【短編/1話完結】お題に悩むと現れる友人【KAC20255】

茉莉多 真遊人

本編

「今回のお題は『天下無双』、『ダンス』、『布団』だってさ」


 俺はスマホを片手に隣に座る友人に愚痴をこぼすように話しかける。友人は特に一言も発さずにただただニコニコとこちらの話をじっくり聞く姿勢で俺の言葉を待っているようだった。


「でも、皆勤賞欲しいしなあ……ああ、どうしようかな。ダンスをする天下無双の布団ってのはどうかな? それか、天下無双のダンスをする布団とか?」


 友人は何も言わずにうんうんと小さく肯いている。


 どちらも面白いということだろうか。


 よくよく考えると友人が俺のことを否定した覚えがない。いつでも俺の味方でいてくれている気がする。


「どっちも安直だよなあ……布団でいつも勝利の願掛けダンスをする天下無双の男とか? それとも、天下無双の布団の上でダンスする男とか? いや、さっきから天下無双の布団ってなんだ? 布団が強いのか?」


 俺が何も思いつかずに自虐的に呟くも、それさえも丁寧に拾って小さな笑みを浮かべてくれる友人。


 俺は友人の存在に救われているだろう。今までも何度も何度も、苦しいお題の時にただただ俺の話を聞いてくれる友人は壁打ち相手に最高だった。


 そう、まるでラバーダッキングのアヒル人形のように、無言で嫌な顔を一つせずに聞いてくれている。


「えっと、ほかに3つを組み合わせるとどんなテーマが作れそうだ? えっと、ダンス用の布団で天下無双? 布団用ダンスで天下無双? うーん、ピンと来ないんだよなあ。なんかあるかな?」


 友人はいつも答えてくれない。


 おそらく、俺が自分で答えを出すことが大事だと思ってくれているのだろう。


 ただの一言も発さずに俺のことを見つめてくれている。


「うーん……ダンスバトルで相手を自分の布団にくるんで寝かせて勝利に持ち込む天下無双の怪人布団男なんてどうだろうか?」


 友人が頷いている。


 決めてしまうか。


「決めたよ……俺が書くとしたら、これしかないんじゃないかなってな。今回は俺――」


 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 そう俺には自作小説を語り合う友だちなどいなかった。


 お題に苦しむ時だけ、居もしない友人がいる変な夢を見るのである。


 その後、俺は自分の考えた天下無双のダンスを布団の中で踊ってみた。

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