## パート2: 「孤立する冒険者」
冒険者ギルドの建物は、「始まりの街」の中心部に堂々と構えていた。木と石で作られた二階建ての建物で、屋根には冒険者ギルドのシンボルである剣と盾の紋章が掲げられている。
「ここが冒険者の起点か…」
扉を開けると、中は活気に満ちていた。様々な装備を身にまとった冒険者たちが、テーブルを囲んで談笑したり、掲示板の前で次の依頼を探したりしている。壁には世界地図や討伐された魔物の剥製が飾られ、冒険の匂いがする空間だった。
俺は少し緊張しながら、受付カウンターへと向かった。
「こんにちは、冒険者登録をお願いします」
カウンターの向こうには、明るい笑顔の受付嬢が立っていた。NPCだろうか、それともプレイヤーだろうか。エターナルクエストはNPCのAIが非常に高度で、見分けがつきにくいと聞いていた。
「初めての冒険者さんですね。職業は何ですか?」
「…雑草使いです」
一瞬、受付嬢の表情が固まったように見えた。
「あ、はい…珍しい職業ですね。では冒険者カードを発行します」
カードを受け取ると、そこには基本情報が記載されていた。
```
名前:グラスマスター
職業:雑草使い
ランク:F(初心者)
```
「ランクは冒険の実績に応じて上がっていきます。初心者の方は、まずパーティを組んで『新緑の迷宮』に挑戦することをお勧めします」
受付嬢は丁寧に説明してくれた。俺は頷いて、パーティ募集掲示板へと向かった。
掲示板には様々なパーティ募集が貼り出されている。
「初心者ダンジョン『新緑の迷宮』攻略パーティ募集!戦士1、魔術師1、回復職1」
「効率レベリングパーティ、DPS職求む!」
「初心者歓迎!経験者が案内します」
俺は少し考えてから、「初心者歓迎」と書かれた募集に声をかけることにした。
「すみません、パーティに入れてもらえませんか?」
振り返ったのは、赤い鎧を身にまとった戦士と、青いローブの魔術師、そして白い服の聖職者だった。典型的なパーティ構成だ。
「いいよ、職業は?」戦士らしき男性が尋ねた。
「雑草使いです」
三人の表情が一斉に変わった。
「え、雑草使い?それって…何ができるの?」魔術師の女性が困惑した表情で尋ねた。
「雑草の特性を活かして…」
説明を始めようとしたが、戦士が首を振った。
「ごめん、その職業じゃパーティに入れられないわ。戦闘にどう貢献するのか見えないし…」
「回復もできないんでしょ?」聖職者が付け加えた。
「まだ初心者ダンジョンだし、三人でも大丈夫だよ。また今度ね」
そう言って、三人は背を向けた。俺は何も言えず、ただそこに立ち尽くした。
これは予想していたことだ。現実世界でも似たような経験は何度もある。研究発表会で「その雑草研究に何の意味があるの?」と質問されたり、「もっと実用的な研究テーマを選べばいいのに」と言われたり。
周囲からは、好奇と憐れみの入り混じった視線が感じられる。
「あれ、雑草使いだって?」
「そんな職業あったんだ…」
「わざわざ最弱職を選ぶとか、縛りプレイかな?」
「いや、ネタキャラじゃない?」
囁き声が耳に入ってくる。俺は少し肩を落とし、ギルドの隅にある空いたテーブルに座った。
「やっぱり一人で行くしかないか…」
掲示板に戻り、「新緑の迷宮」の情報を確認する。初心者向けのダンジョンで、比較的弱いモンスターが出現するらしい。名前の通り、植物系のモンスターが多いとの記述がある。
「植物系なら…」
俺の中で、研究者としての思考が動き始めた。植物系モンスターなら、その生態や特性を分析できるかもしれない。現実世界での知識が使えるかもしれない。
「一人でも行ける。むしろ、誰にも邪魔されず観察できる」
自分に言い聞かせるように呟きながら、俺は立ち上がった。
「新緑の迷宮」の場所を地図で確認し、準備を整える。他のプレイヤーが派手な武器や防具を購入する中、俺は市場で種子や小さな園芸用具を買い集めた。
「これで準備完了…かな」
ギルドを出る前、最後にもう一度掲示板を見上げた。
「一人でもやってやる」
そう決意を固め、俺は街の門へと向かった。振り返ると、ギルドの窓から何人かのプレイヤーが俺を見ていた。好奇の目もあれば、嘲笑の目もある。だが、その中に一人、少し違う表情で見つめる人がいたような気がした。
気のせいだろうか。
四つ葉のクローバーを胸ポケットに忍ばせる癖は、ゲーム内でも無意識に再現していた。
「雑草なめんな」
そう呟きながら、俺は「新緑の迷宮」へと一歩を踏み出した。
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