第8章:賢者の塔

 ラズナの街を後にし、エリオスとリナは南へと向かった。道中、広大な草原を越え、小さな村をいくつか通り抜けながら、二日後には目的地の《賢者の塔》にたどり着いた。


 賢者の塔は、巨大な白い塔だった。塔の周囲には石畳の広場が広がり、魔法使いや学者らしき人々が行き交っている。


 「すごい……こんな場所があるなんて」


 「でしょ? でも、ここの学者たちはプライドが高いからね。うまく聞き出さないと相手にされないかもよ?」


 リナはニヤリと笑いながら言った。


 「なるほど……慎重にいかないとな」


 二人は塔の入口へと進み、中へ入った。


 塔の内部は書物の匂いが漂い、無数の本棚が並んでいる。あちこちで学者たちが書物をめくり、研究に没頭していた。


 その中でも、一人の老人がひときわ目立っていた。長い白髪と髭を持ち、深い青のローブをまとっている。その周りには弟子らしき者たちが集まっていた。


 「あの人……もしかして?」


 エリオスがリナに問いかけると、彼女は頷いた。


 「ああ、多分あれが《知識の賢者》と呼ばれるザハールって人だよ」


 「ザハール……」


 エリオスは意を決し、彼のもとへと歩み寄った。


 「すみません、賢者ザハール様ですか?」


 老人はゆっくりと顔を上げ、エリオスを見つめた。その瞳は、まるでエリオスの内側を見透かすようだった。


 「……お前は」


 ザハールはじっとエリオスを見つめた後、静かに言葉を紡いだ。


 「星の欠片を持つ者か」


 エリオスは驚いた。


 「どうして、それを……?」


 「私にはわかる。お前の中に流れる星の力が……」


 ザハールは椅子から立ち上がると、ゆっくりと手を伸ばした。その手がエリオスの胸元の星の欠片に触れた瞬間――


 ビリッ――!


 強烈な閃光が走り、塔の中に風が吹き荒れた。書物が舞い、学者たちが驚きの声を上げる。


 「な、なんだ!?」


 エリオスは驚きながらも、星の欠片の光に包まれていた。その中で、彼は何かの幻を見る。


 ――暗闇に沈む王国。崩れ落ちる塔。人々の悲鳴。そして、一人の青年が光を掲げる姿――


 「これは……?」


 エリオスが呆然とする中、ザハールが低くつぶやいた。


 「やはり、お前こそが……星を渡る者……」


 ザハールの言葉が響く中、エリオスの中で新たな使命が目覚め始める。

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