第2章:旅立ちの夜
エリオスは村の外れに立ち、背負い袋の紐をぎゅっと握りしめた。夜風が吹き抜け、草の葉がそよぐ音が静寂の中に響いている。彼の胸元には、星の欠片が淡く光を放っていた。
「いよいよ旅立つのか」
ふと背後から声がした。振り向くと、長老が杖をつきながら立っていた。その表情にはどこか寂しさが滲んでいる。
「ええ。でも、正直なところ、まだ何をすればいいのかわかりません」
エリオスは正直に胸の内を明かした。星の欠片が導くままに旅をする、それはわかるが、どこへ向かえばいいのかも、何を探せばいいのかも、まるで霧の中にいるようだった。
長老はゆっくりとうなずき、懐から小さな巻物を取り出した。
「お前の父親が残したものだ。彼はこの村に伝わる古い言い伝えを研究していた。そして、その中には星の欠片に関する記述もあった」
エリオスは驚きながら巻物を受け取った。慎重に広げると、そこには古代の文字が並んでいた。しかし、その中にひとつだけ見覚えのある言葉があった。
《光失いし王国は、星の導きを待つ》
「これは……星の王国のことですか?」
「おそらくな。お前が向かうべき場所はそこなのかもしれん」
エリオスは巻物を慎重にしまい、深く頷いた。父の遺した言葉、そして星の欠片の導き……すべてがひとつの道へと繋がっているように思えた。
「長老、僕は行きます。星の王国の真実を探しに」
「そうか……ならば、これを持っていけ」
長老は腰の袋から小さな青い石を取り出した。それはまるで星の光を閉じ込めたかのように輝いていた。
「これは?」
「星の護石だ。村に伝わるお守りのようなものだが、お前が旅をする上で何かの助けになるかもしれん」
エリオスは両手で慎重に受け取った。胸元の星の欠片と呼応するように、青い石が淡く光を灯した。
「ありがとう、長老。必ず無事に帰ります」
エリオスは一礼すると、振り返って歩き出した。背後で長老がそっとつぶやくのが聞こえた。
「星の導きが、お前を守らんことを……」
村の外れを越え、夜の森へと足を踏み入れる。これまで出たことのない村の外の世界。エリオスの胸は高鳴っていた。だが、彼はまだ知らなかった。この旅が、彼の運命を大きく変えるものになることを――。
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