第三章 りんの来店
そこから数日は、キャンディの話はおばあちゃんとは話さなかった。おばあちゃんは触れられたくない、そう思っているようだったから。今日は少しおばあちゃんの顔色も悪い。
いつものようにおばあちゃんと一緒に店番をしていると、制服を着た女の子が一人入ってきた。りんだ。なぜここにいるの? ここが唯一の休める場所だと思ったのに。お母さんが私の居場所を教えたの? りんはこちらを少しみて、俯いた。おばあちゃんが「いらっしゃい」と声をかける。その声を聞いてもりんはその場から動かず俯いたままだ。私はだんだんイライラしてきて、思わず叫んだ。
「なんできたの!? 私を馬鹿にしにここまで来たの!?」
りんはようやく顔をあげた。
「違う! 私……謝りたくて」
りんは私を避けたことを反省し始めたのだろうか。私は到底謝罪を受け入れられる心情じゃなかった。今は話を聞きたくない。だが私の気持ちを無視するかのように、おばあちゃんは「ここじゃ他のお客さんもくるから、中に入りなさい」と言った。おばあちゃんが私の部屋を案内する。
「お茶を持ってくるよ。二人で話し合いなさい」
椅子に腰掛けて、顎でりんに座るように促した。二人に沈黙が流れる。耐えられなくなって、私はつい吐き捨てるように言う。
「……何を謝るつもり?」
りんは唇を噛んだまま、拳をぎゅっと握る。
「……全部」
「全部って何? なんのこといってるの? 私を避けたこと? いじめを見てみぬふりをしたこと?」
りんの肩が小さく震えた。ばっと顔をあげて私をみる。
「それもあるけど!」
一息おいて、りんは何か決心したかのように話し出す。
「……あかりがいじめられたの、私のせいなの! 本当にごめんなさい!」
私は理解できなかった。どうゆうこと? そこから彼女はその理由をゆっくりと話し始めた。
「あかりと一緒にお揃いの服を買おう、って約束したことあったでしょ? 私その時本当に楽しみにしてたの。でも、あかりがやっぱり服を買えないって言われた時、すごく悲しかった。もちろん、あかりの家庭の事情があって、その時服を買えなかったのもわかってる。でも、そのことをめいちゃんについ愚痴っちゃったの。『あかり、一緒の服買おうって約束したのに、約束守ってくれなかった』って。そしたらめいちゃんが、『服も買えないぐらいあかりちゃんお金ないの? かわいそうだね〜』って。私そんなつもりなかったの! それは本当よ! ただ一緒に服を買いたかっただけで! でも、その話がめいちゃんからどんどん広がっていっちゃって……。……私、罪悪感で、あかりのこと避けてた。そんなことしたら余計にあかりが傷つくってわかってるのに。本当にごめんなさい。謝って済むことじゃないのはわかってるけど、ごめんなさい!」
勢いよくりんが頭を下げた。……そうだったんだ。りんは心のそこから反省しているように見えた。
「わかった。そうゆうことだったんだね。話してくれてありがとう」
まだりんのやったことは許せないけど、りんもきっと今日まで悩んできたんだ。それに、りんはここまでやってきて、誠心誠意謝ってくれた。
「時間はかかるかもしれないけど、わたしが働けるようになったら自分のお金で服を買う。その時、りんとショッピングして、同じ服を買いたいな」
りんは目から涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとう。楽しみにしてる」りんは泣きながら笑っていて、顔がくちゃくちゃになっていた。
おばあちゃんがお茶を届けに部屋に入ってきた。
「仲直りできたようだね。あかり、店のことは気にしなくていいから、今日は二人で遊びなさい」
「ありがとう、おばあちゃん。そうするよ」
おばあちゃんはお茶と、いくつかのお菓子と、キャンディを2つ持ってきてくれた。
「りん、このキャンディは駄菓子屋で一番人気なんだよ。なんたっておばあちゃん手作りだからね。食べてみてよ」
二人でキャンディを食べる。
「甘い。それに優しい味がする。今日食べたキャンディ、一生忘れないかも」私は思わず笑みがこぼれる。
「仲直りの後のキャンディは格別のおいしさだね!」
その後たわいのない話をして、りんは予定があるといって帰って行った。りんと仲直りできて良かった。
それにしても、キャンディに特別な力がなくたって、私たちはまたやり直すことができた。記憶を渡すキャンディは、本当に必要なのだろうか。
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