クレープの味は恋の味
ここグラ
クレープの味は恋の味
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
私、
それならさっさと誘えば良いじゃんと思うかもしれないが、世の中そんな勇気に満ち溢れてた人ばかりじゃない。シャイな私はそれこそ何かに縋らないと勇気を出せないのであって……
「うう、今日こそお願い、【クレープの日】さん!!」
毎月9、19、29日はクレープの日らしい。数字の「9」がクレープを巻いた形に似ていることから制定されたらしいけど、この日なら勇気を出して頑張れる。そう思って毎月その日にチャレンジしているのだが……結局無理で今に至る。現在、彼の教室から少し離れた廊下の角で彼を待ち伏せ中である。
「あ、七波君。え、えっと……」
「ねえねえ七波君、一緒に帰らない?」
「悪い、今日この後用事があるんだ。またな」
……ダメだ。私の入る余地なんて全くない。分かっている、七波君はカッコよくて優しいからモテるってことを。そりゃ他の女の子だって、ほおっておかないよね。
「……帰ろう」
***
「はぁ……」
現在、お気に入りのクレープ屋で一人でクレープを食している。クレープだから甘いはずなのに、何だかしょっぱい。涙でも入ったのかなあ。
「七波君と一緒に楽しい学園生活を送りたいのに、上手くいかない。私の女子高生ライフ、このまま可もなく不可もなくすぎていくのかなあ」
昔から私はそうだ、何をするにも勇気を出せずに何一つ成し遂げることが出来ない。幸い友達は少なくはないし、周囲の人には恵まれている方だと思う、よく助けても貰える。でも……このままで良いのだろうか。
「せめて何かきっかけがあれば、自信を持てるのかもしれないけど……」
「何のきっかけ?」
「ひゃあっ!! ……って、七波君!!??」
目の前に急に想い人が現れ、変な声をあげてしまった。は、恥ずかしい……穴があったら入りたいよお。
「どうしたの七波君、今日は用事があるんじゃなかったの?」
「その用事が終わった帰りだよ、自分へのご褒美にクレープ食べようと思って。ってあれ、どうしてそのことを知ってるの?」
「あ……」
そうだ、考えてみればそんなのを私が本来知っているわけないじゃない。
「さ、さっき学園の廊下で偶然聞いちゃって」
「ああ、なるほど。九宮さんは、ここはよく来るの?」
「うん、お気に入りの店で……って、ええ!!??」
「どうしたの?」
「どど、どうして私の名前を!!??」
またしても変な声をあげてしまった。私と七波君って、知り合いじゃないよね?
「ああ、最近ちょくちょく見かけるからクラスメイトに聞いたんだよ」
「そ、そういうこと」
まあ、それが現実だよね。ロマンティックな展開なんて、そうそうあるわけがないし。
「九宮さんは、クレープ好きなの?」
「う、うん。今日はクレープの日だし、食べに来たの?」
「クレープの日……何か似てるね」
「え?」
「俺もクレープ好きなんだけど、男がクレープって何だか恥ずかしくてさ。だから、毎月9が付く日限定で勇気出して食べに来てるんだ。美味しいよね、ここのクレープ」
……何だか意外な共通点が。私も七波君も、クレープの日に勇気もらってたんだ。
「あ、ちなみに俺のフルネームは七波丘っていうんだけど、九宮さんは?」
「えっと、私は九宮球弓。漢字で書くとね」
私はそう言い、スマホのプロフィール欄を見せた。変わった名前だから、逆に印象に残って覚えてくれるかもしれないし。
「……あははは!!」
「ど、どうしたの?」
「いや、俺の名前って読み方は【きゅう】だろ? 九宮さんのフルネーム、全部【きゅう】って読めるなって思って」
「へ?」
……言われてみると、確かに。九も、宮も、球も、弓も、全部【きゅう】だ。
「何だか九宮さんの中に俺がたくさんいるみたいだね、ははは」
「わ、私の中に七波君がたくさん……」
想像して、思わず顔が真っ赤になってしまった。確かに私は七波君のことが好きだから、頭の中は七波君だらけだけど……かなり恥ずかしいこと言ってる自覚あるのかなあ?
「……その、七波君」
「何?」
「私と……友達になってくれませんか!!」
「もちろん。クレープ仲間欲しかったし、それが九宮さんみたいな可愛い女の子だなんて、ラッキーだな俺って」
「か……可愛い」
私は更に真っ赤になった顔を隠しながら、クレープを食べ続けた。相変わらずクレープは美味しいけど……今はしょっぱくなくて、甘い。というか、いつもより甘い気がする。
まだスタートに過ぎないし、運が味方してくれた面も大きいけど、ほんの少しだけ……勇気を出せた気がする。次はクレープの日以外にも七波君とクレープを食べに行く、かな?
クレープの味は恋の味 ここグラ @kokogura
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