第4話

キッチンへ行き、皿を洗って乾かし、テーブルのところでもタオルで拭き、自分のことを済ませる。


完璧な片付けに親達は固まったまま、呼び止めることも出来ずに見送ることしか出来ない。

こうして、大人のリンカは愉悦とざまあに生きていた。



数日後、またナオキに道を塞がれていた。

ため息を吐いて、剣道の道具を背負う男を見上げる。


「またなの?」


「何度も来るぞ。おれはしつこい男だからな」


ナオキは楽しそうに笑い、私をからかう。


「今すぐは無理だろうだが、傍にいずれ来い」


「私は今世は普通に生きたい」


要望を述べていると、男は頷く。


「今の家族が邪魔で、恐らくこの地域からも離れることになる」


「それも予定に組み込んでおく」


そりゃ、過去凄い体験をしていた彼にとっては私の今に比べたら割と普通の域だ。


彼の生い立ちや、苦労話は有名だった。

仲間内じゃね。


「ナオキ、私はね、もう普通に暮らしたいの。放っておいて。そもそもこの現代では私たちのスキル、何か有用?どこらへん?」


「いや、おれが立ち上げる」


「立ち上げる?なにを?」


「コウメイ研究所。おれの思想によって立ち上げられた団体」


「ふうん」


「興味なさげだな。調べたところ、家族仲は悪そうだ」


「うちは赤の他人しかいない。ギスギスしてて、それを切り込むのを楽しみに生きてるって感じ」


「お前にしては手緩いな」


「しょうがないよ。じゃあ、なに?貴方が報復してくれるの?ん?」


「やってやってもいい。お前がこっちにきてくれるんならな?」


「バカ言わないで。私だけでもケリが付けられるんだから、貴方に頼まなくとも好きに三人をどうとでも出来る。それなのに有料で頼むのはやらない」


ナオキを睨みつけて、彼の横を通る。

もう話は終わったもん。

彼は私を通せんぼしなかった。


「待ってる。ずっと」


お熱いお誘いだ事。

冒険者時代を深く思い出す。


「待ってなくていい。待ってなくていいよ。待たれたくない」


彼に言うでもなく、私は独り言を呟く。


家に帰るとまた母は妹と遊んでいた。


「ただいま」


遂にお帰りさえ言わなくなった。

ため息をこれみよがしに吐いてやる。

これもばっちりスマホで撮影されているので、母親が娘を無視している動画がハッキリくっきり、写っているのだろう。


(どうしてそうも頭が悪いの)


私は呆れる目を相手に向ける。


びくりと肩を揺らす彼女はまた、妹を抱っこしようとする。


「ねえ、数日前のことも忘れたの?」


「!──そ、そう、ね」


妹を盾にするなという注意を思い出したらしい。

子供はお守りじゃないんだよ。


「わかってるんなら二度とするな」


睨みつけると、冒険者時の威圧が出てくるのか、めっためたに怯える。

私は別に怯えられるのは構わない。

だってもう私たちは家族じゃない。

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