復讐代行屋の日常
赤夜燈
ある少女の最期とその後の話
彼女はいずれ天下無双のダンサーになると言われていた、という。
それだけの実力が彼女にはあった。
オレも彼女のダンスの映像を見せてもらった。
伸ばされた手脚は、一分の隙もなく鍛え上げられていた。
一つ一つの動作が、言葉なくともありとあらゆることを語りかけてくるようで、オレは――おそらく、感動というものをしたのだ、きっと。
だから。
「すごく勿体ねえと思うのよ。わかる?」
オレは、その女の顔面を殴りつける。
彼女を虐め殺したそのクソ女が、オレたち――復讐代行屋の今回の仕事の相手。
「ねえねえ。人って死んだらそれきりなんだよ? なんで殺すかなあ。それも、あんなに綺麗な子をさあ。なんで? ねえ。なーんーでー?」
一文節ごとに倒れた女の腹を蹴る。
揃えた髪にバッテンの形につけたヘアピンが視界の端でゆらゆら揺れた。ああくそ、苛々する。
「『
「別にいいじゃんよー『
「注文通りに殺さないと顧客は満足しない。怒るのはわかるけど落ち着け」
「……怒る? オレが? なんで?」
「……自覚がなかったのか」
無花果が溜息をつく。
「お前、美しいものが他人の手で喪われるのが嫌いだろ」
「――あ、確かに」
ぽん、と手を叩く。
思い当たる節はいくつもあった。
オレは、美しいものがいずれ喪われるくらいなら自分の手でぶっ壊したいのだ。
……たとえば、あのひとに知恵の実を勧めたときのように。
「まあ、それはそれだな。ええと、お前」
ぱっ、と思考を切り替える。
目の前のクソ女は、顔面ぐずぐずにして泣いてる。
けれどそんなの知ったこっちゃない。
彼女は、ダンスが上手いからと嫉妬された彼女は、こいつが率いる醜いグループに拉致され、布団でぐるぐる巻きにされて夏の車内に放置された。
なんか少年法? だかなんだかで、こいつの罪は軽かったらしい。親が有力者だったから、便宜を図ったってのもあるらしいけど、
「こ、の、悪魔ぁぁぁ! 死ねぇぇぇ!」
女のそばに寄ると、縄で縛っていたはずなのにいきなり飛びかかってきた。
手にはガラス片。
なるほど、これで縄を切ったのか。
そう思ったときには、オレの首にガラス片が深々と突き刺さる。
「このッ! このッこのッ! 死ね、死んじゃえ悪魔!」
ごぽり、と血の泡が喉から噴き出す。
オレの身体は力なく倒れて、びくびくと痙攣した。
★
「……それで、どうする気だ?」
無花果が静かに訊ねる。
女はかたかたと震えながら叫ぶ。
「あああ、あんたも殺してここを出るわ!」
「そうしたら今度こそ殺人罪だぞ」
「正当防衛よ! あんただって、さっきの白髪ヘアピンだって――あの馬鹿女だって! 私の邪魔をする奴は、みんな死ねばいいのよ! 大丈夫、私がなにをしても、パパが揉み消してくれるんだから!」
「――だそうだ、林檎」
「あんた何言ってんの!? そいつは死んで――え……!? ぎ、ぎゃああああああああ!?」
オレはゆっくり起き上がる。
せっかくの喪服が血で台無しだ。まあ、替えはあるからいいけれども。
「あ、あああああ、悪魔! 人間じゃない! なに、殺したはずなのに! なんなの!?」
「うるせえなあ」
舌打ちして、オレは拳銃を取り出す。
「無花果」
「それくらいは必要だろうな」
暴れるクソ女の足に、オレは拳銃を突きつけて撃った。
悲鳴が上がる。だくだくと出血する。
そいつを、俺たちは人が一人ちょうど入るくらいのコンテナに詰める。
「言っとくけど、助けは来ない。オマエはこれからここで、ひとりぼっちで死ぬ。嬉しいかぁ? そうだよなぁ、怖いよなあ。オレたち、復讐代行屋だからさあ。怖い思いをして、死んでくれ」
「……ぁ、ぐ、ま……! あくま! 悪魔ぁぁ! 助けて、たすっ、けてぇぇ! 助けなさいよぉぉ!」
クソ女はそう叫んでいて、オレは思わず笑ってしまう。
だって、それはただの事実だからだ。
満面の笑顔で告げた。
「嫌だね。オレ、オマエの言ってる通り悪魔だからさ。――サタンってやつ。んじゃ、ばいばい」
「待っ……!」
「待ちませーん」
オレはコンテナの蓋を、音を立てて閉めた。
「……林檎」
「なに? 無花果」
「被害者にあんまり入れ込みすぎるな。次行くぞ」
「へいへい」
仕事を終えたオレはいつもの通り部屋に帰る。
替えの喪服を脱いで、ダメになった喪服をゴミ袋に詰める。
シャワーを済ませて布団に潜る。
この世界ではいいやつから死んでいく。
わかっている。
オレたちは追放された天国に戻りたくて復讐代行業をやっている。
いつか、悪人を殺しまくって天国に戻れたら。
彼女に会えたりするのかな、なんて思った。
了
復讐代行屋の日常 赤夜燈 @HomuraKokoro
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