YOSAKOIソーランの夜【KAC20255】
愛田 猛
ダンス 布団 天下無双
いよいよ明日だ。
これから彼の地、札幌へ向かう
俺は洋服ダンスに掛けてあった新品の法被を取り出す。
背中には「天下無双」と書いてある。
法被を羽織ると、俺は仏壇の前の座布団を退け、畳に正座すると、蝋燭に火を灯す。線香に火をつけると、左手で煽って炎を消し、煙の出る線香を立てると鈴の代わりに親父が好きだった鳴子を鳴らす。
仏壇には親父の気難しい顔がある。
「親父、行ってくるよ。一応俺のお袋と呼ぶべき女が居た場所だ。一度は足を運ばないとな。」
俺はそう口に出し、仏壇を片付ける。
これで準備は万端。さあ出発だ。俺は法被と鳴子を鞄にしまい、家を出た。
空港で天下無双組の仲間と合流する。
初対面のメンバーも多い。皆、明るく振舞っている。緊張はない。
これなら大丈夫だな。俺は思う。
飛行機は高知空港を出て、新千歳空港に到着する。
電車で札幌へ向かい、ホテルに到着するともう午後だ。
ホテルには、スクリーン越しに見慣れた顔が並ぶ。天下御免組の連中だ。
揃って「天下御免」の法被を着こんでいる。
「ようこそ札幌へ!」若くて美しい女性が笑顔を向ける。
間違いない。美貴だ。
御免組のリーダー、そして俺たち全体の「天下泰平連」リーダー兼振付師の北野美貴。
俺がわざわざ高知の連を引きつれて札幌まで出向いた理由でもある。
俺たちは、YOSAKOIソーラン祭りに参加するため、わざわざ高知からやってきた。
よさこい祭りを知っている人も多いだろう。曲は♪土佐の高知のはりまや橋で坊さんかんざし買うを見た よさこいよさこいい♪ というアレだ。 このよさこい節に合わせてパレードしながら踊る。手には鳴子を持っている。
日本中から連が集まり、踊りを披露して順位を競う。
俺たち「天下無双」連は上位常連とまではいかないが、それなりの成績を残す連だ。
一方、YOSAKOIソーランというのは、札幌で開かれる。
ソーラン節を曲の中に入れ、鳴子を持つ以外は何でもいい。
もともとよさこいは自由な祭りで、踊りに厳しい決まりは無いし、音楽も自由にアレンジしていいのでロック調なんかもある。 だからソーラン節と組んだり、東京でスーパーよさこいというのがあると、踊る機会が増えたとばかりに、いそいそと出かける奴が多いんだ。
高知県っていうのは極端な場所で、一人当たりのビール消費量とか日照時間とか、日本一とか上位、あるいは最下位とか低位が多いんだ。
そのせいか、極端な連中も多い。
酒飲みが多いのも確かで、昔は「道端の溝に酔っ払いのジジイが落ちている」などと言われたものだ。
女もがさつな酒飲みが…おっと、この辺でやめておこう。
俺たちの連の踊りを動画サイトで見て、天下無双連のリーダーである俺に連絡をくれたのが、美貴だった。
彼女の連はYOSAKOIソーランで高知の連と一緒に踊りたいと、候補を探しているうちに俺たちの連にたどり着いた。
俺たちが「天下無双」彼女たちが「天下御免」という似た名前の連であることも幸いしたのだろう。
俺は彼女の誘いに、すぐOKした。なぜかって?一目ぼれしたからに決まってる。
美貴は北国の女で、色白で細くて美しい。そして高貴な雰囲気だ。
まさに美貴という名前を体現している。
それだけじゃない。踊りに対する熱意も人一倍だ。
今回の合同チームの音楽を決め、振付を決めたのも美貴だ。
俺と美貴は毎晩のようにビデオ通話し、メッセージも交わした。
画面越しの合同練習もした。 ついでにこっちの連の遠方メンバーもビデオ会議練習に混じっていた。凄い時代になったもんだ。
チーム名、そして踊りのテーマを「天下統一」とした。
天下御免組(今回はそれぞれを組と呼ぶことにした)と天下無双組。それぞれが踊りを披露して合戦する。ダンス天国、いやダンス戦国時代だ。
最後は二つの組が和解し、一緒に踊り「天下統一」となってフィニッシュ。
かなりいい感じに仕上がっている。
