


「銃を捨てろ」


「捨てるわけないだろ。どうせハッタリだ」


さっきは素直だったのに、今は違う。なぜだ?


「死にたいなら従わなくていい。撃てよ」


「わかった。銃を落とすから、その爆弾も蹴飛ばしていいか?」


「構わない。でも、先に銃を捨てろ」


カイはピストルを捨て、僕の投げたただのコインを蹴飛ばした。


僕は尋ねた。

「なんで俺を追ってきた?もう一人いただろ」


「俺は目が利くんだ。あんなカスより、お前の方が強いってことはわかる」


強い?僕が?


そんなはずはない。

頭がいいわけでも、筋力があるわけでもない。能力もよくわからない。


「なんでそうなるんだよ」


「本当に答える気がないのか。なら、死ね」


カイは再び、手から銃を出現させた。


ハッタリを使えるのは僕だけじゃない。

彼も能力に関して嘘をついていた。

銃を変形させる能力ではなく、作り出す能力だったのだ。

そう思った時には、もう遅かった。


カイは銃口をこちらに向け、引き金を引こうとした。


その瞬間。


彼の脳天が、吹き飛んだ。


少女のドロップキックによって。


何が起こったのかわからなかった。でも、敵が死んだ。それだけで、少し安心した。


「大丈夫?」

彼女が声をかけてくる。


「僕は大丈夫だけど、君は……?」


「大丈夫なわけないでしょ。足がぐちゃぐちゃよ」


彼女の足は変な方向に曲がり、血まみれになっていた。


この女も、僕の命を狙ってるのか……?

そう思ったけれど、戦える状態じゃなさそうだった。

僕も疲れていたし、なぜか分からないが彼女を信頼できる気がした。


「君たちは……何なんだ?」


「とりあえず肩を貸して。ここから早く逃げないと」


僕は肩を貸した。彼女の肌は温かかった。

人に、いや、生きた動物に触れたのは何年ぶりだろう。


ちょうど電車が止まった。


僕たちは電車を降りて、近くの公園のベンチに座った。


時計を見ると、午前三時を回っていた。


「足は大丈夫?」


「ええ、そこまで重くはないから。あと一時間も座っていたら治るわ」


異常な再生能力。それが僕だけ能力でないらしい。

疑問がさらに深まる。


僕は尋ねた。

「君たちは……何なんだ?」


「あなた、歳は?」


「23」


「最近、おかしなこととかあった?」


「トラックに轢かれた。今思えば、夢かもしれない」


「おそらくそれが原因ね」


「何も知らないと思うから、最初から説明するわね」


彼女は教えてくれた。


この世界には、能力者が存在する。

素質のある人間は、人口の四分の一程度。

そういう人間が死の危険に直面した時、能力が開花する。


能力者は、筋力・再生能力・五感が人よりはるかに高い。

一人一つ、能力を持っている。


こんなに派手に戦って誰も騒がないのが不思議だったが……

非能力者は、能力者の戦闘、能力者に対して"疑問に感じない"ようになっているらしい。

だから電車の中で誰も動じなかったし、戦闘をじろじろ見てた僕が普通の人でないと思われたらしい


そして能力は早くて10歳、成人してから能力者になる例は、まれらしい。


要するに、僕は異世界ではなく――異能バトルの世界に来てしまったらしい。


僕の能力は、何なのだろう。

できれば、かっこよくてチート級の能力がいい。


僕は聞いた。

「君の能力は?」


「私の能力は、任意の物の時間を巻き戻せるというもの」


彼女はナイフを落とし、それが勝手に空中に浮き上がる。


おそらく、さっきのドロップキックも能力の応用なのだろう。

自分自身の時間を巻き戻し、電車の運動エネルギーを逆転。

そのスピードのまま敵に衝突したのだろう。

電車を加速させたのも、その一撃を強くするためかもしれない。


それにしても、そんな大事な能力をあっさり他人に話していいのだろうか……。

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