後日談:星の灯がともるとき
1.光の季節
長い冬が終わり、大地に春が戻ってきた。
闇の王が滅び、世界は平穏を取り戻した。星の王国の跡地もまた、次第に命の気配を取り戻しつつある。焦土と化していた大地には草が芽吹き、小さな花が風に揺れている。空を見上げれば、かつて闇に覆われていた星々が再び美しい輝きを放っていた。
その中心に、一つの新しい村が築かれつつあった。星の王国の記憶を未来へと繋げるための村――その名も「セレスタリア」。星のように清らかで、そして希望を宿す場所として名付けられた。
エリオスとリナは、その再生の地に暮らしていた。
エリオスは、村の広場に立ち、鍛冶の手伝いをしていた。剣ではなく、鋤を鍛える日々。誰かを傷つけるためではなく、誰かを守る力を形にする日々だった。
「おーい、エリオス! 昼飯できたぞ!」
リナが、台所から元気な声をあげる。彼女は今や村の食堂の中心で、毎日多くの人々に温かな食事を振る舞っている。
「今行く! ……あ、レバニラはあるか?」
「あるわよ、特別サービス!」
二人は笑い合いながら、穏やかな時間を楽しんでいた。
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2.訪問者たち
ある日、セレスタリアの村に客が訪れた。
訪問者はかつて旅の中で出会った仲間たちだった。風を操る魔導士カイ、炎の剣士レグナ、そして静かなる弓手エレナ。彼らはそれぞれの地に戻り、世界の復興を手伝っていたが、エリオスの元を訪れるため再び集まってきたのだった。
「まさかお前が、こんな静かな村で鍛冶やってるとはな」
レグナは笑いながら言った。
「平和を手にしたからこそできる仕事だよ。お前も、剣を置いてみたらどうだ?」
「性に合わんよ。でも、また一緒に戦える日が来たら、その時は呼んでくれ」
仲間たちと焚き火を囲みながら、かつての旅の話に花が咲く。笑い声、懐かしさ、そしてそれぞれの新しい未来。
「それにしても、星の欠片……結局、あれはなんだったのかしら?」
エレナがふと呟いた。
エリオスは、自分の胸元を見下ろした。そこには、今もなお星の欠片が輝いている。それは、以前よりも穏やかに、優しく脈動する光だ。
「欠片は、ただの力じゃなかった。あれは、意志だ。希望を灯し、次の誰かに受け継がれていくもの。だから今は、力として使うんじゃなくて、未来を繋ぐ道しるべとして、この地に残しておくつもりだ」
その言葉に、皆が静かに頷いた。
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3.失われた真実
ある晩、リナが村の外れにある小さな丘にエリオスを誘った。そこには一つの石碑が建てられている。
「これ、あなたのお父さんの名前を刻んだの。誰にも忘れられないように」
エリオスは、目を細めた。父――アルディスは、星の王国が滅びる前に最後まで戦い抜き、エリオスを生かすために命を落とした英雄だった。
「俺、ずっと父さんに追いつこうとしてた。でも、今は少しだけ……近づけた気がする」
リナは優しく微笑み、エリオスの手を取る。
「もう、あなたはあなたの道を歩いてるわ。星の王国の王子でも、英雄でもない、エリオスとして」
星空の下、二人は手を取り合って立っていた。
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4.新しい命、新しい星
それから数ヶ月後、セレスタリアにさらなる祝福が訪れた。
リナが、一人の赤ん坊を産んだのだ。エリオスとの間に生まれた、星のように澄んだ瞳を持つ小さな命。
「名前、決めた?」
リナが問いかけると、エリオスは星空を見上げて言った。
「……『ルミナ』。光という意味だ。俺たちが守った世界の光、そしてこれからを照らす希望の名」
その夜、空には新しい星が輝いたと村の者たちは語る。小さく、しかし確かに光るその星は、まるでルミナの誕生を祝っているかのようだった。
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5.そして、また旅へ
平穏な日々は続いていた。だがエリオスの心の奥には、再び外の世界へと向かう思いが芽生え始めていた。
「また……旅に出るつもり?」
リナが問いかけると、エリオスは頷いた。
「この世界の全てを見たいんだ。星の欠片が、まだ何かを伝えようとしている。今度の旅は、ルミナに世界を見せるための旅でもある。きっと、今度は違った景色が見られる」
リナは笑った。
「じゃあ、三人で行こうよ。今度は、家族みんなで」
そして朝焼けの中、エリオスは再び旅の支度を始める。
かつては不安でしかなかった世界が、今は希望に満ちている。
星の光が照らす先に、きっと新たな物語が待っているだろう。
あとがきにかえて
星の欠片がもたらした運命の旅は終わりを迎えた。だが、それは一つの始まりでもある。
英雄エリオスとその仲間たちが残した物語は、世界のどこかで語り継がれている。そしていつかまた、星の光に導かれる誰かが、旅立つ日が来るのだろう。
その時、彼らの歩んだ軌跡が、新しい星を灯すだろう――。
(後日談 終)
星を渡る者 獬豸 @goukun_gouchan
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