第2話 Pー2

「うへぇ~」


 入り口から部屋の中をこっそり覗いてみたら小型犬くらいの大きさのネズミがいた。一角のネズミが五匹、部屋の中を動き回っている。エサでも探しているのだろうか?

 棚には何かの液体が入った瓶が何本か置かれているだけで他には机も椅子もない部屋だ。ここはスルーしておこう。

 部屋の前をこっそりと移動する。


「キュキュ?」


 ネズミの一匹がこちらを見ている。


「キュ」

「キュキュッ」


 二匹目、三匹目と動きを止め僕の方に視線を向けてくる。

 あ、ヤバイ。完全に見つかっているわ。


「ふわっ」


 ネズミの一匹が突進してきた。目で追える、避けられない速度ではない。

 避けたネズミはそのまま角が壁に突き刺さりバタバタしている。


「うわぁ、可哀そう……」


 突き刺さったネズミを見ていたら視界を黒いものが横切った。

 しまった、他にもネズミは居たのにそっちに気を回していなかった。


「つ――」


 右手、薬指と小指、その周辺を持っていかれた。

 二匹目もそのまま壁に突き刺さる。

 痛いけど、もう油断は出来ない。二匹は動けなくなっているので残り三匹。

 その三匹もこっちに飛び込んでいた。

 一匹は避けたが、左耳、右肩をやられた。

 そして壁は四匹の突撃に耐えられず崩れた。

 四匹が瓦礫の中に埋まる。

 右肩に突き刺さった一匹だけがそのまま爪や牙で攻撃を続けている。

 あ~これはダメかな。頭がクラクラして意識が飛びそうだ。

 血を流しすぎたかな、それとも毒とか……

 このままでは死――

 瞼が重くなり、体からも力が抜け立っていられなくなる。そのまま地面に倒れそうとした瞬間、体の奥から熱を感じた。

 急に頭がすっきりしたような感覚。体中に力がみなぎって来る。

 今なら何でも出来そうな万能感。目を開き、肩に突き刺さりいまだに暴れるネズミを見た。


「ぃってーんだよ!」


 左手でネズミの体を掴み、右肩から引き抜く。 

 そのままネズミを地面に押さえつけ、近くに落ちていた瓦礫の一つを掴んで角を叩き折った。

 ネズミはバタバタと動いているが片手で動きを抑えられている。


「お前も味わえ」


 折った角を拾ってネズミの眉間に突き刺した。


「これで少しはこっちの痛みが分かったか」


 ネズミが動かなくなる。その間に崩れた瓦礫の山から物音がした。

 瓦礫の中から顔を出したネズミが二匹。すぐに折れた角を使ってこの二匹も処理した。

 後の二匹は生きているだろうか?

 このよくわからない万能感が続いている内に残りもヤッておきたい。

 瓦礫を上からどけていく。すると潰され動かなくなった二匹を目視で確認できた。


「全部倒せたみたいだね」


 武器に使えそうなので五匹の角を折って袋に入れる。それと崩れた瓦礫の中に光る石もあったので、この先暗い場所もあるかもしれないのでこれも袋に入れておく。


「それにしてもさっきの力は何だったんだろうか」


 まだ体にパワーアップした感覚は残っている。だけど今は徐々にその効力が弱っている気がする。


「ま、原因として考えられるのはこのペンダントだよね……」


 外せなくなったペンダントを見る。


「ピンチになったら一定時間パワーをくれるアイテムだったのかな? それとも血をあげれば発動するタイプ?」


 ペンダントにはベットリと僕の血がついている。これが能力発動のカギだったのかしら?


「ペンダントの使用方法がわかればピンチになる前にパワーアップして戦えるかもしれないのに。えい、ほら、反応しろ。なんかなれ~」


 ペンダントを掴んで振ってみる。しかし何も起きなかった。


「うん、わからん……あれ、そういえば傷が……?」


 振りながら右手に視線が動く。無くなった指が戻ったわけではないが、血は止まっている。指だけでなく肩や耳も血は流れていないし、痛みもない。

 それに血が流れすぎて意識を失う寸前だった気がするのに、今では普通に動けている。


「もしかして治癒能力もあったりする?」


 血が止まっているだけでなくもう皮膚が出来て傷を隠している。さすがになくなった部位を生やすまでは出来ないみたいだけど、それでも皮膚が出来ているだけでも人間離れしている。時計がないから感覚になるけど攻撃されてからまだ十分も経ってないよね?


「煙を出したり、強化に治癒能力か。もしかして外せないのも防犯対策だったり? 強力すぎるマジックアイテムだから戦闘中に落としたり盗まれないためにとか」


 ペンダントの事を考えながら探索再開。ネズミが壊した壁の向こうは最初に見た二つの入り口の一つに繋がっていた。その部屋にはモンスターも家具もなにもない空間だった。そして別の廊下に繋がる道がある。

 むこうの通路はあとでいいか。先にこっちの通路の先を様子見しようか。案外道が繋がっているなんて可能性もあるし。


「通路の先は昇りの階段と長い廊下。さっきの部屋は階段側だから部屋の先の廊下と選択肢は三つか……」


 さて、どこから探索するのが正解なのだろうか?


「まずはこの階を調べるか。ダンジョンには階層があって、深い階層に行くほど敵が強くなるっていうし」


 ここがダンジョンのどのくらいの階層で上が深い階層なのかわかんないけど。そもそも階段で上り下りしてもダンジョンの階層的には同じ階層なんて事もあるかも。

 探索者として覚醒しなければダンジョンの細かい知識なんて得たところで使い道ないからそんなに調べてないんだよね。友達から聞いた話やテレビで言っていた程度の知識しかない。

 こんな事になるんならもっとダンジョンや冒険者に関する情報を集めておけばよかったな……

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