そして俺と美貴もかなりいい感じだと俺は思っている。
俺が雑談の中で冗談っぽく「美貴は彼氏は作らないのか?」と聞くと、 「そろそろ欲しいかな。」などと言う。
ネット越しにうるんだ瞳で見つめてくる。 これはかなり脈ありだろう。
だからこそ俺は張り切り、連の連中を説得して金曜日の朝から出発したのだ。
仕事? 人生がかかってるんだ。クビでなければどうということはない。。
全体練習。うん。素晴らしい。天下御免組と天下無双組の息がぴったり。つまり美貴と俺の息もぴったりだ。
練習が終わり、ホテルに引き上げた俺は、組の副長であるタカシに言う。
「俺、この祭りが終わったら美貴に告白するんだ。」
「シュウ、それは明らかに死亡フラグだ。やめとけ。」
「いや大丈夫だ。それに、これは親父のリベンジなんだよ。」
「何だかわからないが、まあ頑張れ。」タカシも言ってくれた。
俺の親父は高知生まれ高知育ちだが、たまたま旅行に行った北海道で色白の美人女性と恋に落ち、猛アピールで結婚し、北海道で暮らす。すぐに俺が生まれた。
だから俺は北海道生まれだ。だが北海道の記憶も、母の記憶もない。
親父がある日帰宅すると、放置されて布団の上で泣く赤子(つまり俺だ)と、書置きがあった。
「好きな人ができたので離婚してください。修二をよろしく。」
記名捺印した離婚届が添えてあったらしい。
いろいろあったらしいが、結局離婚が成立し、親父は俺を連れて高知に帰った。
俺は親父とじいちゃんばあちゃんや近所の人たちに育てられた。
だが、俺の家族はもういない。親父も去年のある朝、布団の上で冷たくなっていた。
俺が美貴を口説くのは、親父のリベンジでもあるのだ。
祭りが始まった。
二日間、踊りまくった。
惚れた女と息を合わせて踊る。こんな楽しいことがあるか。
俺たちは天下無双の法被で、美貴たちは天下御免の法被で踊りまくる。
美貴はかんざしや指輪をたくさん付けて踊っていた。
途中の休憩で美貴に声をかけると、彼女は汗をぬぐいながら、俺のことをうるんだ瞳で見つめてくれる。
大した言葉は交わさなくても、思いは通じる。そう感じた。
表彰式を迎えた。
俺たちの連はかなりいい踊りができた。チームワークがぴったりで、振付も独創的たった。
結局上位入賞はできなかったが、スポンサーからの特別賞をもらうことができた。
祭りが終わり、急いで高知に帰るやつらもいたが、俺を含め打ち上げに参加する高知のメンバーも多かった。
酒飲みの土佐っ子だ。宴会と聞いたら帰れない。
宴の終わり、皆酔っぱらっている。
そこで天下無双組の俺が挨拶する。
一通りの挨拶のあと、俺は叫ぶ「美貴さ~ん、好きです。付き合ってくださ~い」
場がどっと涌く。
その後、美貴の番になった。
挨拶のあと、美貴は大声でいう。
「修二さあん、告白ありがと~~~~~~~」
おお!彼女もそう言ってくれた。
そう思った直度がった。
「でも、無~理~~~~~~~~」
場が大笑いになった。
俺はがっくりした。
な…なんで…。
「今日、天下御免のヒロシくんと婚約しました~~~~」
そう言って彼女は指輪を見せた。
沢山つけていた指輪のうち、一つは婚約指輪だったようだ。
美貴の横にヒロシという連の副長が照れくさそうに立つ。
何だか似合いのカップルに見えるのが腹立たしい。
「おお、おめでとう!お幸せに…」
俺は、声を震わせながらもなんとか祝福の言葉を絞り出した。
これで親子二代揃って、道産子女子に玉砕だ。
「残念だったな。フラグ立てなきゃよかったのに。」天下無双の副長のタカシが俺を慰める。
そこへ美貴がやってきて、うるうるとした目で俺を見つめながら言う。
「コンタクトしないと、よく見えないのよ…ちゃんと目を見て謝らないとね、修二さん、
ごめん。」
俺の天下、夢想に終わった夜だった。
YOSAKOIソーランの夜【KAC20255】 愛田 猛 @takaida1
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