Footage2「ブルジョワジー・ウェルダン」
『マイグラント、次のミッションです。
目標は、世界樹土着の亜人種集団……「アースガルズ」の集落の焼却です。
彼らは手製の武器や木製の家屋を中心に、狩猟農耕で生活しています。彼らの殲滅に適した装備を支給しますので、確実な遂行をお願いします。
では、準備が整ったら出発しましょう』
世界樹・樹海浅部
輸送用の一方通行ドローンから放り出され、葉と枝の合間を抜けて着地する。相変わらずしけった地面にぐしゃりとついた四肢がめり込み、間もなく立ち上がる。
『前回と同様に、目的地を表示しています』
フィリアの声を聞きながら、今回の武装を確認する。両手にはナパーム弾が装填された銃器型ハンドグレネード投射装置を持ち、両肩にはそれぞれ二連グレネードキャノンが配されていた。
『浅部にある集落は守りが非常に手薄であり、あなたの戦闘能力ならば造作もないことでしょう』
武装の確認を終え、地面を蹴って進み始める。
『今回の目標である、アースガルズ……彼らは、電子化され、世界樹と融合した生物たちの末裔であり、世界樹を神聖なものとして、不可侵な禁域として扱おうとする勢力です。対して前回のガイア製薬は、電子化以前の生活水準を保とうと、世界樹の持つ資源コントロール能力の奪取を目的に侵攻する勢力です』
ひたすらに進み続けていると、目的地の直前で人影を発見して身を隠し、ナパーム投射装置を腰に提げる。
物陰から見ると、ハンティングベストに厚手の長袖、長ズボン、そして尻から垂れ下がった毛深い尻尾と、明らかに犬とわかる頭部をした獣人が立っていた。
「ふわぁ〜ッ、ねみぃな……」
獣人が欠伸をする。
『マイグラント、あれがアースガルズの末端構成員です。毛深い種の獣人の毛は多量の油分が含まれていることが多く、一度着火すれば全身の燃料を使い果たすまで焼き続けることが出来ます。……音の関係上、ここでは控えるべきですが』
物陰から飛び出し、獣人の後頭部に渾身の拳を叩き込む。あまりの膂力に悲鳴すら上げずに骨が陥没し、確認するまでもなく獣人は即死する。
その死体を飛び越えて進み、間もなく森を抜けて開けた場所に到達する。事前のブリーフィングの通り、木造の建造物群に加え、原始的な生活を送る獣人たちの姿があった。
『戦闘能力のない者も多いため、討ち漏らしの無いようにお願いします。万が一逃げおおせた者がいた場合は、私の方で独自に処理しておきます』
頷きで返し、投射装置を両手に持って右手のものを最も近い木造建造物に向け、やや上に発射する。空中で砲弾が弾け、大量の火種を降り注がせる。
「な、なんだ!?」
「ガイア製薬か!」
「やつら火まで使い始めたのか……!」
口々に叫びながら、作業や談笑に現を抜かしていた獣人たちはパニックに陥る。こちらは右手でリロードしながら左手で発射し、遠くへ投射することで建造物の合間を炎上させ、次々と撃ち込んで陸路を潰していく。
「あいつだ!」
「俺達がこいつを相手する!その間に戦えないやつらを……」
おそらく警備を担っていただろう体格のいい獣人たちが斧や槍を手に立ちふさがり、こちらは飛び上がりながら右肩のグレネードキャノンを発射し、地表に激突させて爆発させ、数人を消し炭にしながら爆風で残りも吹き飛ばす。
「く……くそ、ガイアの連中がこんな小さな拠点にこの火力で詰めてくるわけがない……!」
「ああ……最悪だ……!」
獣人たちは武器を放棄して逃げ出し、これ幸いとナパーム弾を逃げ惑う獣人たちに直接狙いを定めて撃ち込んでいき、グレネードキャノンで建造物を狙って着弾させ、倒壊した瓦礫と爆風で殺傷していく。瞬く間に彼らは全滅し、燃え盛る中で地面に着地する。
『非戦闘員含め、アースガルズの構成員の殲滅を確認……待ってください、こちらに高速で接近する反応が……!』
火の粉舞う視界の向こう、青空の彼方から何かが飛翔してくる。人体を優に超える大鷲から飛び降りてきたそれは、眼前でブレーキをかけて姿を見せる。
先程虐殺した獣人たちとは比べ物にならないほど上質な、金属製の鎧に身を包んだ狼の獣人が、背から槍を抜いて構える。
「哨戒中に爆音が聞こえて戻ってみれば……お前、なんてことを……!」
狼の獣人は魔法で作った足場を踏んで高く直上に飛び上がり、槍を向けて急降下してくる。飛び退いて躱すと、着地したときの強烈な衝撃で周囲の火炎が振り払われる。その後隙にナパーム弾を二連射すると、槍を回転させることで左右に流され、後方に着弾して炎上させる。
「弾頭の型番はガイアのもの……お前、どこの所属だ」
『答える必要はありません、マイグラント。早急に殺害してください』
「略奪者なら火なんて使わない……」
魔法で加速しながら、小さく飛んで大上段から振り下ろす。右に飛び退いて躱したところで狼の獣人は右手に槍を移しながら向き直って踏み込んで突き出し、身を翻して穂先を踏みつけ、そのまま地面に突き刺させる。
「っ……!」
間髪入れずに蹴り込んで押し飛ばし、重ねてナパーム弾を直撃させて炎上させる。
「ぐああああああっ!?」
鎧の内部で一気に炎が育ち、全身火達磨になってのたうち回る。
『マイグラント、追撃を。殺してください』
言われるまでもなく、両肩のグレネードキャノンを容赦なく撃ち込んで消し飛ばす。
『増援の撃破を確認……周囲に敵影なし。お疲れ様でした、マイグラント』
燃え尽き、生き物だった残骸から、白い蝶たちが世界樹へ飛び立っていく。
『マイグラント、ミッションの円滑な達成、ありがとうございました。
当面の間は、アースガルズとの交戦が主軸になります。
私たちの目的地は世界樹の内部……マイグラント、あなたが何を理由にこの世界に到達していたとしても、世界樹に到達することはその達成に大きく貢献するでしょう。
つまり、ガイア製薬のような侵略勢力に肩入れし、アースガルズを壊滅させる……そのように認識しておいてください。
では、しっかりと休息を取るように』
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