おばあちゃんのキャンディ
つばさ
第一章 駄菓子屋へ
おばあちゃんに、会いに行く。私はもう限界だった。
電車で1時間半、バスで15分の場所におばあちゃんの駄菓子屋がある。荷物が重い。キャリーケースなんてないから、大きなバックに全て詰め込んだ。電車はだんだんと緑が増えてきて、のどかな風景が広がっていた。
玄関でもらったお母さんの手紙を開く。
「あかりへ。本当にごめんなさいね。もっとおかあさんがしっかりしていればよかったのに。おばあちゃんのところでしっかり休みなさい。帰ることは考えなくていいからね。学校は引っ越したっていいから。あかり。大好きだよ。おかあさんより」
すぐに手紙を閉じた。今は何も考えたくなかった。
最初は小さなことから始まった。クラスメイトの一人から、「あかりちゃん、シングルマザーなんだ。大変だね」と言われた。やけに馬鹿にした言い方だった。そこから聞こえるように陰口を言われ、クラスメイトから無視された。りんちゃんも私を避けるようになった。
お母さんには相談できなかった。昔、お母さんに「りんちゃんとお揃いの服を買いたい」と言ったら、「そんな高い服買う余裕ないわよ! 私だってオシャレしていい服着たいわ!」と叫んだ後、「ごめんなさい、ごめんね。買っていいわよ。買ってきなさい」そう言って泣き崩れた。お母さんには度々こういったことがあった。
極め付けは、お母さんに作ってもらった手編みのマフラーをボロボロにされたことだった。家に帰って、お母さんに「マフラーボロボロになっちゃった。ごめんね」と言った。怒られるかと思ったけれど、お母さんは呆然とし、「ごめんね。お母さん何も気づかなかった。あかり、辛いことがあったの? もしかして……いじめられてるの?」と言った。私は問いに答えず、ただ「おばあちゃんのところに行きたい」とだけ答えた。私はもう耐えられなかった。おかあさんはその後も壊れたかのように、ごめんね、ごめんねとこぼすだけだった。
気がつくとアナウンスが鳴っている。いつの間にか駅に到着しそうだ。私は急いで電車をおりる。左右を見渡してバス停を探す。あった。時刻表をみたら、1時間に1本しかないようだ。しかし、バスはすぐやってきた。運がいい。一番後ろの席に座る。おばあちゃんの駄菓子屋まで後少しだ。
おばあちゃんの駄菓子屋には昔何度も通った。市販の駄菓子がいっぱいある。でも、一番の人気はおばあちゃんの作る手作りキャンディーだった。おばあちゃんの作るキャンディは、優しいりんごの味がする。おばあちゃんは別れ際に、「辛いことがあったらいつでもきなさい」と言ってキャンディーをくれる。お母さんと帰り道に食べるキャンディーが大好きだった。
先日おばあちゃんに電話した。
「もしもし、おばあちゃん? 急で申し訳ないんだけど、おばあちゃんのところにしばらく住みたいの」
「もちろんいいよ。でも最近おばあちゃん具合が悪くてね、それでもいいかい?」
「え? おばあちゃん大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。あかりが駄菓子屋の店番を手伝ってくれると、おばあちゃんも嬉しい」
「それはもちろん、おばあちゃんの手伝いはするけど。私迷惑になるかな?」
「気にせんでええよ。気をつけていらっしゃい」
無理を言って、今おばあちゃんの元へ向かっているのだ。せめて、おばあちゃんの力になりたい。
バスを降りたら、おばあちゃんが待っていてくれた。「お疲れ様、よく来たね」
わたしはどっと緊張感が解けた。ようやく休める。そう思った。
おばあちゃんの駄菓子屋はいろんな年齢層の人が来る。夕方学校帰りの子供はもちろんのこと、朝は地域のおじいちゃんおばあちゃんもキャンディを買いにくるし、昼はママたちの憩いの場になっている。おばあちゃんが地域の人に愛されている証拠だ。私は少し誇らしい気持ちになる。
おばあちゃんと店番していると、お店のお客さんはみんなおばあちゃんに話しかける。今日は婆さんの機嫌が悪いだとか、夫が不倫してるかもしれないだとか、おばあちゃんはどうやら地域の相談役も担っているようだった。
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